ウクライナの原子力発電所の状況 #127


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第211号(現地時間2024年2月16日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は本日、IAEA専門家チームがウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)で人員配置の状況を引き続き注視していることを明らかにした。

今週初めの2月13日、IAEAチームはZNPPの訓練センターとシミュレーターを訪問した。そこでは、中央制御室のオペレーターが自分の担当するユニットとは別のユニットのシミュレーター訓練を受けていた。オペレーターのライセンスを全6基の原子炉すべてに拡大するためだという。かつてZNPPには、1~4号機向けと5,6号機向けの、2種類のライセンスが存在した。

続く2月14日、IAEAチームはロシアの規制当局であるロステフナゾルが2,3,4号機の中央制御室でオペレーターの資格審査を行っているところを目撃した。ロシアが発行したZNPPの新たな「規定」によると、冷温停止状態にあるユニットは中央制御室に少なくとも3人のスタッフが配置されなければならず、温態停止状態(現在4号機)の場合は、その要件は4人に引き上げられる。IAEAチームは、2,3,4号機でこれら人員配置の要件が遵守されていることを確認した。

チームはまた、メンタルヘルスを含むオペレーターの再訓練の要件についても確認した。訓練センターには現在、当初の260人の指導員のうち119人がおり、放射線や防火などさまざまな分野の訓練を施している。ZNPPはIAEAチームに対して、プラントには十分な資格を有する人員がおり、すべての重要ポジションには十分な人員配置がなされていると強調している。

グロッシー事務局長は、「ZNPPの人員配置の状況は、戦時下の極めてストレスが大きい労働環境など、原子力安全およびセキュリティに関連する主な懸念事項の1つ。スタッフの数は、過去2年間で半減している。サイトは停止状態にあるが、十分な資格を有するスタッフが必要だ。IAEAチームは今週、スタッフの訓練に関する情報を得たが、極めて重要な問題であることから、今後もこの問題を注視していく」と述べた。

今週、サイトから数キロ離れた多くのZNPPスタッフが住むエネルホダルの町に無人機攻撃があり、IAEA専門家チームは、被害状況の確認のため、エネルホダルを訪れた。

ZNPPを保護するための5つの具体的原則の遵守を監視するというIAEAの任務に従い、IAEAチームは、14日午後にエネルホダルが4度の無人機による攻撃を受けたとプラント側から報告された数時間後、同町への立ち入りを要請し、15日出向いた。人的被害は報告されていない。

チームは、4つの攻撃現場のうち2か所に案内された。1つは、ZNPPの通信用として使用されているエネルホダル市庁舎で、窓の損傷など、建物正面に大きな損傷とがれきが散乱している状況を確認した。しかし、撤去されたとされる無人機の残骸は確認されなかったため、今回の被害が前日の無人機による攻撃に直接関連するものなのか、それとも以前から受けていた被害の結果なのかは確認できなかった。

もう一つは校庭で、IAEAチームは、壊れた窓を確認した。無人機の残骸はなく、彼らの到着前に撤去されたと伝えられた。

この1週間、IAEAチームは、ZNPPから少し離れたところからの爆発音を引き続き耳にしている。このことは、原子力安全およびセキュリティに対する潜在的な危険を常に想起させるものである。5つの具体的原則に従い、グロッシー事務局長は、欧州最大の原子力発電所であるZNPPに脅威を与えるような、いかなる軍事行動も控えるよう、すべての当事者に改めて勧告した。

IAEAチームはZNPPサイトで、原子炉建屋、安全システム室、タービン建屋、2号機の非常用ディーゼル発電機など、引き続き巡回を行った。IAEAチームは、使用済燃料プールの冷却ポンプ付近で潤滑油の漏洩を、同じ安全システム室の別のポンプで水漏れを確認した。ZNPPはその後、IAEAチームに対して、潤滑油は除去されたと報告した。IAEAチームは、これらについて引き続きフォローしていく。

なおIAEAチームは、2号機のタービン建屋の西側への立ち入りを許可されていない。

IAEAチームはまた、4台の新たなディーゼルボイラーが先週、既存の廃水が処理されたため、停止したとの報告を受けた。処理に十分な量の廃水が蓄積されれば、稼働が再開されるという。

プラントの9台の可搬式ディーゼルボイラーは、最近の暖かな気温により、停止されたままである。地域暖房は、ザポリージャ火力発電所や工業地域にある大型ボイラー、温態停止状態の4号機によって供給されている。

ウクライナの他の4サイトに駐在するIAEAチームは、空襲警報が頻繁に鳴り響くなか、活動を継続している。フメルニツキーのチームは2月9日と14日に、避難を余儀なくされ、リウネのチームは2月15日に避難した。チョルノービリ・サイトのIAEA専門家チームは今週交替し、現在同サイトに駐在しているのは22番目のチームとなる。

IAEAはまた、機器やその他の支援を通じて、ウクライナの原子力安全およびセキュリティを引き続き支援している。今週、日本と欧州連合(EU)からの特別拠出金により、試料中の放射性核種組成の同定・分析に使用する分光計と、危険物の安全な取り扱いを支援する実験装置が調達された。これら機器は、フメルニツキーと南ウクライナの各原子力発電所に納入された。また、分光計が追加調達され、年内に納入される予定である。今週実施された納入は、紛争が2年前に始まって以来37回目となる。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-211-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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