ウクライナの原子力発電所の状況 #131


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第215号(現地時間2024年3月8日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は今週、ロシアのV. プーチン大統領と会談した。紛争中の原子力、放射線事故を防止するためのIAEAの継続的な取組の一環。

グロッシー事務局長は、水曜日(3/6)のプーチン大統領との会談を「専門的かつ率直なもの」と表現。2年間ロシアが支配しているウクライナ南部のザポリージャ原子力発電所(ZNPP)における依然として重大な原子力安全およびセキュリティのリスクを低減することの重要性を主眼に議論した。

プーチン大統領との会談は2度目。前回は2022年10月に、サンクトペテルブルグで行われた。1か月前の2月7日にグロッシー事務局長は、4度目となるZNPP訪問を果たしたばかり。キーウでは、V. ゼレンスキー大統領とも会談した。

グロッシー事務局長はソチで行われた今回の会談後、次のように述べた。

「繰り返し述べているように、私は国境をまたぐ深刻な原子力事故の危険性を低減するため、双方に働きかけている。誰も原子力災害から得るものはなく、事故を防ぐためにあらゆる手立てを尽くさなければならない。これは、今週会談したプーチン大統領をはじめとするロシア高官らに対する私のメッセージでもある」

ソチでの会談中、グロッシー事務局長は、欧州最大の原子力発電所であるZNPPにおける原子力安全およびセキュリティの状況が依然として不安定であり、紛争当初に事務局長が概説した原子力安全およびセキュリティの7つの柱のうち、6つに全面的にまたは部分的に抵触するものであることを改めて強調した。

事務局長はまた、最大限の軍事的抑制と2023年5月30日に国連安全保障理事会で確立された5つの具体的な原則の遵守を改めて求めた。

ZNPPに駐在するIAEA専門家チームは今週、爆発音や施設からそう遠くない場所での軍事行動を示す兆候を継続して耳にしている。今週に入って3回、数分間に数回の連続した爆発があり、昨日(3/7)の夕方には1回、今朝には複数回の爆発があったという。プラント近くのエリアから重火器が使用されたと見られる。

3月1日、IAEA専門家チームは、ZNPPから少し離れたところから爆発音を耳にした。翌朝、プラント側はチームに対して、多くのプラントスタッフが住むエネルホダルの市庁舎から数百メートル離れた公園で砲撃があったことを報告した。IAEA専門家チームは同日中に現地に赴いたが、使用されたとされる弾薬の残骸はすでに撤去されていると伝えられた。また、樹木の損傷や地表の痕跡は確認できたが、実際に砲撃があったかどうかは判断できなかった。

ZNPPの脆弱な原子力安全およびセキュリティの状況を浮き彫りにするものとして、プラントは、唯一残る330kV予備送電線が2月20日に切断されてから2週間以上、予備の外部電源を喪失した状態が続いている。その結果、ZNPPは、紛争前に4系統利用可能であった750kV送電線のうち、唯一機能している1系統のみに依存している。330kV送電線は、少なくともあと1週間は復旧する見込みはないという。

ZNPP1号機では、当初計画されていた安全システムや電気機器を除き、保守作業を開始した。安全システムや電気機器の保守作業は、330kV送電線が復旧するまで延期するという。

IAEA専門家チームはまた、ZNPPの中央制御室の運転員のライセンスに関する情報収集を継続している。ロシアの規制当局であるロステフナゾルのZNPP原子力・放射線安全検査局の地域責任者は先月後半、訪問中のIAEAチームに対して、合計143件の運転員のライセンス申請を受理し、そのうち91件に対してライセンスが発給されたと伝えた。ZNPPは、現在の6基の停止状態に対して十分なスタッフが揃っているとしている。

グロッシー事務局長は、「プラントのスタッフの配置状況は依然、原子力安全およびセキュリティにとって重大な問題であり、今後も注意深く監視していく」と述べた。

IAEAチームは今週サイトを巡回した際、臨時の緊急時対応センターを訪れた。センターでは、ZNPPでの緊急事態への準備と対応の取り決めは臨時の緊急時計画の下で継続しているが、新しい計画が今年中に策定されるとの報告を受けた。また、大規模な訓練が2024年後半に計画されているという。

さらに、IAEA専門家チームは、ZNPPの電気・機械管理庫を訪れ、それぞれの管理庫にスペア部品があることを確認し、保守に不可欠なスペア部品が利用できる状態にあるかを評価した。ZNPPはIAEAチームに対して、サイトには今後の保守や現在停止中の原子炉に必要なスペア部品があり、スペア部品はロシアから提供されていることを伝えた。

その他、今週の巡回中、チームはZNPPの固体放射性廃棄物の現在の管理状況を視察したほか、3,5号機のタービン建屋を訪問した。今回もまた、立ち入りは制限された。IAEAチームは建屋の西側部分や5号機のタービン建屋1階にあるプラント設備に立ち入ることができなかった。IAEAチームは、近日中にこれらのエリアへの立ち入りが可能になると見ている。

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所とチョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、一部の施設では空襲警報が頻繁に鳴り響くなど、困難な戦時状況下にあるなか、原子力安全およびセキュリティは維持されていると報告している。チョルノービリでは、今週初めにIAEA専門家チームが交替した。

今週、IAEAは原子力安全およびセキュリティ確保の支援のため、ウクライナに38回目の機器納入を実施した。汚染サーベイメータと保障措置装置がVostokGOKとチョルノービリ・サイトに納入された。これらは、英国とEUの寄付によるもの。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-215-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

お問い合わせ先:情報・コミュニケーション部 TEL:03-6256-9312(直通)