ウクライナの原子力発電所の状況 #132


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第216号(現地時間2024年3月15日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は本日、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)において3週間以上前に切断された予備送電線の接続が復旧したことを明らかにした。ZNPPが直面する根強い原子力安全およびセキュリティのリスクが改めて浮き彫りにされている。

ZNPPの330kV予備送電線への接続は、現地時間木曜日(3/14)の午後6時過ぎに復旧し、過去1年半にわたり8回の外部電源喪失に見舞われたZNPPのバックアップ体制を強化する。

330kVの予備送電線は2月20日、ドニプロ川対岸で起きた事象により接続が失われ、ZNPPの外部電源は唯一残った750kV送電線に頼らざるを得ない状況であった。紛争前、欧州最大の原子力発電所であるZNPPは、4系統の750kV送電線と6系統の330kV予備送電線、計10系統の送電線が利用されていた。

グロッシー事務局長は、「昨晩、接続が復旧したが、ZNPPの電源状況が極めて脆弱かつさらなる混乱の危険性があるという事実は変わらない。この巨大な原子力施設の原子力安全およびセキュリティ状況は、深く憂慮すべきだ」と述べた。

さらに、ZNPPに駐在するIAEA専門家チームの報告によると、爆発音やZNPPからそう遠くない場所での軍事行動を示す兆候が続いている。この1週間毎日、サイト周辺で爆発音があり、3/8の朝と夕方、そして翌日(3/9)の朝と深夜にも近くで爆発があった。水曜日(3/13)には、IAEAチームは約13回の砲撃を耳にした。

グロッシー事務局長は、「原子力発電所付近での軍事行動という、かつては想像できなかったことが、日常の現実となっている。状況は改善されておらず、この悲劇的な戦争が続く限り、プラントは危険なままである。ゆえに、私は、最大限の抑制と昨年5月に国連安全保障理事会で打ち出された5つの具体的原則の完全な遵守を再び勧告する」と述べた。

プラント側はZNPPに駐在するIAEA専門家チームに対して、今週ZNPPサイトの境界外のエリアでドローン攻撃があったことを伝えた。死傷者の報告はなかった。ドローン攻撃は、3/12の火曜日、現地時間午後6時頃に起きた。ZNPPが専門家チームへ最初に報告したのは3/13の午後1時で、すぐさま専門家チームは、サイト境界線からおよそ550mにある報告のあった場所に向かった。チームは、ディーゼル燃料貯蔵タンクから100mほど離れた、オフサイトのディーゼル燃料貯蔵エリアを囲むコンクリート壁のすぐ外側に、直径約70㎝の浅い空洞があるのを確認した。チームはまた、このエリアで部分的に焼けた金属片やプラスチックを確認した。

オフサイトのディーゼル燃料タンクには、ZNPPの原子炉6基の非常用ディーゼル発電機(EDGs)用の追加燃料が貯蔵されている。オンサイトのそれぞれのEDGに貯蔵されている燃料と合わせると、プラントは現在、外部電源を喪失した場合、EDGを20日以上運転するのに十分なディーゼル燃料を保有している。

攻撃を受けた地点から約40m離れた倉庫など、施設への損傷はなく、原子力安全に対する影響はなかった。現在の証拠や目視観察では、IAEAは、この事象がドローン攻撃、あるいは別の発射体によるものなのか、確認できない。

サイトに駐在するIAEA専門家チームは今週交代したが、ZNPPの巡回など、原子力安全およびセキュリティの評価を継続して実施している。

IAEAチームによると、4台のディーゼルボイラーは、液体廃棄物処理のため稼働を再開した。最近設置されたこれらの設備は、2月初旬には稼働していたが、十分な量の液体を処理する準備ができるまで1か月あまり停止していた。

スタッフの健康状態を管理する継続的な努力の一環として、IAEAチームは、サイトの心理学者から、すべてのスタッフの継続的な評価について説明を受け、そのなかには中央制御室とタービンのオペレーターに対する追加評価もあった。

IAEAチームはまた、訓練センターで運転スタッフのシミュレーター訓練を視察し、ZNPPの訓練センターや露の規制当局であるロステフナゾルの関係者と、スタッフが運転「ライセンス」を得るために従うべきプロセスについて議論した。

IAEAチームは、ZNPPの6基すべてが冷温停止状態、あるいは温態停止状態にあることや外部電源や冷却水の状況など、ZNPPの現況をふまえた訓練がなされていると伝えられた。ZNPPは、現在停止状態にある原子炉を維持するのに十分なライセンスを持った運転スタッフがいるとしている。

グロッシー事務局長は、「プラントの人員状況は、原子力安全およびセキュリティにとって極めて重要な問題であり、今後も注意深く監視していく」と述べた。

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所とチョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、一部の施設では空襲警報が頻繁に鳴り響くなど、困難な戦時状況下にあるなか、原子力安全およびセキュリティは維持されていると報告している。

フメルニツキー原子力発電所のIAEAチームは、今週それぞれ3/10と3/11に4回、サイトの避難所に避難しなければならなかった。IAEAチームは、タービンシャフトの不具合を調査するため、水曜日(3/13)に2号機を手動で停止させたとの報告を受けた。この事象による原子力安全およびセキュリティへの影響はなかった。

リウネ、南ウクライナ、フメルニツキーに駐在するIAEA専門家は、今週交代予定である。

IAEAは、ウクライナの原子力安全およびセキュリティを維持すべく、機器の供給を継続している。今週、紛争が始まってから40回目となる2回の納入が行われた。α、β線放射線測定システム、ポータブルラジオ通信機器、個人防護具がリウネとチョルノービリ・サイトに納入された。機器は、EUと英国からの拠出金によって調達された。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-216-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

お問い合わせ先:情報・コミュニケーション部 TEL:03-6256-9312(直通)