ウクライナの原子力発電所の状況 #133


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第217号(現地時間2024年3月22日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長によると、ウクライナで広範な軍事活動が報告されるなか、ザポリージャ原子力発電所(ZNPP)が本日、唯一残る主送電線への接続を約5時間にわたり喪失したことを明らかにした。紛争中の原子力安全およびセキュリティに対する危険性が常態化している状況が改めて浮き彫りにされている。

ZNPPに駐在するIAEA専門家チームによると、ZNPPは現地時間午前6時10分頃、750kV送電線からの電力供給を停止した。断線の原因はすぐには分からなかったが、プラント側には、ドニプロ川対岸の、サイトから95㎞ほど離れた場所で送電線がショートしたとの連絡があった。

その後、750kV送電線に物理的な損傷は認められなかったため、午前11時2分に再接続された。ZNPPはここ2週間、サイト周辺のさまざまな場所で起きている軍事行動により、繰り返し電源を喪失している。

750kV送電線が利用できない間は、ZNPPは原子炉の冷却や安全機能維持に必要な電力を唯一の330kV予備送電線から得ていたが、この予備送電線自体も3週間以上停止し、ようやく3月中旬に復旧したばかりである。外部電源喪失に備え、非常用ディーゼル発電機(計20台)は、スタンバイ・モードで利用可能な状態にある。欧州最大の原子力発電所であるZNPPは紛争以前、750kV送電線4系統、330kV送電線6系統、計10系統の外部送電線を備えていた。

南ウクライナ原子力発電所(SUNPP)に駐在するIAEAチームもまた、SUNPPが一時的に750kV1系統と330kV1系統が切断されたことを報告した。750kVの送電線が再接続されるまでは、他の送電線へのアクセスは可能であり、出力は落としたものの、運転は継続された。

グロッシー事務局長は、「この壊滅的な戦争が続く限り、ザポリージャ原子力発電所だけでなく、ウクライナの他の原子力発電所も毎日、極めて現実的な危険に直面し続けていることを改めて思い知らされた。ザポリージャ原子力発電所の外部電源の状況は、綱渡りの状況だ」と述べた。

本日の外部電源喪失やウクライナでの軍事行動の報告は、ZNPPが今週初めに「プラント周辺の全般的な状況」を理由に、原子炉安全システムの一部で計画されていたメンテナンスを延期した後に起こったもの。今週また、ZNPPに駐在するIAEAチームは、ZNPPサイト外のエリアからの砲撃や機銃掃射と思われるものなど、サイトからさまざまな距離で毎日発生する爆発音の数が増えていることを報告した。

グロッシー事務局長は、ZNPPの一部メンテナンスの延期はここ最近で2度目であり、原子力安全およびセキュリティに対する懸念が高まったとしている。1度目の延期は先月のこと。ZNPPが唯一残った予備送電線との接続を切断され、1号機の安全システムに係わる定期メンテナンス作業が延期された。先週の330kV送電線の復旧後、プラントは、水曜日に再び延期が決定する前まで、この作業を再開し、必要な準備試験を実施するつもりであった。

延期決定後、予定されていたメンテナンス作業に先立ち、オフラインで試験されていた1基の安全トレインが再び稼働した。ZNPPの原子炉にはそれぞれ、安全トレインと呼ばれる3つの独立した冗長システムがあり、安全システムを構成している。ただし、同じユニットの電源トランスのメンテナンスはすでに開始されており、ユニットは引き続き外部電力を受電することはできるが、電気的には絶縁されている。

グロッシー事務局長は、「欧州最大の原子力発電所(ZNPP)が砲撃される、外部電源が喪失するという継続的な危険に世界の注目がまさに集まっている。しかし、原子力事故のリスクを防ぐために、メンテナンス、人員配置、スペア部品の入手可能性など、引き続き注視しなければならない課題が他にもある。それらはすべて、プラントの原子力安全およびセキュリティに対する我々の深刻な懸念の一部となっている」と述べた。

今週の延期決定前に、IAEAチームは、2024年中にZNPPの1,2,6号機のメンテナンス期間の延長が計画されていると通告されていた。

メンテナンス活動のさらなる延期は、ZNPPの今年の予防保守計画の実施に悪影響を与える可能性がある。グロッシー事務局長は先月、IAEA理事会への報告書の中で、「メンテナンス活動の延期が継続した場合、安全システムや部品の劣化により、時間の経過とともに原子力安全に影響を及ぼすことが予想される」と述べている。

先週、IAEAチームは全6基の中央制御室や6号機の原子炉建屋と安全システム室、さらに6号機と1号機の非常用給水ポンプとタンクの視察を実施したほか、予定されていたいくつかの非常用ディーゼル発電機の試験を視察した。チームはまた、5号機のタービン建屋も訪問したが、建屋西側部分の視察は制限された。巡回中に原子力安全に係わる問題は確認されなかったという。

またIAEAチームは、約1,200㎥の液体廃棄物とホウ酸水の処理後、4台のディーゼルボイラーを停止した、との報告を受けた。

フメルニツキーとリウネの各原子力発電所、そしてチョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、週を通して何度も空襲警報が発せられたにもかかわらず、原子力安全およびセキュリティは維持されていると報告している。フメルニツキー2号機のタービン建屋のメンテナンスは進行中であり、リウネ4号機は計画停止中である。

IAEAは今週、ウクライナにおける原子力安全およびセキュリティ維持のための包括的な支援プログラムの一環として、ウクライナに対して41回目の機器納入を行った。ウクライナ非常事態庁など関係組織は、ポータブル電源、データ収集システムなどの関連付属品を含む放射線検出および監視機器を受領した。これら機器は、米国エネルギー省国家核安全保障局(DOE/NNSA)から寄贈されたもの。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-217-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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