ウクライナの原子力発電所の状況 #134
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第218号(現地時間2024年3月28日)[仮訳]
ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は、同国南部のザポリージャ原子力発電所(ZNPP)近くで発生している軍事活動や複数サイトでの空襲警報、砲撃による北東部の研究施設での外部電源喪失など、ウクライナにおける原子力安全およびセキュリティが危険に晒され続けていることを明らかにした。
グロッシー事務局長は、「既に2年以上、ウクライナの原子力安全およびセキュリティは常に危険に晒されている。ウクライナだけでなく、人々と環境に害を及ぼし得る原子力事故のリスクを最小限に抑えるためにあらゆることをする決意だ」と強調した。
またグロッシー事務局長は、「これまでのところ、我々は何とか状況を安定させてはいるが、この1週間でまた明らかになったように、ウクライナの原子力安全およびセキュリティは、依然として極めて脆弱である。片時も油断できない」と語った。
欧州最大の原子力発電所であるZNPPでは、同サイトに駐在するIAEA専門家チームがこの1週間、プラントからさまざまな場所で発生している爆発音を毎日耳にしている。専門家チームによると、何回かの爆発音はサイト近くで発生したものと見られ、おそらく砲撃によるものと分析している。3月22日の夜と昨日には、近くで小銃の発砲音を耳にした。さらに昨日は、空襲警報により、IAEAチームが予定していたZNPPの乾式使用済燃料施設への視察はその日の後半まで延期された。
このような困難のなか、IAEAチームはこの1週間、使用済燃料プールの水位、使用済燃料の冷却ポンプや2基の蒸気発生器の稼働状況、安全システム室を確認するため、5号機の原子炉建屋を訪問するなど、サイトの定期巡回を継続して実施している。液体漏れやホウ酸の痕跡は確認されなかった。チームはまた、4号機のタービン建屋で稼動しているポンプやその他の機器を確認し、同号機の非常用ディーゼル発電機の試験を視察、また、4号機と5号機の安全システムの電気室を視察した。
IAEAチームがこの1週間実施した巡回では、原子力安全に関連する懸念事項は確認されなかった。しかし、タービン建屋の一部やZNPPの冷却池の隔離ゲート、ザポリージャ火力発電所近くの330kV開閉所など、原子力安全およびセキュリティに重要なすべてのエリアへのIAEA専門家によるアクセスを、ZNPP側がタイムリーかつ適切に未だ許可していない。IAEAは、ZNPPのタービン建屋の1つに軍や軍事車両の存在に関連するソーシャルメディアの報道や画像について承知している。ZNPPのタービン建屋にそのような車両が存在することは、事務局長の以前の声明のなかでも報告されている。
1号機の安全システムの一部のメンテナンス作業については、ZNPPが先週再び作業の延期を決定した後、未だ再開されていない。しかし、その他計画されているメンテナンス作業は、ZNPPの他の場所で実施されている。
ZNPPはIAEA専門家チームに対して、清掃のため、5号機のスプリンクラー池の1つの排水を開始したと伝えた。清掃は約3週間かかる見込みで、その後、6号機のスプリンクラー池も清掃される予定。5号機と6号機は、冷温停止状態にあるZNPPの5基のうちの2基。4号機は、熱供給用の蒸気を発生するために温態停止状態にある。
ウクライナ原子力規制当局によると、北東部の都市ハリキウでは3月22日、紛争前まで医療・産業利用のRI製造のために利用されていた研究開発施設が砲撃により、外部電源を喪失した。同施設は現在、非常用ディーゼル発電機に頼っている。現場の放射線レベルはすべて正常という。
ハリキウ物理技術研究所(KIPT)にある未臨界中性子源施設は、紛争開始時に深い未臨界状態へと移行されており、放射能インベントリは低い。2022年11月、IAEAの保障措置・核セキュリティ専門家ミッションは、同施設が砲撃により甚大な被害を受けたことを確認したが、放射性物質の放出や申告された核物質の転用は確認されなかった。
この施設は紛争開始以来停止されていることから、現在のところ、公衆の安全にいかなる影響を及ぼすような事態は想定していない。しかし、明らかに、外部電源を喪失した原子力施設をそのままにしておくことは普通ではなく、この戦争による原子力安全のリスクが再び浮き彫りになっている。「この施設の状況を引き続き監視していく」とグロッシー事務局長は述べた。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所、そしてチョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、この1週間何度も空襲警報が発せられたにもかかわらず、原子力安全およびセキュリティは維持されていると報告している。フメルニツキー2号機のタービン建屋のメンテナンスは順調に進行中であり、リウネ4号機は計画停止中である。チョルノービリ・サイトのIAEA専門家チームは今週交代した。
IAEAは、ウクライナにおける原子力安全およびセキュリティ維持に必要な機器の納入を引き続き行っている。今週、リウネ原子力発電所は、非破壊検査用のポータブルX線装置を受領した。これは、英国による拠出で調達されたもの。紛争開始以来、ウクライナへの機器納入は42回目で、支援総額は900万ユーロ以上に上る。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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