ウクライナの原子力発電所の状況 #135


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第219号(現地時間2024年4月4日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は本日、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)で予備送電線への接続が切断されたことを明らかにした。紛争中の根強い原子力安全およびセキュリティのリスクが改めて浮き彫りとなっている。

ZNPPに駐在するIAEA専門家チームの報告によると、330kV予備送電線が現地時間の午前10時6分に切断され、外部電源を750kV主送電線に全面的に依存する状況となった。紛争前は、ZNPPには750kV主送電線4系統と330kV予備送電線6系統が接続されていた。

原因はすぐに明らかにはならなかったが、同地域内外で軍事行動があったとの報告がある。IAEAチームは今朝、地上で多数の砲撃音を耳にし、また水曜日にもロケット弾の発射音を耳にしている。

グロッシー事務局長は、「この壊滅的な戦争中に繰り返し発生しているように、欧州最大の原子力発電所であるZNPPは、原子炉の冷却やその他の原子力安全およびセキュリティ機能維持に必要かつ重要な電力源の1つを失った。今朝の出来事は、この主要施設が直面しているまさに現実的な危険を改めて浮き彫りにしている」と述べた。

これら最近の事象以前にも、IAEA専門家チームはこの1週間、サイト近郊で毎日爆発音を耳にしている。

2022年8月以降、ZNPPは外部電源喪失を伴う事象を8回繰り返しており、直近では昨年12月に発生した。330kV予備送電線も今年初めに3週間切断されたが、750kV主送電線は利用可能だった。

これとは別に本日、ウクライナの規制当局であるウクライナ国家原子力規制検査局(SNRIU)は、紛争前に医療・産業利用のRI製造に使用されていたウクライナ北東部の研究開発施設が、再び砲撃により再度外部電源を喪失したことをIAEAに報告した。同施設は現在、2024年3月22日から29日までの1週間にわたる停電時と同じく、非常用ディーゼル発電機に依存している。SNRIUによると、サイト内の放射線量は通常の範囲内にあるという。

ハリキウ物理工科大学(KIPT)にある未臨界中性子源施設は、紛争開始時に深い未臨界状態(長期停止モード)へ移行しており、放射性物質のインベントリは少ない。2022年11月、IAEA保障措置・核セキュリティ専門家ミッションは、同施設が砲撃により甚大な被害を受けてたことを確認したが、放射性物質が放出されたり、申告された核物質が転用された兆候はなかった。

グロッシー事務局長は、「この施設は2年以上前に軍事紛争が始まって以来閉鎖されているため、現在のところ、公衆の安全にいかなる影響を及ぼすような事態が起きることは想定していない。しかし、今回の事態もまた、軍事紛争中の原子力安全およびセキュリティに対する潜在的なリスクを浮き彫りにしており、我々は引き続き施設の状況を監視していく」と述べた。

IAEAチームは、ZNPPで今週初め、発電所スタッフの多くが住んでいる近隣の町エネルホダルの冬の暖房シーズンが正式に終了したことを受け、唯一蒸気を供給している原子炉の今後の運転状況について評価しているとの報告を受けた。

ZNPPは2022年9月に送電系統への電力供給を停止したが、6基のうち少なくとも1基は、地域暖房とサイト内の液体廃棄物処理用のプロセス蒸気を供給するために、温態停止状態を維持してきた。今年初め、プラントはこのような廃棄物を処理するために新たに設置された4台のディーゼルボイラーの運転を開始し、4号機は主にエネルホダルへの蒸気供給を継続するため、温態停止状態を維持していた。その他5基の原子炉は冷温停止状態にある。

しかし今週、現地に駐在するIAEA専門家チームは、4月1日にエネルホダルが2023-24年の暖房シーズンが終了し、市の熱供給設備を停止するとの決定を受け、ZNPPも4号機の状況を見直しているとの報告を受けた。

グロッシー事務局長は、「4号機を冷温停止状態に移行させることは、原子力の安全性およびセキュリティにとってより好ましいが、今朝の電源喪失が改めて示したように、ZNPPの状況が依然として非常に不安定であるという事実から目を逸らすべきではない」と述べた。

IAEAチームは今週、原子炉の一部やZNPPの取水口および放水路を含むサイト内の視察を継続し、冷却塔とそれらポンプステーションも視察した。

上水道施設では、IAEAチームは、ZNPPの冷却池は現在、スプリンクラー池と近隣のザポリージャ火力発電所の放水路から約400㎥/hの水が供給されているとの報告を受けた。11基の井戸から供給される水は、停止中の6基の原子炉に十分な冷却水を供給しているが、ZNPP冷却池の水の貯蔵量を維持するにはまだ不十分である。

4号機の原子炉建屋を訪問した際、IAEAチームは化学分析研究室と安全システム室を視察した。ホウ酸の漏れや痕跡はなかった。。しかし専門家らは、ECCS(緊急炉心冷却システム)用の1号機サンプを訪問した際に、サンプ取入口の1つに結晶化したホウ酸らしきものがあることを確認した。ホウ酸水は、原子力安全の機能を維持するため一次冷却系に使用されている。漏えいが発生する可能性はあるが、原子力安全にとって重要なシステムに対する潜在的な損傷を防ぐためには、迅速な調査、修理、清掃が極めて重要である。

この1週間の巡回中、IAEAチームは、2023年11月に最後に訪れた冷却池の隔離ゲートおよび6号機のタービン建屋の西側部分へのアクセスが許可されなかった。以前報告したとおり、ZNPPはIAEA専門家に対して、原子力安全およびセキュリティに重要なあらゆるエリアへのアクセスをタイムリーかつ適切に許可していない。

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所、そしてチョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、この1週間何度も空襲警報が発せられたにもかかわらず、原子力安全およびセキュリティは維持されていると報告している。フメルニツキー2号機のタービン建屋のメンテナンスは完了し、原子炉は通常運転を再開した。リウネ4号機は計画停止中である。南ウクライナおよびリウネ・サイトのIAEA専門家チームは今週交代した。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-219-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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