ウクライナの原子力発電所の状況 #142


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第226号(現地時間2024年5月3日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は本日、IAEA専門家チームの話として、火曜日(4/30)にウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)付近で100発以上の銃声を耳にしたことを明らかにした。プラントの訓練センター近くに飛来したドローンと交戦したものと見られる。

IAEAは、ZNPPの6号機と訓練センターの近くに、ドローン操縦士の訓練基地とドローン発射台が配備されているとの報道を承知している。グロッシー事務局長は、「ZNPPに駐在するIAEA専門家チームは、ドローンが発射された証拠も発射台がサイト内に存在することも確認していない。さらに、5つの具体的原則によれば、プラントからいかなる攻撃も固く禁じられている」と述べた。

IAEAチームは、サイト周辺でほぼ毎日戦闘があることを報告している。木曜日(5/2)午後には1時間以内に3回、欧州最大の原子力発電所であるZNPPに駐在するIAEAチームは、合計100発を超えるライフル銃の発砲音を耳にした。木曜日、ZNPPはIAEA専門家チームに対し、ロシア軍がZNPPの訓練センター付近でドローンと交戦したが、被害や死傷者は出ていないと報告した。IAEA専門家チームは、ドローンの存在を確認できていない。

グロッシー事務局長は、「今回の軍事行動は、この巨大な原子力施設に重大な原子力安全およびセキュリティ上の課題を突き付けており、不安定な状況が根強く続いていることを示している」と述べた。

IAEAザポリージャ支援/調査ミッション(ISAMZ)は今週、ZNPPと2024年以降に計画されているメンテナンス作業に関する協議を実施した。プラントは、2年以上前に紛争が開始されてから、ZNPPで実施されている大規模なメンテンナンス作業について、延期されていた作業を実施する計画であることを確認した。

グロッシー事務局長は、「いかなる原子力発電所においても、安全面で重要な機器の確実な稼働を確保するためには、厳格な手順が必要である」と述べ、「武力紛争の渦中にある最初の発電所であるZNPPの安全にとって、重要機器の維持は複雑かつ最重要である」と強調した。

IAEAは、1号機の安全にとって重要な機器のメンテナンス作業が5月中旬に再開される予定であり、3つの安全トレインのうち、最初のものから着手される予定との報告を受けた。1号機のメンテナンス作業は今年半ば頃までに完了し、同時期に6号機の3か月間のメンテナンス作業が開始される予定。続いて、2号機のメンテナンス作業が約6か月間実施予定であり、2024年後半にも開始される。

ISAMZは、一部の安全システムは、部品の分解と再組み立てなど、包括的な方法で整備されるとの報告を受けた。IAEA専門家チームは、可能な限り、これらメンテナンス作業の一部を見学できるよう要請する予定である。

ISAMZチームは今週、ZNPPサイトで定期的な巡回を実施した。チームは昨日、750kVの開閉所を訪問、そこでは750kVの主要送電線4系統のうち、1系統のみが接続されている状況を確認した。チームはまた、紛争中のため、他の送電線の復旧作業は現在行われていないとの報告を受けた。チームは、ザポリージャ火力発電所(ZTPP)の330kVの開閉所の訪問許可を引き続き求めているが、依然拒否されている。

IAEAチームは本日早朝、ZNPP冷却池と上水道施設を訪問し、ZTPP放水路の隔離ゲートの健全性を確認するとともに、ZNPP冷却池の測定地点を視察することができた。しかし、ZNPP冷却池の隔離ゲートへの視察要請は「セキュリティ上の理由」により許可されなかったため、補強の状況やゲートの全体的な健全性を確認することができなかった。IAEAが最後にZNPP冷却池への視察を許可されたのは2023年11月である。

この1週間、IAEA専門家チームは、1号機と5号機の原子炉建屋と安全システム室を訪問し、原子炉および使用済み燃料プールの冷却ポンプを視察した。原子力安全に係わる問題は確認されなかった。1号機では、IAEAチームは、今後予定されている安全システムの熱交換器のメンテナンスの準備作業を視察した。また、1号機と2号機のタービン建屋も訪問し、一部の機器を視察したが、今回も建屋西側への立ち入りは許可されなかった。

さらに今週、ZNPPはISAMZに対し、5月中旬に予定されている冷却システムに関連した緊急時訓練の視察を許可すると通知した。

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所、そしてチョルノービリ・サイトに駐在するIAEAチームは、原子力安全およびセキュリティは維持されていると報告している。リウネのIAEAチームは、750kV送電線の2系統のうち、1系統が4月26日の早朝から13時頃までの数時間、接続できなかったとの報告を受けたが、プラントの運転には影響はなかった。

今週、IAEAはウクライナへの原子力安全およびセキュリティに関連する2つの新たな機器の調達を実施した。機器の調達はこれで46回目。南ウクライナ原子力発電所は、高放射線環境下で使用できるビデオ監視システムとガンマ線スペクトロメーターを受領した。機器は、オーストラリアとEUの資金によって購入されたもので、サイトの原子力安全およびセキュリティの強化に役立つことが期待されている。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-226-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~