ウクライナの原子力発電所の状況 #145


ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 229号(現地時間2024523日)[仮訳]

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長が明らかにしたところによると、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)では、回路のショートが原因で、今日の午後、唯一残っていた750kVの外部送電線への接続を一時喪失し、330kVの予備送電線に依存することになった。

現地時間午後1時31分、ロシア支配地域にあるZNPPの750kV屋外開閉所から約6km離れた場所で発生した750kVのドニプロフサ送電線の切断は、ZNPPにおける原子力安全とセキュリティの極めて不安定な状況を改めて浮き彫りにした。ZNPPは現場に駐在するIAEA専門家に対し、ショートが原因であると報告し、それ以上の詳細は明らかにしなかった。ZNPPによると、午後4時49分に送電線が再接続された。

この事象はまた、先週示されたように、ウクライナの他の場所での電力インフラへの攻撃に関する懸念を増幅させ、ZNPPのみならずウクライナ国内で稼働中の他の原子力発電所(NPP)へのリスクを浮き彫りにしている。750k送電線が切断されたとき、ZNPPは唯一の330kV予備送電線から外部電力を受け取っており、本日の事象が示すように、送電線切断に対して特に脆弱である。紛争前ZNPPでは、4系統の750kV送電線と6系統の330kV送電線の利用が可能であった。

「欧州最大の原子力発電所であるZNPPにとって、1系統または2系統の送電線に依存することは深刻な懸念材料であり、明らかに持続可能ではない。我々の懸念はウクライナ全土で稼働中の原子力発電所にも及んでおり、サイト外の電力供給の中断は原子力安全に非常に深刻な影響を与える可能性がある」とグロッシー事務局長は述べた。

ZNPPは今週初め、近郊の工業地帯にある輸送工場がドローンで攻撃されたことをIAEAに報告し、多少の被害は出たが死傷者は出なかったと伝えた。グロッシー事務局長は、もしZNPPサイトから約4km離れたところで起きた今週水曜日の攻撃が確認されれば、サイト自体を標的とした先月のドローン攻撃に続き、この主要原子力施設が直面する継続的な軍事面でのリスクをさらに強調することになるだろうと述べた。

ZNPPは、近隣の町エネルホダルへプラントのスタッフを輸送するために使用するバスが駐車する輸送作業場への攻撃により、民間通信ネットワークのアンテナが損傷したと発表した。

さらに、ZNPPに駐在するIAEA専門家チームは、過去1週間にわたり、プラントの多方向から爆発音を聞き続けている。

「一見すると、ZNPPの状況は、4月中旬に専門家が現場へのドローン攻撃を確認して以来、ここ数週間は比較的平静に見えていたかもしれない。しかし、これは現場の状況とは異なっており、厳然たる現実は常に危険にさらされている。現場の原子力安全とセキュリティの状況は、依然として極めて脆弱である」とグロッシー事務局長は語った。

先週、IAEA専門家チームはサイト内の視察を続け、3号機の原子炉建屋や安全システム室を訪問し、蒸気発生器や主冷却ポンプなどの主要機器や、原子炉設備を視察した。また、使用済み燃料プールポンプの交換が計画されている。

IAEAチームはホウ素の堆積を確認しなかったが、換気システムの配管からの少量の水漏れを確認し、ZNPPは今後計画されているメンテナンスの一環として修理されると述べた。チームは3号機のタービン建屋も訪問し、設備の一部を視察することができたが、やはり建屋の西側への立ち入りは許可されなかった。

IAEA専門家は、グロッシー事務局長が繰り返し強調しているように、長期的な原子力安全とセキュリティにとって極めて重要なZNPPの保守活動を監視し続けている。

既報の通り、3月から延期されていた1号機の安全システムの一部の保守作業が今週再開された。2号機の主変圧器と発電所の予備変圧器の一部の電気保守活動も今週開始した。6号機とその安全システムの冷却に水を供給するスプリンクラー池の清掃は完了し、5号機のスプリンクラー池の清掃も本日終了する予定。

さらに、IAEAチームは、1号機の非常用ディーゼル発電機の定期点検が成功裏に実施されたことを確認した。これは、特にサイトの脆弱な外部電源状況を考慮すると、定期的な実施を要する活動である。

6基すべての原子炉が冷温停止状態にあり、したがって熱も蒸気も発生しなくなったため、ZNPPはIAEAチームに対し、9基の移動式ディーゼルボイラーのうち2基を再稼働させてサイトで必要な専用の温水を製造することを通知した。

さらに、IAEA専門家らはZNPP訓練センターを訪問し、中央制御室職員がフルスコープシミュレーターで訓練を受けている様子を視察するとともに、職員の訓練についても議論した。

また今週、IAEAチームはZNPPの境界線外側にあるサイトの主要倉庫施設を訪れ、中小型の変圧器や電気制御キャビネット、さらに大型の電気・機械機器を含む幅広い電気スペア部品を検査した。いずれも適切かつ良好な状態で保管されている。

同時にIAEAチームは、電気機器の多くが西側のサプライヤーから提供され、武力紛争が始まる前に納入されたものであると指摘した。ZNPPの代表者は、スペア部品を管理するための新しいソフトウェアシステムへの移行がほぼ完了し、ZNPPがロシアの潜在的なサプライヤーから新しいスペア部品と機器を調達することもできるようになったと説明した。

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各NPPやチョルノービリ・サイトに駐在しているIAEA専門家は、過去1週間の数日間の空襲警報など、進行中の紛争の影響にもかかわらず、原子力安全とセキュリティは維持されていると報告した。

リウネNPPの4基の原子炉のうち2基は燃料補給活動を完了しており、近い将来に発電が再開される予定である。南ウクライナNPPの1基の原子炉のメンテナンスと燃料補給活動は予定通りに進んでいる。

チョルノービリ・サイトでは、IAEA専門家らが州特殊企業エコセンター(SSEエコセンター)を訪問し、地域の放射線状況を監視するために行われた活動や武力紛争の結果直面した課題について議論した。

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各NPPに駐在するIAEAチームはすべて、過去1週間でローテーションを行った。

IAEAは、ウクライナにおける原子力安全とセキュリティを維持するため、必要とされている機器や物資の提供を続けている。武力紛争開始以来47回目の納入として、医療・産業・その他を目的とした放射性物質管理に携わるウクライナの国営企業USIE Izotopは今週、英国の資金提供による核物質防護システムを受領した。この納入により、ウクライナは、約940万ユーロ相当の原子力安全・セキュリティ機器を受領した。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-229-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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