ウクライナの原子力発電所の状況 #146


ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第230号(現地時間2024年5月30日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は今週、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)における原子力事故を防止するためのIAEAの継続的な取組の一環として、ロシア高官と会談した。

火曜日(5/28)に行われたカリーニングラードでのA. リハチョフ・露ロスアトム総裁との会談では、グロッシー事務局長は、IAEAが原子力安全にとって依然として現実的な課題であると考えている要因を改めて提起。具体的には、ZNPPの外部送電線の脆弱性や原子炉冷却およびその他安全機能確保に必要な安定した水供給の必要性、人員配置や機器メンテナンスに関連する状況などを指摘した。

グロッシー事務局長が再三強調しているように、IAEAは依然不安定な、とりわけZNPPの原子力安全およびセキュリティに関連する問題について、ウクライナ、ロシア双方と連携しなければならない。

グロッシー事務局長は会談後、「ZNPPは、深刻な原子力安全およびセキュリティのリスクに直面し続けている。一瞬たりとも油断は許されない」「紛争地域に位置する欧州最大の原子力発電所(ZNPP)が直面する困難かつ前例のない状況を鑑み、当面の間、ZNPPの6基の原子炉は、冷温停止状態のままにすべきと理解している」と述べた。

グロッシー事務局長はまた、「たとえ全6基の原子炉が冷温停止状態であるにせよ、プラントの安全性およびセキュリティは極めて脆弱なままである。将来、ZNPPの原子炉を再稼働させるという決定がなされた場合(それが安全である場合)には、プラントをこれ以上危険に晒さないようにするため、原子力安全およびセキュリティに関連するすべての運転および規制面について、非常に慎重かつ詳細に検討することが先決である」と述べた。

ZNPPでは、サイトに駐在するIAEA専門家はこの1週間ほぼ毎日、プラントから離れた場所からの爆発音を耳にしている。しかし、日曜日(5/26)には、IAEAチームはサイト近くでの4度の爆発音で目を覚ました。プラント側の報告によると、プラントへの損傷はなかった。

IAEA専門家チームは今週、原子力安全およびセキュリティを監視するため、定期的な巡回を実施、1号機の非常用炉心冷却装置や2号機の主変圧器などの安全システムの一部に関する継続中ならびに計画中のメンテナンス作業を視察した。

IAEAチームは、ZNPPのメンテナンスの作業場を訪問し、そこですべての機械が稼働中であり、必要なメンテナンス作業を実施することができると伝えられた。

4号機の原子炉建屋および安全システム室の訪問の際、IAEA専門家チームは、蒸気発生器や主冷却ポンプなどの機器を視察した。全般的に清掃は良好だったが、原子炉建屋フロアには天井クレーンから出た油がいくらか付着していたほか、安全システム室の一部のフロアにはホウ素の堆積物があることを確認したが、こうした施設では珍しいことではない。ZNPPは、清掃とメンテナンスによってこれらを解消するとした。

この1週間、IAEAチームはまた、4号機と6号機の非常用ディーゼル発電機の定期的な試験が無事成功したことも確認した。

専門家チームは、5号機のタービン建屋の4階を訪問、そこで主給水ポンプや主蒸気バルブ、主コンデンサーなどの異なる種類の機器の状況を確認したが、建屋西側へのアクセスは再び許可されなかった。

IAEA専門家チームはまた、サイトの化学管理部門とも面会し、水処理に使用されている技術的なプロセスについて説明を受け、またすべての必要な消耗品や化学試薬はロシアから供給されていると伝えられた。チームはさらに、同部門にはロシアの原子力発電所からの人員を含む、十分なスタッフがいるとの報告を受けた。

ZNPPの熱機械倉庫を訪問した際、IAEAチームは、ディーゼル発電機のスペア部品や電気機器を見学した。チームは、紛争前の西側サプライヤーなどさまざまな製造者によるスペア部品やなかにはロシアのスペア部品があることを確認した。ZNPPはチームに対し、ロシアベースのスペア部品と機器のデータベースへの移行が完了したと報告した。

IAEA専門家はまた、各原子炉建屋内にある仮設シェルターを訪問した。この仮設シェルターは、本来のシェルターが使用できなくなったため、ZNPPが2022年に設置した。これら仮設シェルターには、最大1,000人が避難できるという。

夏が近づくにつれ、気温の上昇と乾燥した気候が、ZNPP周辺地域の山火事の原因となっている。先週末、IAEA専門家チームは、ドニプロ川対岸の森林火災だという火災の煙を目にし、臭いも感じた。火曜日(5/28)には、IAEAチームは750㎸の開放開閉所の南で山火事を確認したが、今週後半に鎮火されたと見られ、電気系統への損傷はなかった。

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所、そしてチョルノービリ・サイトに駐在するIAEAチームは、先週数日間、空襲警報が鳴るなど紛争が継続するなか、原子力安全およびセキュリティは維持されていると報告している。

この1週間、リウネの原子炉2基が、燃料交換/メンテナンスの計画停止が予定より早く安全に終了し、無事再稼働した。リウネ原子力発電所では現在、3基がフル稼働しており、4基目は燃料交換/メンテナンスのための計画停止に向けた準備が進められている。また、南ウクライナ原子力発電所の原子炉1基で計画されているメンテナンス作業は、予定どおり継続されている。

IAEAは、ウクライナの原子力安全およびセキュリティ維持のために必要な機器や物資の搬入を継続している。今週、IAEAは、ウクライナに原子力安全およびセキュリティ関連の機器の搬入を2件実施した。紛争開始以来、搬入件数は49件となった。フメルニツキー、南ウクライナの各原子力発電所およびUSIE Izotop(医療、産業などの放射性物質管理に携わる国営企業)は、核物質防護機器と大気探査システムを受領した。機器は、EUと英国の特別拠出金によって調達された。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-230-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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