ウクライナの原子力発電所の状況 #147
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第231号(現地時間2024年6月6日)[仮訳]
ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は今週、ウクライナのエネルギー大臣と会談した。一方、IAEA理事会では新しい報告書に詳述されている最近の動向について議論され、ウクライナの困難な原子力安全およびセキュリティ状況が再び注目を集めた。
グロッシー事務局長とゲルマン・ガルシチェンコ・エネルギー大臣は、IAEA本部で開催されている定例の理事会の合間に行われた本日の会談で、ウクライナの原子力安全およびセキュリティを支援するIAEAの継続的な取り組みについて議論した。会談の中で事務局長は、ウクライナの原子力安全およびセキュリティ状況に対して依然として深い懸念があることを指摘した。
ザポリージャ原子力発電所(ZNPP)の原子力安全およびセキュリティは、とりわけ不安定なままであり、運転中の原子力発電所とZNPPに外部電力を供給するため不可欠な変電所を含む、ここ数か月のエネルギーインフラへの攻撃を受けて、ウクライナの他の場所でも原子力安全およびセキュリティが脆弱になる可能性がある、とグロッシー事務局長はガルシチェンコ大臣との会談後に述べた。
原子力発電所は、原子炉の冷却その他の重要な原子力安全およびセキュリティ機能のために、外部電源への確実なアクセスを必要としており、これは原子力安全およびセキュリティの「7つの柱」で強調されている。しかし、ウクライナの電力網は紛争の影響を深刻に受けており、ZNPPはこれまで外部電源との接続を何度も喪失している。
「特にZNPPでは、外部電源の状況が依然として非常に脆弱で、頻繁に停電が発生しやすい。しかし、原子燃料の温度がいまだ高いことを考慮すると、外部電源の喪失はより深刻な事態を招く可能性がある。本日の会議でもガルシチェンコ大臣に報告したように、我々は引き続きこの点について状況を非常に注意深く監視している」とグロッシー事務局長は述べた。
グロッシー事務局長は、露カリーニングラードで先週、A. リハチョフ・ロスアトム総裁と会談しており、ウクライナのガルシチェンコ大臣に、紛争により原子力安全およびセキュリティが危険にさらされている限り、ZNPPは再稼働しないという合意があることを改めて伝えた。
「このような状況では、この大規模なZNPPを運転させることは賢明ではない」とグロッシー事務局長は述べた。
今週のIAEA理事会に先立ち、グロッシー事務局長は、2022年2月の紛争開始以来今年5月24日までの3か月間の進展を網羅した、ウクライナにおける原子力安全およびセキュリティ、保障措置に関する第11回報告書を発表した。
今週ZNPPでは、現場に駐在するIAEA専門家チームが、原子力安全およびセキュリティを監視するために定期的な巡回を続けている。
同時に、IAEA専門家チームは、現場から少し離れた場所で爆発音を耳にし続けており、ZNPPが最前線にあることを定期的に認識している。
下流のカホフカダムの破壊によりZNPPの冷却水供給が途絶えてから1年後、チームはサイト内の冷却池を訪れ、ダムが破壊される前の水位より約1.5m低い高さにあることを確認した。
原子炉6基すべてが冷温停止状態にあるZNPPは、現在停止状態にある原子炉に必要な冷却水を、サイト内の散水池に1時間あたり約250㎥の水を供給するために建設された11の地下水井戸から得ている。
IAEAチームは、月曜日の理事会声明でグロッシー事務局長が原子力安全およびセキュリティに潜在的なリスクをもたらすと強調したもう1つの領域である、発電所の保守活動を引き続き注意深く監視している。
これらの活動の一環として、IAEA専門家は750kVの屋外開閉所を訪問し、2号機の変圧器保護のための保守などについて議論した。
IAEA専門家チームは、2022年に損傷を受けた750kV主送電線1系統の開閉所構成機器の一部が解体されたままであることを確認した。しかし、ZNPPは現時点では修理を完了させる予定はない。なぜなら、その送電線自体は、紛争の初期にサイト外で受けた損傷のために利用できないままだからである。ZNPPは紛争前に4系統の750kV送電線を利用できたが、残っているのは1系統のみである。
IAEA専門家は、紛争前に設置された西側諸国から供給された開閉所機器は良好な状態のままであるとの報告を受けた。ZNPPはまた、一部の西側諸国からのスペアパーツは利用可能であり、必要に応じてロシアの供給業者を通じて同様の機器を注文できると述べた。
IAEA専門家チームは、2か所の燃料貯蔵施設と6号機のタービン建屋も訪問したが、今回も建屋の西側への立ち入りは許可されなかった。
さらにZNPPは、サイト内およびサイト外の放射線監視ステーションの状況についてIAEAの専門家に報告した。サイト内の4つの放射線監視ステーションはすべて稼働しているが、サイト外の14のステーションのうち3つは2022年の軍事活動の結果損傷したままであると報告された。
ZNPPは、手動による放射線モニタリングも実施しており、ロシアの規制に準拠した新しい放射線監視ステーションと、原子力または放射線の緊急事態時に使用するための移動式放射線測定ラボを購入する計画があるという。
ウクライナの他の原子力発電所(フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ)とチョルノービリ・サイトに駐在しているIAEA専門家チームは、定期的な巡回を実施し、原子力安全およびセキュリティを評価し続けている。チームは、過去1週間の数日間の空襲警報を含む進行中の紛争の影響にもかかわらず、原子力安全およびセキュリティは維持されていると報告した。
リウネ原子力発電所と南ウクライナ原子力発電所の原子炉各1基は、定期的な保守と燃料交換のため、先週から停止しており、南ウクライナ原子力発電所の別の原子炉1基は計画停止中である。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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