ウクライナの原子力発電所の状況 #148
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第232号(現地時間2024年6月13日)[仮訳]
ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)に駐在するIAEAチームが本日(6/13)、交代した。ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長によると、IAEAが2022年9月にZNPPでの駐在体制を確立して以降、紛争の最前線を越えてZNPPに派遣された専門家チームとしては今回で20回目となる。
この交代は、6/15ー16に開催予定のウクライナ平和サミット(スイス主催)を前に、グロッシー事務局長がスイスのイグナツィオ・カシス外相と会談した翌日に行われた。グロッシー事務局長はカシス外相に対し、軍事紛争が続くなか、原子力、放射線事故を防止するというIAEAのユニークな役割について説明した。
グロッシー事務局長は、「IAEAはZNPPを含むウクライナの原子力施設に駐在する唯一の国際機関である。IAEAは、技術支援ならびに中立な独自情報を提供し続ける」と述べたうえで、「平和サミットに出席するすべての国に対して、IAEAのこうした役割を強化、支援するよう呼びかける」と表明した。
ZNPPサイトでは、IAEAチームが過去1週間のうち数日間、プラント付近での爆発音を耳にしたと報告している。また、ZNPPの冷却池エリアの隣接地に仕掛けられていた地雷の1つが6/11に爆発したことをプラント側に確認した。この爆発による物理的な損傷や死傷者はなかったが、爆発の原因についてIAEAチームには共有されなかった。
グロッシー事務局長は、「プラント付近での今回の爆発は極めて憂慮すべきものであり、既に脆弱な状況をさらに悪化させている」「ZNPPの原子力安全およびセキュリティが損なわれてはならない」と述べた。
月曜日、IAEA専門家チームは、近くのエネルホダルの町にある変電所の1つを訪問した。訪問の目的は、ZNPPから報告のあった6/8に起きたという砲撃の影響を視察するためであった。この砲撃により、ZNPPとエネルホダル間の主要通信ハブがあるエネルホダル市議会の建物に電力を供給している変電所で火災が起き、損傷を受けた。ZNPPは、被害によって通信ラインが遮断されたわけではないことを確認した。
先週、IAEAチームは、ZNPPの2号機の安全トレインの1つの試験を視察した。ZNPPのような原子炉には、安全システムを構成する安全トレインと呼ばれる3つの独立した冗長システムがある。試験では、安全トレインの1つへの通常の電力供給が失われた場合を想定し、その安全トレインの非常用ディーゼル発電機を作動させて必要な電力を供給した。ZNPPによると、試験は成功し、問題はなかったという。
先週のZNPP側とのミーティングで、IAEAチームは、プラントの中央制御室で働くスタッフの人員数とレベルについて議論した。ZNPPは、6基すべてが冷温停止中であるため、中央制御室では各シフトに3人の有資格のスタッフが勤務し、最低でも2人が常駐する必要があることを確認した。
プラントの定期巡回の一環として、チームは今週初め、4号機のポンプステーションを訪問した。そこでは、ZNPPの放水路と取水路の間の冷却水の流れを維持するため1台の循環ポンプが使用されている。循環ポンプの運用は、2023年6月にカホフカ・ダムが破壊されて以来、水位が低下したZNPP冷却池全体の水位に左右される。IAEAチームは最近、ZNPPがザポリージャ火力発電所の放水路の隔離ゲート付近に水中ポンプを設置したとの報告を受けた。このポンプは、カホフカ貯水池から毎時100㎥の水を放水路に汲み上げ、その後ZNPPの冷却池に汲み上げることができる。6基の原子炉を冷却するための12のスプリンクラーと安全システムは、11基の井戸から毎時約250㎥の水が供給されている。
今週、IAEAチームはまた、ZNPPの乾式使用済み燃料貯蔵施設で、全6基の使用済み燃料を保管する貯蔵キャスクのリアルタイム監視システムを視察した。
緊急時対応は、どの原子力発電所の原子力安全にとっても重要である。IAEAチームは、5/15にプラントで実施された緊急時訓練の結果について、ZNPP側と協議した。ZNPPは、訓練は無事目的を達成し、いくつかの貴重な教訓を得たとしている。訓練で指摘された改善点に対処するため、アクションプランが実施されている。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所、そしてチョルノービリ・サイトに駐在するIAEAチームは、定期的な巡回を実施し、原子力安全およびセキュリティを評価するため、施設側と協議を重ねている。IAEAチームは先週1週間、空襲警報が鳴るなど紛争が継続するなか、原子力安全およびセキュリティは維持されていると報告した。しかし、IAEAはこれらの各プラントの外部電源に関する状況を非常に注意深く見守っている。ウクライナで運転中の原子炉の燃料温度が高いことを考慮すると、外部電源の喪失は深刻な事態になる可能性がある。
IAEAチームによると、リウネと南ウクライナにおいて各1基がメンテナンス/燃料交換のために停止中である一方、南ウクライナでは別の1基が計画どおりにメンテナンス/燃料交換を完了し、運転を再開している。
過去2日間、IAEAチームは、南ウクライナで実施された大規模な緊急時訓練を視察した。この訓練には、フメルニツキー、リウネからの参加者もいた。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナに駐在するIAEAチームはこの1週間ですべて交代した。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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