ウクライナの原子力発電所の状況 #149
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第233号(現地時間2024年6月21日)[仮訳]
国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長が本日明らかにしたところによると、先日スイスで開催された「ウクライナ平和サミット」では、ウクライナ紛争中の原子力事故防止におけるIAEAの重要な役割が国際的に広く認識された。
「サミットに出席した多くの国並びに機関が IAEAの不可欠な活動に強い支持を表明したことに感謝する」とグロッシー事務局長は述べた。
ウクライナ最大の原子力施設であるザポリージャ原子力発電所 (ZNPP) では、ZNPPに駐在する IAEA専門家チームがこれまで1週間にわたって軍事活動の兆候を耳にし続けている。これには 6月16日と17日のZNPP近郊での爆発も含まれる。ZNPPはIAEAチームに対し、サイトおよび近郊では影響はなかったと伝えたが、IAEA専門家らはほぼ毎日、サイトから離れた場所での爆発音を耳にした。
ウクライナの電力網は紛争の影響を多大に受けており、ここ数か月のインフラ攻撃による甚大な被害も含め、外部電源の稼働状況に関連する継続的なリスクは、原子力安全およびセキュリティにとって依然として大きな懸念材料となっている。
こうした危険の最新の兆候として、エネルホダル市のルーチ変電所が水曜日に破壊された。ZNPPはIAEAチームに対し、破壊の原因はドローン攻撃であると伝えた。この変電所が被害を受けたのは2022年以来2度目である。この事象の後、ZNPPスタッフの大半が住み、ルーチ変電所とラドゥガ変電所から電力を供給されていたエネルホダルは、水曜日の夕方に停電した。ZNPPに拠点を置くIAEAチームは木曜日にルーチ変電所を訪れ、破壊の影響で稼働していないことを確認した。
ルーチ変電所は通常、エネルホダルの一部と、市の給水ポンプ場、工業地帯、周辺の小さな町などの他の地域に電力を供給している。6月20日の時点で、エネルホダルの一部は、代わりにラドゥガ変電所を通じて受電している。ZNPPへの電力供給は、ルーチまたはラドゥガ変電所経由ではないため、今回は直接影響を受けなかった。
しかし、グロッシー事務局長は、運転中および停止中に関わらず原子力発電所の原子力安全を維持するためには、原子力発電所と外部送電網間の信頼性の高い接続が不可欠であることを改めて浮き彫りにするものだと指摘した。原子力発電所は送電網への接続が切断された状況に対応できるように設計されているが、どの原子力発電所にとっても外部電源の喪失は、原子力安全の基本要素として防がなければならない重大な事象である。
ウクライナの原子力発電所への電力供給に影響を及ぼすいかなる攻撃も、紛争中の原子力安全およびセキュリティを確保するために不可欠な7つの柱に違反することになる、とグロッシー事務局長は述べ、4番目の柱として「すべての原子力サイトで送電網からの電力が確実に供給されなければならない」と記されていることを指摘した。
「ウクライナの原子力発電所の外部電源状況について、私は依然として非常に懸念している。すでに外部電源のほとんどにアクセスできなくなっているZNPPは、この点で特に脆弱である。紛争中、ZNPPは繰り返し外部電源を喪失している。ルーチ変電所の被害は、発電所に隣接するエネルホダルに住む発電所スタッフに直接影響を及ぼし、原子力安全およびセキュリティにも影響を及ぼした。したがって、エネルギーインフラを常に防護し、維持することは不可欠である」とグロッシー事務局長は述べた。
IAEA専門家チームは6月20日、ウクライナのZNPPの職員が多数居住するエネルホダル市の変電所の被害状況を評価した。
ZNPPでは、IAEA専門家が原子力安全およびセキュリティとサイト全体の関連動向を監視するための通常活動の一環として、引き続き現場を巡回している。
彼らはまた、原子力安全およびセキュリティの維持に不可欠で、紛争中に課題に直面しているサイトのメンテナンス活動についても引き続き見守っている。IAEA専門家らは今週、ZNPP 1号機と2号機のメンテナンス計画、特に2024年後半の保守計画について議論した。
先週、ZNPPは2024年初頭に設置された4台のディーゼル蒸気発生器(DSG)を稼働させ、500m3の液体放射性廃棄物を処理した。処理された水は、発電所の運転に再利用される予定である。この作業が完了した火曜日、発電機は待機モードに戻された。
同日、2号機の主変圧器が、バルブ、センサー、電気部品、オイルのテストを含む1か月のメンテナンスを経て、運転を再開した。IAEA専門家らは、ZNPPが将来的に予備の変圧器を購入する予定であることも知らされた。
IAEAチームは今週、緊急ディーゼル発電機(EDG)を含む5号機の安全システム部品のテストも視察した。ZNPPのスタッフは、停電をシミュレートし、EDGの起動を開始。25分間稼働させた後、待機モードに戻した。
水曜日、IAEA専門家らはZNPPの訓練センターを訪れ、プラントのさまざまな構成機器の設置済みモックアップと、3台のフルスコープシミュレーターのうち2台を視察した。そのうちの1台では、中央制御室の運転員が訓練を受けている。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所とチョルノービリ原子力発電所に駐在しているIAEA専門家は、過去1週間に数日にわたって空襲警報が鳴るなど、進行中の紛争の影響にもかかわらず、原子力安全およびセキュリティは維持されていると報告した。
木曜日の早朝、南ウクライナ原子力発電所に駐在しているIAEA専門家は、近郊で小火器の発砲音が聞こえたため、ホテルの避難所に向かった。その後、ドローンがホテル付近で撃墜されたが、ホテルや原子力発電所を狙ったものではなかったとの報告を受けたという。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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