ウクライナの原子力発電所の状況 #151


ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第235号(現地時間2024年6月27日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は本日、オフサイトの放射線モニタリングステーションが今週、砲撃とそれに伴う火災により破壊され、緊急時に放射性物質の放出を検知、測定するオフサイトの能力の有効性がさらに低下したとの報告をザポリージャ原子力発電所(ZNPP)より受けたことを明らかにした。

ZNPPは、ZNPPに駐在するIAEA専門家チームに対して、月曜午後(6/24)にプラントの16㎞南西に位置するこのモニタリングステーションへの接続を喪失したことを伝えた。安全上の理由により、IAEAチームは、現場へ赴いて被害を確認することはできなかった。

2022年初め以降、ZNPP周辺30㎞圏内にあるいくつかの放射線モニタリングステーションは、紛争による被害のため、期間はさまざまだが運用停止に追い込まれている。紛争前の14か所のうち、1/4以上にあたる4か所のステーションが、現在利用できなくなっている。

今回の事態は、ZNPPのスタッフの多くが住む近隣の町エネルホダルで16時間にわたる停電が発生し、バックアップのバッテリーが切れ、環境放射線モニタリングステーションの一部の運用が一時的に停止した、数日後に発生した。

グロッシー事務局長は、「オフサイトの放射線モニタリング機器が機能することは、世界中の原子力安全にとって重要である。これらシステムが放射線レベルのモニタリングを継続し、緊急時には、進行中の潜在的な放射線影響や必要な防護策を迅速に評価するために重要である」と述べた。

さらにグロッシー事務局長は、「放射線モニタリングステーションの一つが利用できなくなったからといって、ZNPPの安全性に直結するものではないが、紛争中、一連の安全対策が継続的に損なわれてきたことの一端を示すものであり、依然深い懸念の種となっている」と述べた。

放射線モニタリングは軍事紛争中の原子力安全およびセキュリティを確保するための7つの不可欠な柱の一つであり、6つ目の柱で「オンサイトおよびオフサイトでの効果的な放射線モニタリングシステムと緊急時対応計画と対策が存在すること」を強調している。

主要原子力発電国として、ウクライナは、IAEA国際放射線監視情報システム(IRMIS)に参加する51か国のうちの1つである。これは、国ごとに運営するネットワークの一部であり、世界中の6,000以上のモニタリングステーションから放射線モニタリングデータを収集するものである。

ZNPPは、紛争中、原子力安全およびセキュリティに関連するその他の困難にも直面し続けている。過去1週間ほぼ毎日、IAEA専門家チームは、サイトからさまざまな距離で爆発音を耳にしている。

IAEAチームはまた、サイトの冷却水の状況についても注意深く監視を続けている。下流のカホフカ・ダムが破壊され、6基の原子炉の冷却に必要な水の代替供給源を用意せざるを得なくなってから1年が経った。そのため、昨年11基の井戸を掘削し、現在では冷温停止状態にある全ユニットとその安全システムに必要な十分な水を供給している。

同時に、プラントは、主要冷却池の水位の維持に努めているが、とりわけ、暑い夏の季節は厳しく、他の水源から供給される水の最大1/4が減少する原因となっている。過去1年間で、池の水位は1.5m低下し、15m強となった。

IAEAチームは最近、近くのザポリージャ火力発電所(ZTPP)の放水路と11基の井戸による余剰水の両方から、冷却池に汲み上げられる現在の水の総量がおよそ310~350㎥/hであることを確認した。グロッシー事務局長は、「6基全てが停止しており、井戸の水で冷却は十分であるが、継続したモニタリングと評価が必要である困難な状況に変わりない」と述べた。

IAEAチームは、サイトの巡回を継続して実施しており、ここ数か月、ZNPPで新たな運転員が数名着任するなど、重要な運転員に関する状況を視察するため、6つある主制御室(MCRs)などを巡回した。

今週初め、IAEAチームは、4号機の安全システムの一部である非常用ディーゼル発電機(EDG)の試運転に参加した。ZNPPのスタッフは、外部電源喪失を想定し、EDGの安全要件に沿って、11秒以内に起動させた。

これとは別に、IAEAチームは、5号機のタービン建屋の機器の保全活動が実施されていることを確認したが、再び西側部分へのアクセスは認められなかった。

今週また、IAEAチームはサイト内の臨時オンサイト緊急時センターの視察時に、緊急時対応について議論した。

6月23日の日曜日、IAEA専門家チームは、サイト境界内の巡回中、放射線モニタリングを実施した。放射線モニタリングは、週1回定期的に実施しており、サイトの放射線レベルはすべて正常で、その結果はIRMISで公表された。

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所、そしてチョルノービリ・サイトに駐在するIAEAチームは、過去1週間のうちの数日、空襲警報が鳴るなど継続中の紛争の影響を受けながらも、原子力安全およびセキュリティは維持されていると報告した。

6月27日木曜日の早朝、南ウクライナに駐在するIAEA専門家チームは、近くで小銃の発砲音があったため、ホテルの避難所に避難した。後に、この地域での軍事活動であったと知らされたが、ホテルやプラントを標的にしたものではなかったという。

計画されていたメンテナンスと燃料交換が、南ウクライナの3基中2基で、そしてリウネの4基中1基で実施されている。チョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、先週末に無事交代した。

紛争中の原子力安全およびセキュリティを維持するため、ウクライナを支援するIAEAの取組の一環として、IAEAは今週、ウクライナ向けに新たに2件の機器調達を実施した。今回の調達は、紛争開始以降51回目。

今週、リウネ原子力発電所は、原子力安全に重要な補助装置を受領した。これとは別に、ウクライナ保健省の公衆衛生センターは、フメルニツキー、リウネ、キロボフラード、へルソン、ウージュホロド、ミコライウの各都市にある研究所で環境中の放射性核種を監視する分析能力を強化するために、ガンマ線スペクトロメーターを受領した。

今週の支援は、カナダ、日本、韓国、英国の特別拠出金によって援助された。紛争中、これまでにウクライナのさまざまな組織に合計980万ユーロ相当の原子力安全およびセキュリティ関連機器が届けられている。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-235-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine-0


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

お問い合わせ先:情報・コミュニケーション部 TEL:03-6256-9312(直通)