ウクライナの原子力発電所の状況 #153
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第237号(現地時間2024年7月11日)[仮訳]
ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は本日、ザポリージャ原子力発電所(ZNPP)の多くのスタッフが住むエネルホダルの町が、同地域における軍事活動により、一時的な停電や水不足、近隣の森林火災に引き続き見舞われており、軍事紛争中のプラントのスタッフが直面している多くの課題に拍車をかけていると懸念を表明した。
過去数か月間、一連のドローン攻撃により、軍事紛争の最前線に位置するZNPPが直面する危険性に対する懸念がより一層深まっている。ここ数日では、現地に駐在するIAEA専門家チームは、攻撃があったと言われている近隣の場所から煙が立っていることを目撃した。本日の早朝(7/11)、専門家チームは、エネルホダルの近くで火災が発生したことを報告したが、原因はすぐには明らかにはなっていない。
IAEAチームは、先週金曜日(7/5)にエネルホダルの変電所で変圧器が損傷を受け、長時間の停電を引き起こした攻撃について、報告を受けた。また、ZNPPによると、昨日のエネルホダル近くでの砲撃により、水道のポンプステーションと別の変圧器が影響を受け、住民が一日中、水道水と電気が使えなくなったという。ZNPPは外部送電線2系統への接続を維持しており、この報告された攻撃による影響はなかった。
グロッシー事務局長は、「これら最近の攻撃は、4月のように原子力発電所を直接標的にしたものではなかったが、同地域で軍事紛争が継続していることは深刻な懸念であり、原子力安全およびセキュリティを確保するためにZNPPを保護することは不可欠」と述べた。
グロッシー事務局長は、先週、エネルホダルの変電所でZNPPのスタッフ8名が負傷したとされる攻撃について、紛争中の原子力安全の7つの不可欠な柱のうちのいくつか、とりわけ、プラントスタッフを保護するという原則に違反していることを改めて強調した。
グロッシー事務局長は、「電気や飲料水など基本的な生活必需品の散発的な喪失は、ウクライナ全土のあらゆる原子力発電所や施設のスタッフ、家族に影響を及ぼしており、彼らの重要な原子力安全およびセキュリティ業務の遂行に影響を及ぼす可能性がある」と指摘した。
紛争による不安定な状況をさらに浮き彫りにするものとして、ZNPPに駐在するIAEA専門家チームは過去1週間ほぼ毎日、プラントのさまざまな場所から爆発音や銃声を耳にしている。
それにもかかわらず、IAEA専門家チームは、原子力安全およびセキュリティを監視するため、ZNPPサイトの定期的な巡回を実施している。火曜日(7/9)には、チームの交代が行われ、グロッシー事務局長が2022年9月1日にミッションを立ち上げて以降、ZNPPに駐在する21番目のIAEA専門家チームとなる。
サイトでは、IAEA専門家チームが、原子力安全およびセキュリティにとって重要でありながら、紛争中で困難なメンテナンス作業を注意深くフォローしている。安全システムのメンテナンスは1号機と6号機で実施中であり、3号機の主変圧器のメンテナンス作業も始まっている。
先週、IAEA専門家チームは、ZNPPが外部電源を喪失した際、最後の砦となる非常用ディーゼル発電機(EDGs)20台のうち、数台の状況を確認した。IAEAチームは定期的にEDGsの試験に立ち合い、先週、試験中の発電機が安全基準内に起動したことを確認した。
IAEAチームはまた、サイト境界外にある、ディーゼル燃料貯蔵タンクを訪問し、EDGs用ディーゼル燃料の供給状況を評価した。現在、1,300㎥のディーゼル燃料が利用可能であり、EDGsに接続されているすべての燃料タンクは満タンであるとの報告を受けた。これは、少なくとも10日間、EDGsを運転するのに十分な燃料であり、これは最低限の規制要件である。IAEAチームは、サイトは24~48時間以内に追加のディーゼル燃料を受け取ることができると伝えられた。
先週金曜日(7/5)、IAEA専門家チームは、ZNPPの巡回を実施、冷却池と関連する冷却水施設に訪れた。最近の暑さにより、冷却池の水位レベルは、毎日約1㎝低下しており、ここ最近では、昨年カホフカ・ダムが破壊されて以降、初めて15mを下回った。ダムが破棄されてから掘られた11基の地下水井戸は、冷温停止状態にある原子炉6基の冷却と安全システムに必要な、スプリンクラー池にすべての水を供給し続けている。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所、そしてチョルノービリ・サイトに駐在するIAEAチームは先週1週間のうち何日か、空襲警報が鳴るなど紛争が継続するなか、原子力安全およびセキュリティは維持されていると報告した。
フメルニツキーのIAEAチームは、先週末交代した。計画されていたメンテナンス/燃料交換作業が、南ウクライナの3基中2基(1号機と3号機)で、リウネの4基中1基で続いている。
軍事紛争中の原子力安全およびセキュリティ維持の面でウクライナを支援するIAEAの取組の一環として、IAEAは先週、ウクライナへ4件の追加の機器納入を実施した。今回の納入は、紛争開始以降これで55回目。
USIE Izotop(医療、産業などの放射性物質管理に携わる国営企業)は、核セキュリティ強化のための機器を受領した。リウネは測定機器を、フメルニツキーはフィルター吸収装置を、両サイトとも原子力安全に関連するものを受領した。ウクライナ国家非常事態庁(SESU)は、放射線モニタリングネットワークおよび水文気象機関の分析ラボ用の電源装置を受領した。これらの納入は、日本、スイス、英国の資金支援により実施された。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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