ウクライナの原子力発電所の状況 #154


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第238号(現地時間2024年7月19日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は7月19日、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)のスタッフが、今週の軍事紛争によりさらなる困難に見舞われていることを明らかにした。ZNPP近隣の町のエネルホダルでは再び停電が発生し、ZNPPでも水道水が不足するなどの影響が出ているという。 

ZNPPに駐在するIAEA専門家チームがZNPPから受けた報告によると、水曜日(7/17)に軍の攻撃により地域の変電所が損傷した結果、エネルホダルへの電力供給が停止し、給水にも影響が出た。また、サイト内のいくつかの建物で水道水が使えなくなった。 

ZNPPのスタッフの多くが住むエネルホダルでは、住民がこの数週間、同様の窮状に何度も直面しており、その一部は、ZNPPから約5キロ離れた変電所が受けたドローン攻撃によるものだった。エネルホダルでは昨日も停電が続いたが、一部で給水は回復した。 

グロッシー事務局長は、「ザポリージャ原子力発電所で働く人々にとって非常にストレスの多い状況を、こうした出来事がさらに悪化させるのは明らかだ。我々は、状況を監視し続ける。スタッフの心身の健康状態が保たれることは、原子力安全とセキュリティにも影響を与える可能性があるため、懸念材料である」と述べた。 

エネルホダルへの電力と水の供給は不安定であったが、ZNPPの外部電源への接続と冷却水に影響はなく、残る2系統の送電線から電力供給を受け続けている。また、11基の地下水井戸は、冷温停止状態にある6基の原子炉の冷却維持に必要な水を供給し続けている。 

約2年前にZNPPにおけるIAEAの駐在体制が確立して以来、定期的に発生していることではあるが、IAEA専門家チームは至近1週間で発電所からさまざまな距離の爆発音や銃声を耳にし続けている。軍事活動の音は聞こえなかったものの、空襲警報発令のため、IAEA専門家チームは7月11日に予定していた視察活動を実施できなかった。同期間に2回、IAEA専門家チームは遠方に煙を確認したが、ZNPPによると森林火災によるものだという。 

IAEA専門家チームは、ZNPPの原子力安全とセキュリティを監視するミッションの一環として、進行中のメンテナンス作業を綿密に監視し続けている。これらのメンテナンス活動は、現在の状況だけでなく、ZNPPの長期的な原子力安全にとっても極めて重要である。1号機と6号機の安全系、および3号機の主変圧器の安全系のメンテナンス作業は引き続き進められており、専門家チームはその一部を視察した。 

最近、IAEA専門家チームは3、4、5、6号機の中央制御室といくつかの安全システム室を視察した。先週末には1号機のタービン建屋を訪問し、全フロアを視察できたものの、建物の西側への立ち入りは叶わなかった。また、ZNPP訓練センターのシミュレーターも視察した。 

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの原子力発電所とチョルノービリ・サイトに駐在するIAEAチームによると、過去1週間にわたる複数回の空襲警報など、継続中の紛争の影響にもかかわらず、これらの施設では原子力安全とセキュリティが維持されている。 

IAEA専門家チームは、これら施設の定期的な視察を続けている。例えば、今週は、緊急管理センターを訪問し、安全システムや緊急ディーゼル発電機の起動試験を視察したほか、進行中のメンテナンス活動について協議し、スペアパーツの入手可能性を確認した。 

7月16日、リウネ3号機は、45日間の燃料交換とメンテナンスが終了し、送電を再開した。しかし、送電網の制約により、出力は現在制限されている。国内の軍事活動の影響で、ウクライナの電力網はますます脆弱になっている。 

グロッシー事務局長は、「ウクライナ全土の電力網の脆弱性について、私は依然として非常に懸念している。2年以上前にこの悲劇的な紛争が始まった際、私は原子力安全とセキュリティに不可欠な7つの原則を示した。4番目の柱では、全ての原子力サイトには外部電源(送電網)から電力が確実に供給されなければならないとしている。すべての原子力発電所の原子力安全を維持するために、ウクライナ全土の電力網が安定していることが不可欠だ」と述べた。 

南ウクライナ原子力発電所の3基のうち2基では、計画されていたメンテナンスと燃料交換作業が継続中である。チョルノービリ・サイトのIAEA専門家チームは、先週末に交代した。 

IAEAは、原子力発電所への電力供給の信頼性を確保するために、エネルギー省を支援することを目的として、新たな機器の調達を手配した。これは軍事紛争中のウクライナの原子力安全とセキュリティ維持を支援する取組みの一環である。これにより、紛争開始以来の機器調達の総数は56件となった。 

IAEAはエネルギー省の要請に応えて、至近数週間にわたり、アルミ線、鉄筋コンクリートの支持材、変電所や配電盤用の保護・制御マイクロプロセッサ装置など、さまざまな機器の調達を4回手配した。調達はフランス、日本、ニュージーランドの資金援助によるもの。紛争開始以来、今回の調達を含め、累計1,000万ユーロ(約17億円)以上に相当する機器をウクライナに納品している。 

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-238-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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