ウクライナの原子力発電所の状況 #156
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第240号(現地時間2024年8月2日)[仮訳]
ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)の冷却池の水位が下がり続けている。ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は8月2日、全ての原子炉が冷温停止状態である現状を踏まえても、冷却池の利用可能性はZNPPの安全にとって重要であると述べた。
過去数週間にわたって、ZNPPに駐在するIAEA専門家チームは、冷却池の水位が継続的に低下しているのを観察してきた。ZNPPのスタッフは、この傾向が続いた場合、冷却池から水を汲み出すことがすぐに困難になることを確認した。池の水位を維持することは、夏の暑さによってさらに難しくなっている。
昨年のカホフカ・ダムの破壊後、ZNPPは11基の地下水井戸を掘り、スプリンクラー池に毎時約250立方メートルの冷却水を供給している。スプリンクラー池からは、現在冷温停止状態にある原子炉6基全てを冷却するのに十分な水が供給されている。先週の視察で、IAEA専門家チームはスプリンクラー池が適切に機能しており、水位が通常レベルであることを確認した。スプリンクラー池への水の供給量が少しでも低下した場合、バックアップとして冷却池を使用する可能性がある。
「冷却池の水位低下は依然として潜在的な懸念材料であり、我々は引き続き現場の状況を注意深く監視し、いつでもZNPPに十分な冷却水が常に確実に供給できる状況にする」とグロッシー事務局長は述べた。
IAEA専門家チームは、至近1週間にわたって、ZNPPサイト内の重要なメンテナンス作業の監視を続けている。専門家チームは、ZNPPのメンテナンス作業の大半は請負業者によって行われていると報告を受けた。専門家チームは、6号機の安全トレイン用の非常用ディーゼル発電機のテストを、非常用ディーゼル発電機室と緊急制御室の両方から視察した。同様に、彼らは5号機の安全トレイン用の非常用ディーゼル発電機のテストを、非常用ディーゼル発電機室と中央制御室の両方から視察した。これらのテスト中、原子力安全やセキュリティに関連する問題は確認されなかった。
原子力安全とセキュリティを監視するため、ZNPPのサイト全体で追加視察が行われた。IAEAの専門家チームは、ディーゼル燃料貯蔵タンクのうち3つの主要タンクは最大でも容量の90%までしか使用できず、タンクのメンテナンス作業が計画中であることを確認した。
7月31日、IAEA専門家チームは750kV開閉所を訪問したが、原子力安全とセキュリティに関する新たな問題は見つからなかった。また、先週、専門家チームは放射線源の安全性とセキュリティに関する一連の視察とディスカッションを実施した。
IAEA専門家チームは、5号機の原子炉建屋と安全システム室を巡回し、使用済み燃料プールのポンプの切り替えを視察、ポンプと安全システム室の両方が良好な状態であることを確認した。
IAEA専門家チームは、発電所からさまざまな距離での軍事活動の音を耳にし続けている。また、専門家チームは先週、遠方の煙を何度も確認したが、ZNPPによると火災によるものだという。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所とチョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、至近1週間のうち数日にわたって空襲警報が発令されたと報告したが、紛争が継続しているにもかかわらず、原子力安全とセキュリティは維持されていることを確認した。至近数週間、IAEAはウクライナにおける包括的な支援プログラムを継続し、さまざまな分野で支援を行った。医療支援プログラムの一環として、南ウクライナ原子力発電所近くの地元病院に超音波システムが提供され、発電所のスタッフが職務遂行のための健康維持に必要な医療サービスを受けられるようになった。
さらに、メンタルヘルスに焦点を当てた4つのリモートワークショップが実施された。これらのワークショップでは、ウクライナの全ての原子力施設の監督者、管理者、メンタルヘルスチームが、ストレスの兆候を認識し、トラウマやストレスに対処する同僚にピアサポート(注:一般に同じ課題や環境を体験する人がその体験から来る感情を共有すること)と心理的サポートを提供し、メンタルヘルスサポートの取り組みを効果的に計画および管理するための訓練を受けた。
機材とワークショップの提供は、英国と米国の支援を受けている。
https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-240-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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