ウクライナの原子力発電所の状況 #157


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第241号(現地時間2024年8月8日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は本日、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)周辺で大規模な火災が発生したことにより、ヨーロッパ最大の原子力発電所であるZNPPが直面する危機が高まっている、と述べた。 

IAEAザポリージャ支援/調査ミッション(ISAMZ)は、至近1週間に数回、ZNPPおよび近隣で複数の火災を確認した。IAEA専門家チームは週末に、ザポリージャ火力発電所(ZTPP)の取水路付近のZNPPの北側エリアから煙が出ていることを確認した。ZNPPは、この火災が、ZNPPに残された2系統の外部送電線である750kVドニプロフスカ主送電線と330kV予備送電線のフェロスプラヴナ1の架空ケーブルの下で発生したことを確認した。 

夏の暑さが続く中、この2系統の送電線付近で火災が発生すると、ZNPPは外部電源喪失の危険にさらされることになる。結局、どちらの送電線も切断されることはなかったが、今回の状況はZNPPの外部電源の脆弱性を浮き彫りにした。 

グロッシー事務局長は、「ZNPPの外部電源は依然として脆弱であり、最後の2系統の送電線の運用が脅かされることは非常に懸念すべきこと」と述べ、「すべての原子炉が冷温停止状態にある現状でも、外部電源の脆弱性はZNPPの原子力安全とセキュリティにとって依然として大きなリスクであり、残る送電線を保護するための措置を講じる必要がある」と語った。 

今回の火災は、至近数か月間に発生している火災に続くものだ。7月初旬、IAEA専門家チームは、ZNPPの750kV開閉所付近から黒煙が立ち上るのを目撃し、爆発音を聞いた。原因として、隣接する森林にドローンが衝突し、強風によって火災が発生したと考えられている。専門家チームによると5月下旬にも、同じ開閉所の南で山火事が発生したという。先週、750kV開閉所を視察した際、専門家チームは開閉所の境界線の外側のエリアで焼けた茂みや木々を目撃したが、これらの火災によるその他の影響はないという。 

今週、ZNPPに駐在する専門家チームが交代したが、これはグロッシー事務局長が2022年9月1日ISAMZを立ち上げて以降、ZNPPに駐在する22番目のIAEA専門家チームとなる。専門家チームは、発電所からさまざまな範囲での爆発音を耳にし続けている。 

8月4日、ZTPPのスタッフは、砲撃の危険により、ZTPPの取水路から放水路に水を送るポンプを起動させるために外に出ることが、しばらくの間できなかったそうだ。この水の移送は、スプリンクラー池やその他のエリアに水を供給するために重要なものである。ISAMZは、ZNPPから、ポンプはその後起動され、ZNPPの原子力安全に影響はなかったと報告を受けた。 

8月7日、放射性液体廃棄物処理に必要な蒸気を供給するためにZNPPが2024年1月に稼働を開始したディーゼル蒸気発生器4台すべてが、稼働していることが確認された。ZNPPの報告によると、今後10~12日間かけて、蓄積された約1,000立方メートルの放射性廃水を処理する。 

IAEA専門家チームは、サイト内の重要なメンテナンス作業の監視も続けている。8月2日、1号機の安全トレインと非常用ディーゼル発電機(EDG)は、計画されたメンテナンス作業の完了後、スタンバイ・モードに戻された。6号機の安全システムと3号機の主変圧器のメンテナンス作業は継続中である。さらに、ZNPPの750kV開閉所とZTPPの330kV開閉所を接続する自動変圧器のブレーカーの1つがメンテナンス作業に入った。 

先週、IAEA専門家チームは、ZNPPの外部電源喪失時に最後の砦として機能する、サイト内の20台のEDGのうち数台の状態を評価した。専門家チームは、5号機の安全トレイン用のEDGが、予定されたテスト中に安全に起動したことを確認した。サイト外のディーゼル燃料貯蔵庫を先週視察した際、専門家チームは、ディーゼル燃料の貯蔵量が減ったのは、今後行われる予定のタンクのメンテナンス作業が理由だとZNPPから報告を受けた。 

原子力安全とセキュリティを監視するための定期視察中に、IAEA専門家チームは使用済燃料乾式貯蔵施設とサイト外のZNPP中央倉庫を訪れた。また、ZNPPの安全評価の担当者と協議した際には、すべての原子炉が冷温停止状態にあることから、評価の焦点は崩壊熱の計算分析にあると伝えられた。 

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所とチョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、至近1週間のうち数日にわたって、それら地域で軍事活動が続いていたため、空襲警報が発令されたと報告した。8月2日、チョルノービリ・サイトの専門家チームは、新チームと交代した。 

フメルニツキーとリウネに駐在するIAEA専門家チームは、両発電所の運転は引き続きウクライナの電力インフラに対する軍事紛争の影響の余波を受けていると報告した。専門家チームは、送電の制限により、一部の原子炉ユニットの出力レベルが一時的に低下した、と報告を受けた。 

「依然として、ウクライナ全体の電力インフラの脆弱性が非常に懸念されている。すべての原子力発電所の安全を維持するために、ウクライナ全土の電力網が安定していることが不可欠だ」とグロッシー事務局長は述べた。  今週、IAEAは、軍事紛争中のウクライナの原子力安全とセキュリティの維持を支援する取り組みの一環として、57回目の原子力安全とセキュリティ関連機器の調達を手配した。今回納入されたのは、ウクライナ国家非常事態庁(SESU)の放射線モニタリングネットワークおよび気象・水象機関の分析ラボ用のIT機器で、スウェーデンの資金援助により実施された。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-241-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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