ウクライナの原子力発電所の状況 #163


ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第247号(現地時間2024年8月29日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は来週、ウクライナを訪問し、ハイレベル協議を行い、原子力安全およびセキュリティが不安定な状態が続くザポリージャ原子力発電所(ZNPP)の状況を評価する。

グロッシー事務局長が2年前に原子力安全およびセキュリティを監視するため、ZNPPにIAEAの駐在体制を確立して以降、同サイトを訪問するのは今回で5回目。ウクライナ訪問は、2022年2月の紛争開始以降、10回目となる。

グロッシー事務局長は、次のように述べた。

IAEAは、原子力安全およびセキュリティに対する脅威があれば、いつでもどこでも迅速かつ果断に行動する。我々が積極的に発言することが、状況の安定化を図るために極めて重要である。この悲劇的な紛争を通じて、声を大にして言いたい。原子力事故は、絶対に避けなければならない。また、原子力発電所は決して攻撃されてはならない。結果は破滅的で、誰の得にもならない。この戦いが続く限り、原子力安全およびセキュリティを保護するために、私は全力を尽くす決意である。

ZNPPサイトでは、現地に駐在するIAEAチームが、時にはプラント付近で爆発音や軍事行動の兆候を継続して耳にしている。同地域ではドローンによる攻撃が報告されているため、IAEAチームは8月20日にはやむなく屋内退避し、予定していた視察を8月26日に延期せざるを得なかった。

グロッシー事務局長が2月にZNPPサイトを訪問して以降、ドローン攻撃により、外部電源を喪失したり、今月初めには2基の冷却塔のうち1基が、火災により大きな被害を受けた。

グロッシー事務局長は、「2年前に欧州最大の原子力発電所(ZNPP)で任務を開始して以降、その必要性がかつてないほど高まっている。これら最近の極めて懸念すべき事象で明らかなように、ZNPPの原子力安全およびセキュリティの状況は非常に厳しい。ZNPPをはじめ、ウクライナに駐在するIAEAチームは、極めて困難な状況下で国際社会のために、欠かすことのできない任務をあたっている」と述べた。

この1週間、ZNPPに駐在するIAEAチームは、継続中の原子力安全およびセキュリティ評価の一環として、サイト内の定期的な巡回を継続した。

IAEAチームは、5、6号機のタービン建屋を訪れたが、8月中旬に3、4号機、そして今月初めに2号機のタービン建屋を訪問した時と同様、再び建屋の西側には立ち入ることができなかった。

IAEAチームはまた、サイトの冷却水の状況について注意深く監視を続けている。昨年、下流のカホフカ・ダムが破壊されて以降、原子炉冷却やその他の安全機能維持に必要な水を確保するために、ZNPPは新たに11基の井戸を掘った。

ZNPPの原子炉6基はすべて冷温停止状態にあるため、今月初めに1基の井戸が一時的に停止したが、これらの井戸から供給される水は、同サイトの現在のニーズを満たすのに十分である。

IAEAチームはまた、ZNPPが新たな緊急時対応計画の実施を最終調整しており、今後2つの演習が予定されているとの報告を受けた。IAEAチームは、その演習を視察させるよう求めている。

ウクライナのエネルギー・インフラに対する広範な攻撃は、送電系統の不安定化につながり、他の原子力発電所の原子力安全に対する根強いリスクとなっている。今週初め、これら攻撃により、リウネと南ウクライナの両原子力発電所では、一部の原子炉が一時的に停止、または送電網から切り離された。フメルニツキーとチョルノービリの両原子力発電所の外部電源の状況も影響を受けた。いずれのサイトでも外部電源の完全な喪失には至らなかったが、運転中の原子力発電所の安全性は、電力系統への安定した信頼性のある接続に大きく依存している。

グロッシー事務局長は、「過去2年間にザポリージャ原子力発電所で何度も起きているように、どの発電所も国内電力系統へのアクセスをすべて失ったわけではないが、ウクライナのエネルギー・インフラの脆弱性が増していること、そしてこのことがウクライナの運転中のすべての原子力発電所の安全性に潜在的な影響を及ぼしている状況について、私はますます懸念している」と述べた。

チョルノービリ・サイトのチームは、先週後半交代した。

IAEAは、紛争中の原子力安全およびセキュリティを維持するため、ウクライナへの技術支援および援助を継続して実施している。過去数週間、IAEAは3件の新たな納入を実施した。チョルノービリ・サイトには、スタッフの生活状況を改善するため、マットレスが納入された。フメルニツキーには、分析能力の向上のためのスペクトロメーター1台と、職業被ばくのモニタリング能力を高めるための関連アクセサリを備えた個人用モニタリングシステムが届けられた。これらは、EU、日本、ノルウェーの資金援助により賄われた。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-247-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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