ウクライナの原子力発電所の状況 #164


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第248号(現地時間2024年9月5日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は今週、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)の冷却塔を訪れ、先月発生した大規模火災による被害を評価した。今回の火災は、軍事紛争中、同発電所で原子力安全とセキュリティに対する危機が続いていることを浮き彫りにした。 

ZNPPの冷却塔2基のうちの1基への訪問は、グロッシー事務局長のZNPPへの5回目の訪問時に行われた。今回の訪問は、同事務局長が初めて前線を越え、原子力事故防止のためにIAEAスタッフの駐在体制を確立して以降、2年が経ったタイミングであった。 

グロッシー事務局長は、6基の原子炉から1km以上離れた場所にある巨大なコンクリート製の冷却塔を約15m登り、冷却塔内壁が大きく損傷し、散乱した破片や黒焦げた表面などを確認した。6基はすべて冷温停止状態にあり、冷却塔は現在、残留熱を除去する必要はない。 

8月11日の夕方に発生した火災では、黒煙が発生したが、原子力安全を脅かすことはなかった。一方で、爆撃、砲撃、ドローン攻撃などの軍事活動の音はサイト周辺から定期的に聞こえ、軍事紛争が始まって3年目を迎えたZNPPが絶えず危機に直面していることを浮き彫りにしている。 

グロッシー事務局長は、「冷却塔が火災で損傷を受けたことは明らかで、解体が必要な可能性もある」と述べ、「引き続きこの件を詳しく調査し、何が起きたのか、どのような結果をもたらすのかを明らかにしたい。本日、自分たちの目で被害の全貌を確認できたので、評価作業にとって重要な一歩となった」と続けた。 

同事務局長はさらに、「ZNPPがドローン攻撃を受けてから数か月後に起きた今回の火災は、この壊滅的な戦争が続く限り、IAEAがサイトに駐在することに極めて重要な意味があることを示した。IAEAは、原子力事故の脅威を回避するために、不可欠な役割を果たし続けるだろう」と強調した。 

グロッシー事務局長はZNPPの視察中(9/4)に、昨年6月にカホフカ・ダムが破壊されてから、プラントがどのように管理されているのかを直接確認した。6基の原子炉のうち1基の給水ステーションを視察し、冷却池の冷却水の利用可能性を評価した。冷却池の水位は2023年半ばから2m強低下している。現在、11基の地下水井戸から供給される水によって、冷温停止中の6基の原子炉とその他の安全機能維持に必要な冷却が行われているが、井戸が利用できなくなった場合、冷却池が主要な水源となる。 

さらに、グロッシー事務局長は、ZNPPの特別棟の一角にある、新しい核燃料を保管する貯蔵施設を視察した。 

視察の大きな目的の一つとして、グロッシー事務局長は、過去数週間にわたりZNPPの状況を監視してきた専門家チームに代わる、新たなチームを現地に同行させた。これは、2022年9月以降、ZNPPに駐在する23番目のIAEA専門家チームである。 

グロッシー事務局長は、ヨーロッパ最大の原子力発電所であるZNPP訪問の前に、キーウでウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、エネルギーインフラがミサイル攻撃の標的となる頻度が増えたことをふまえ、IAEAのウクライナへの支援を拡大し、原子力安全とセキュリティに大きな影響を及ぼす可能性がある重要なエネルギーインフラを評価することで合意した。 

ZNPPの危険な状況をさらに強調するものとして、同プラントに駐在するIAEA専門家チームは、月曜日の夕方(9/2)に、唯一残る330kVの予備送電線が切断され、750kVの主送電線 1系統のみに頼らざるを得なくなった状況を報告した。軍事紛争前には、750kVの送電線が 4 系統、330kVの送電線が6系統、利用できた。およそ3日が経った本日(9/5)、予備送電線との再接続に成功した。 

トラブル発生直後、IAEA専門家チームは、送電線が切断されたと見られる場所から3kmほど離れた場所で黒煙を確認したが、これが関連しているかどうかすぐには判明しなかった。ZNPPは、送電線の切断は軍事活動によるもの、との見解を示している。 

IAEA専門家チームは至近1週間にわたってサイト内の巡回を続けており、具体的には、750kVの開閉所を訪れて、進行中の保守作業を確認したほか、カホフカ・ダムの破壊後に掘られた11基の地下水井戸から水が供給されている散水池も視察した。専門家チームは、ZNPPの冷温停止中の原子炉を冷却するのに十分な水があることを確認した。 

ウクライナのリウネ、南ウクライナの原子力発電所とチョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、原子力安全上重要な変電所を標的とした8月26日の広範囲に及ぶ軍事活動の後、各施設の外部送電線への接続が完全には復旧していないと報告した。専門家チームはまた、至近1週間のほとんどの日に空襲警報が発令されたと報告した。 

フメルニツキーでは、IAEA専門家チームが水曜日の早朝(9/4)にドローンと発砲音を耳にし、避難するよう指示を受けた。フメルニツキーとウクライナ国家原子力規制局(SNRIU)のIAEAへの報告によると、ドローンがプラントから数km離れたところを飛行した。同サイトの専門家チームは、水曜日に交代した。 

IAEAは今週、フランスおよびウクライナのエネルゴアトムとウクライナの原子力発電所への支援に関する協定に署名した。ウクライナは、南ウクライナ原子力発電所の非常用ディーゼル発電機に必要なスペア部品を受け取ることになる。外部電源を喪失した場合、原子力発電所は安全で安定した運転を継続するために、こうした機器が必要である。スペア部品の入手可能性など、保守活動は、原子力発電所の適切な機能を維持し、外部電源の喪失による原子力事故を防ぐために不可欠である。支援は、2023年にもウクライナに提供された。 

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-248-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine 


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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