ウクライナの原子力発電所の状況 #166


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第250号(現地時間2024年9月19日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は、今週開催されたIAEAの年次総会で、ウクライナでの軍事紛争の中で原子力事故防止を支援する取り組みを拡大していることを伝えるとともに、IAEAは至近2年間に140回以上の支援/援助ミッションを同国に派遣したことを明らかにした。 

グロッシー事務局長は、IAEAに加盟する178か国の高官らが出席した16日の総会のオープニングスピーチで、「ウクライナでの戦争が継続する中で、同国の原子力施設の安全とセキュリティ維持を目的としたIAEAの支援も続いている。我々の支援は状況に合わせて拡大し、適応してきた。例えば、原子力安全の維持に極めて重要な、ウクライナの原子力発電所への安定した電力供給を行う変電所の監視に、より積極的な姿勢で臨んでいる」と述べた。 

IAEAがザポリージャ原子力発電所(ZNPP)に拠点を置いてから2年が経過したが、ZNPPの原子力安全とセキュリティの状況は依然として不安定である、とグロッシー事務局長は語り、さらに「定期的に発生する爆発、ドローン攻撃、銃撃、繰り返し起こる外部電源からの供給の不安定化などの課題により、原子力事故のリスクが高まっている」と付け加えた。 

今週、IAEA専門家チームはZNPPで、サイト付近を含むさまざまな距離で爆発音を継続して耳にしているが、プラントへの被害は報告されていない。 

これとは別に、IAEA専門家チームはZNPPから、近隣の町・エネルホダル市に電力を供給する2系統の送電線が17日に詳細不明の軍事活動によって損傷を受けたため、ディーゼル発電機を利用して、ZNPPや水道のポンプ場を含む市内の「重要な」施設を稼働させた、と報告を受けた。送電線は今週後半に再接続され、ZNPPの原子力安全とセキュリティに影響はなかった。ZNPPは、最後に残る750kVおよび330kVの送電線から外部電力の供給を受け続けている。 

17日、IAEA専門家チームはZNPPが実施した緊急時訓練を視察した。訓練のシナリオには、巨大地震により1号機原子炉で冷却材喪失事故が発生し、その後すべての外部電源が失われ、非常用ディーゼル発電機3台すべてが故障するという内容が含まれていた。訓練シナリオにはさらに、ZNPPの訓練センターで火災が発生し、2人の職員が負傷、訓練センターからの避難および消防隊と救急車の対応が必要になったという内容もあった。 

IAEA専門家チームは、臨時緊急時対策センターと訓練センターから訓練を視察し、ZNPPは参加したスタッフの適切な対応と機器の信頼性に注目したと報告した。また、ZNPPは、事故時のプラントのデータに関する訓練参加者間のコミュニケーションや人員の放射能汚染モニタリングの報告などに関して、改善の余地があると分析した。 

IAEA専門家チームは引き続きサイト内を巡回し、5号機の給水ステーションを視察した。そこでは、昨年6月にカホフカ・ダムが破壊されて以来、ZNPP冷却池の水位が2.2m下がっていることを考慮し、ポンプの稼働状況について話し合った。冷温停止中であるZNPPの現在の状況から、ダムの破壊後に掘られた11基の井戸から供給される冷却水は、原子力安全とセキュリティに十分な量である。 

ウクライナのフメルニツキー、リウネ、南ウクライナの原子力発電所とチョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、紛争は依然として継続しており、至近1週間うち数日間にわたって空襲警報が発令されたが、原子力安全とセキュリティは維持されていると報告した。 

南ウクライナ原子力発電所のIAEA専門家チームは、至近1週間のうち夜間の3日間、複数のドローンが同発電所から1.5~6kmの距離を飛行していたと報告した。プラントへの被害や死傷者の報告はない。専門家チームは、ドローンの飛行音と銃声が聞こえた18日の夜を含む二晩、避難を余儀なくされた。 

フメルニツキーと南ウクライナの両原子力発電所に展開したIAEA専門家チームは、現場の緊急時対応センターを視察し、現在の運用準備状況と必要性について説明を受けた。 

ウクライナ国家原子力規制局(SNRIU)は、ハリキウ物理技術研究所(KIPT)にある未臨界中性子源施設が9月14日に砲撃されたが、被害はなかったとIAEAに報告した。ウクライナ北東部にあるこの原子力研究施設は、紛争が始まった2022年に既に大きな被害を受けたが、放射性物質の漏えいや申告された核物質の転用は確認されなかった。 

IAEAは、ウクライナの原子力安全とセキュリティ維持を支援するための包括的な支援プログラムを継続して実施してきた。紛争開始以来、計66回の調達が行われ、これまでに1,100万ユーロ(約17.5億円)以上に相当する機器がウクライナの様々な組織に届けられた。 

最近では、チョルノービリ・サイトにはスタッフの生活環境改善を目的として、550台のベッドが届けられた。これはIAEAの医療支援プログラムによる3回目の調達である。ウクライナのエネルギー省は、原子力発電所への確実な電力供給をエネルギー部門が支援するための機器や物資を複数回受け取った。リウネ原子力発電所とウクライナのVostGok社のウラン採掘・処理工場は、施設の核セキュリティ強化を支援する機器を受け取った。これらの調達は、カナダ、フランス、日本、ニュージーランド、ノルウェー、英国の資金援助により実施された。

さらに、IAEAはウクライナの原子力発電所で働く臨床心理医を対象に、現場の専門知識を活用し、国家レベルでの原子力発電所スタッフに対する持続可能なメンタルヘルス支援の確立を目的とした、一連の研修セッションを調整している。この研修セッションはIAEAの医療支援プログラムの一環として先月から開始され、日本の資金援助を受けている。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-250-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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