ウクライナの原子力発電所の状況 #167


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第251号(現地時間2024年9月26日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は今週、国連で世界各国の指導者を前に演説を行い、軍事紛争中にウクライナの原子力事故を回避するためのIAEAのたゆまぬ取組みを強調した。一方で、ウクライナの原子力発電所に駐在するIAEA専門家チームから、近傍でのドローン攻撃やその他の軍事活動についての報告が継続していることも明らかにした。 

今年の国連総会(UNGA)に先立ち開催された未来サミットで、グロッシー事務局長は、既に3年目を迎えている大規模な軍事紛争中にウクライナの原子力安全とセキュリティの確保を支援するなど、世界の平和と発展に貢献するというIAEAの使命について語った。 

グロッシー事務局長は、2022年2月の軍事紛争開始以前はウクライナの電力の半分以上を原子力発電が賄っていた点に触れ、「紛争初期の数か月間から、IAEAは国境を越えて深刻な影響を及ぼす可能性のある放射性物質の拡散や原子力事故を防ぐため、ウクライナへの支援に重点を置いてきた」と強調した。 

IAEAはそれ以来、紛争の最前線に位置するザポリージャ原子力発電所(ZNPP)やチョルノービリ・サイトを含む、ウクライナのすべての原子力施設に支援/調査ミッションを派遣してきた。 

グロッシー事務局長は23日の未来サミットでの声明のなかで「数か月に及ぶ交渉と協議を経て、2023年5月30日、国連安全保障理事会において、ZNPPの原子力安全とセキュリティを確保するための5つの具体的原則を示した。この原則は、安全保障理事会のメンバーから強い支持を得た」と強調した。 

ウクライナでの原子力安全とセキュリティにおいて継続している危機は、今週ニューヨークで行われたグロッシー事務局長と政府指導者や高官との数多くの会談でも重要な議題となった。その中には、ウクライナにおけるIAEAの活動に対する強い支持を表明したウクライナのアンドリー・シビハ新外相との会談も含まれている。 

ウクライナのIAEA専門家チームからの報告によると、原子力安全とセキュリティの状況は過去1週間にわたって不安定なままである。あるチームはドローンの飛来により避難し、別のチームは空襲警報中に対空射撃と大きな爆発の音を耳にした。さらに別のチームはドローン攻撃が行われたとされる現場を訪れた。 

ZNPPでは、IAEA専門家チームは週を通じて爆発音を耳にし、サイト近くでの数回の爆発音もあったが、プラントへの被害は報告されていない。 

ZNPPは21日、20日の午後にZNPPから約300m離れた35/6kV変電所におけるドローンと思われる攻撃についてIAEA専門家チームに報告した。この変電所は、給水ポンプ場、水管理プラント、外部倉庫など、ZNPPの安全性に直接は関連のない施設に電力を供給している。 

攻撃があったとされる翌日、被害現場を訪れたIAEA専門家チームは、変電所の変圧器2台のうち1台に影響があったことを確認した。また、ドローンとされるもののバッテリーや金属片の残骸も現場で確認された。ZNPPによると、修理作業が続いている。 

至近1週間、IAEA専門家チームはZNPPのサイト内の視察を継続し、原子力安全とセキュリティにとって重要なメンテナンスやその他の活動について協議した。しかし25日に、軍事活動によるリスクのため、計画していた外部倉庫とディーゼル燃料貯蔵施設への視察は許可されなかった。 

軍事紛争中、適切なメンテナンスの確保は依然として困難である。IAEA専門家チームは、ZNPPが非常用ディーゼル発電機(EDG)の信頼性確保のために実施している5つのメンテナンスのカテゴリーと、メンテナンスの実施頻度について報告を受けた。ZNPPによると、毎月の目視による検査と年間のメンテナンスなど、メンテナンスのカテゴリー1,2が2024年中に実施される。今後数年間で、一部のEDGに対してより高度なメンテナンスが計画されている。専門家チームはまた、至近数か月間に6号機で実施されたメンテナンス活動の進捗状況についても報告を受けた。 

IAEA専門家チームは他の活動の一環として、3号機と4号機のタービン建屋を訪問したが、これまでと同様に西側部分への立ち入りは許可されなかった。23日、専門家チームは5号機の原子炉建屋の中を巡回し、月例の使用済み燃料プールの冷却ポンプ交換作業や、原子炉の主要コンポーネントと安全システム室の一部を視察した。 

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所、そしてチョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、至近1週間のうち数日間にわたって空襲警報が発令されるなど、進行中の紛争の影響があるにもかかわらず、原子力安全とセキュリティは維持されている、と報告した。 

先週末、南ウクライナ原子力発電所(SUNPP)2号機は、8月26日のプラント敷地外の電力網への軍事攻撃の結果、損傷した主冷却ポンプ1台の電動モーターを修理するため、冷温停止状態に移行した。修理完了後、同機は25日に運転を再開し、出力を上昇させている。8月の攻撃後に切断されていた2系統の外部送電線とSUNPPの接続も復旧した。 

9月18日の夜、SUNPPのIAEA専門家チームは、付近にドローンがいるとの報告があったため、避難を余儀なくされた。SUNPPによると、その後、22機のドローンが同地域を飛行、うち1機はプラント上空を飛行し、他のドローンはプラントから約1.5km離れた地点で観測されたという。さらに翌19日夜、SUNPPはサイト付近で15機のドローンを確認した。9月20日と21日の夜には、ウクライナ国家原子力規制局(SNRIU)から、それぞれ2機と8機のドローンがSUNPP周辺を飛行した、との報告を受けた。 

9月22日の早朝、フメルニツキー原子力発電所(KhNPP)のIAEA専門家チームは空襲警報を確認し、その間対空射撃と大きな爆発の音を耳にした。ドローンは、KhNPPから約3.4km離れた場所で検知されたという。26日の早朝、空襲警報が複数回発令されたため、何度も避難を余儀なくされた。 

今週初め、SUNPPとKhNPPではIAEA専門家チームが交代した。 

ウクライナ国内ではSNRIUがIAEAに対し、北東部のハリキウにある、東部原子力・放射線安全検査局の地域支部が軍事活動により被害を受けた、と報告した。死傷者はいなかった。 

IAEAは今週も、ウクライナの原子力安全とセキュリティ維持を支援するための包括的な支援プログラムを継続した。空間放射線量測定を行うクワッドコプター型ドローン2機が、放射線監視能力強化を目的として、ウクライナ国家非常事態庁(SESU)傘下のウクライナ水文気象機関に届けられた。この納入はスイスの資金援助によって行われた。 

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-251-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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