ウクライナの原子力発電所の状況 #168


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第252号(現地時間2024年10月3日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は今週、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)が、唯一残る予備送電線との接続を36時間喪失したことを明らかにした。このことは、原子炉6基の冷却やその他の原子力安全・セキュリティに必要な、電力供給の脆弱性を浮き彫りにしている。

10月1日の朝、330kVの予備送電線が切断されたため、ZNPPは再び唯一の750kV主送電線に完全に頼らざるを得なくなった。軍事紛争前は、750kV送電線が4系統、330kV送電線が6系統利用可能だったが、2022年2月以降、原子力安全とセキュリティの深刻な悪化が浮き彫りとなっている。今回の事象の原因はすぐに明らかにはならなかったものの、330kV送電線は2日の夕方に復旧した。

ZNPPは軍事紛争が始まって以来、部分的または完全な停電を繰り返しており、紛争中の原子力安全とセキュリティを維持する上で最も困難な課題の1つとなっている。これまでに合計で8回、全ての外部電源が失われ、一時的に非常用ディーゼル発電機に頼らざるを得なくなった。

グロッシー事務局長は、「外部電源の状況は依然として大きな懸念事項だ。今回の330kV送電線の切断は、この点で状況が改善されていないことを示している」と述べた。

330kV送電線が切断される前日、ZNPPに駐在するIAEA専門家チームは、9月29日に砲撃があったとの情報を受け、ほとんどのZNPPのスタッフが住むエネルホダル市にある、ラドゥガ変電所を訪れた。専門家チームは、変電所の2台の変圧器のうち1台が砲撃により破壊され、もう1台の変圧器は送電線1系統の損傷により6月から利用できないことを確認した。変電所は以前、エネルホダル市とZNPP付近の工業地帯にバックアップ電力を供給するために使用されていた。

さらに、ZNPPはIAEA専門家チームに対し、同じ砲撃により、ZNPPとザポリージャ火力発電所の150 kVの開閉所を結ぶ、近くの別の送電線が損傷したと報告した。この損傷により、ZNPPへの潜在的なバックアップ電源の供給が制限されている。送電線の修復は、現在進行中である。

本日早朝、数週間にわたってZNPPに駐在していたIAEA専門家チームは、別のチームに交代した。軍事紛争中の原子力事故防止のため、グロッシー事務局長が紛争の最前線に位置するZNPPにIAEAの駐在体制を敷いて以来、今回で24番目のチームとなる。

先週、現在は既に交代したIAEA専門家チームは、プラントへの被害は報告されていないものの、サイト近くでの数回の爆発を含め、ほぼ毎日爆発音を耳にし続けた。

IAEA専門家チームは、750kVの開閉所、すべての原子炉の中央制御室、サイト内の水道施設の一部を含む、ZNPP全体の定期的な巡回を実施した。

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所とチョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、至近1週間のうち数日にわたる空襲警報など、進行中の紛争の影響があるにもかかわらず、原子力安全とセキュリティは維持されている、と報告した。

フメルニツキー原子力発電所では、7月に始まった燃料交換停止の完了後、1号機が送電を再開した。また、8月下旬のウクライナの送電網に対する攻撃後、750kV送電線が再接続され、現在はすべての外部送電線が利用可能となっている。

ウクライナの原子力規制当局はIAEAに対し、9月末に2回、9月27日と29日の夜に、それぞれ10機と13機のドローンが南ウクライナ原子力発電所の周辺を飛行し、そのうち1機はサイトの真上を飛行したと報告した。同局は本日、10月1日早朝に5機のドローンが同じエリアを飛行し、うち1機がサイトの上空を飛行したと追加報告した。

IAEAは、ウクライナの原子力安全とセキュリティの維持を支援するための包括的な支援プログラムを継続的に実施している。

軍事紛争中、ウクライナでは狂犬病の発生率が上昇している。そのため、IAEAはここ数週間、原子力発電所付近の病院への狂犬病ワクチンの調達を支援し、狂犬病の救命治療を発電所スタッフに提供する能力を強化している。

さらに、ウクライナ全土の10か所の都市にある保健省の地方公衆衛生センターに、ガンマ線スペクトロメータ10台が届けられた。紛争中の放射線または原子力緊急事態のリスクを考慮して、この機器で放射能分析能力を強化する。

これにより、軍事紛争開始以来の機器と物資の調達回数は69となり、総額1,200万ユーロ(約19.5億円)となる。

これら最新の調達は、オーストラリア、カナダ、日本、ノルウェー、韓国、米国の資金援助によって実施された。 今週、グロッシー事務局長はベラルーシを訪問し、首都ミンスクでA. ルカシェンコ大統領と会談し、オストロベツにあるベラルシアン原子力発電所を視察した。この際、ルカシェンコ大統領はグロッシー事務局長に対し、ベラルーシのいかなる行動もチョルノービリ・サイトの原子力安全やセキュリティを損なうものではないことを確認した。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-252-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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