ウクライナの原子力発電所の状況 #172


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第256号(現地時間2024年10月24日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)で、唯一残る330kV予備送電線との接続を喪失し(今月2度目)、原子炉の冷却やその他の主要な原子力安全・セキュリティ機能に必要な外部電力を、唯一残った750kV主送電線に再度依存する状況となったことを明らかにした。

ZNPPに駐在するIAEA専門家チームは、10月21日から22日にかけて、ドニプロ川の対岸で発生した原因不明の被害により、330kV予備送電線との接続を26時間以上喪失したと報告を受けた。10月初旬に発生した同送電線との接続喪失から3週間が経過したタイミングだった。どちらのケースでも、ZNPPは唯一残った750kV主送電線から電力供給を受け続けていた。軍事紛争前、ヨーロッパ最大の原子力発電所であるZNPPでは、750kV送電線が4系統、330kV送電線が6系統利用可能だった。

グロッシー事務局長は「かつては考えられなかったことようなことが、大規模な原子力発電所が度重なる外部電源喪失に見舞われることが、壊滅的な戦争のさなかで頻繁に発生するようになった。この点からも状況が改善していないことは明らかだ。ZNPPの原子力安全とセキュリティの状況は依然として非常に不安定だ」と述べた。

リスクが依然として存在することを裏付けるように、ZNPPへの被害は報告されていないものの、IAEA専門家チームは至近1週間で毎日爆発音を耳にし続けている。

IAEA専門家チームは、ZNPPの原子力安全とセキュリティを評価する活動の一環として、4号機の非常用ディーゼル発電機(EDG)の試験の視察など、サイト内を巡回した。ZNPPのスタッフとの会議では、サイト内のEDGの制御システムの近代化やZNPPの放射線防護プログラムに関する最新の手順など、その他の重要なトピックについても話し合った。

IAEA専門家チームは先週、8月の火災で被害を受けた冷却塔の訪問に続き、被害の範囲をどのように確認、評価するかについて、作業を実施する外部業者の選定を含め、ZNPPと協議した。

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所とチョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、至近1週間のうち数日間に渡って空襲警報が発令されるなど、軍事紛争の影響はあるものの、原子力安全とセキュリティは維持されていると報告している。

IAEA専門家チームは、南ウクライナ原子力発電所で、原子炉安全保護系が作動していないにもかかわらず、1号機の安全保護系に誤った信号が送られたため、22日夕方に約4時間にわたって1号機が電力網との接続を失ったと報告を受けた。この事象の根本的な原因は調査中である。同機は現在、電力網に再び接続し、電力を供給している。

ウクライナの要請により、IAEA専門家チームは今週、同国の6か所の変電所を訪問する。これは、9月から開始された原子力安全に不可欠な電力網インフラの状況を評価するIAEAの作業の一環である。専門家チームは訪問時、同国の原子力発電所に外部電力を供給する変電所の実際の被害と潜在的な被害が、与える影響について調査する。

外部電源への確実なアクセスは、2年半前にグロッシー事務局長が強調した原子力安全とセキュリティの維持に不可欠な7つの柱の1つである。原子力発電所の運転の安全性は安定した送電網との接続に依存しているが、原子力発電所と送電網に関する状況はここ数か月でますます不安定なものになっている。

IAEAはすでにウクライナのすべての原子力発電所に専門家チームを駐在させており、軍事紛争中の原子力安全とセキュリティの維持に貢献している。

IAEAは、要請された機器の輸送を含む、ウクライナの原子力安全とセキュリティを支援する包括的支援プログラムの実施を継続している。今週、ウウクライナ国家非常事態庁(SESU)傘下のウクライナ水文気象機関へ、分析能力を強化する2つの分光測定システムがスイスの資金援助により調達された。これは、軍事紛争開始以来、ウクライナへの71回目の調達であり、これまでの総額は1,210万ユーロ(約20億円)を超える。

さらにIAEAは、2号機の停止中に行う試験装置の修理のため、リウネ原子力発電所から2台の静的試験装置を業者に届ける手配を行った。修理にはノルウェーが資金を援助した。修理は来年4月末までに完了し、修理された試験台は同発電所に戻され、2号機が運転再開がされる。この装置は、原子力産業やその他の産業で、油圧ショックアブソーバーなどの部品のストレステストに使用されている。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-256-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

お問い合わせ先:情報・コミュニケーション部 TEL:03-6256-9312(直通)