ウクライナの原子力発電所の状況 #173


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第257号(現地時間2024年10月31日)[仮訳] 

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)で、原子炉の一次冷却系に接続された導圧管で小規模な水漏れが検知されたため、6基の原子炉のうち1基で修理が行われていると発表した。作業は今週後半にも完了予定。 

ZNPPに駐在するIAEA専門家チームは10月29日、原子炉の一次冷却系の一部である導圧管の1つから水が漏れており、修理が必要との情報を受け、1号機を視察した。この作業では、一次冷却系の圧力を大気圧と同レベルまで下げる必要があった。専門家チームは10月31日、溶接作業が完了し、溶接部の放射線検査が進行中であるとの報告を受けた。 

グロッシー事務局長は、「原子力安全に関する差し迫った問題はないと思われるが、IAEAは引き続きこの問題を注視していく。一般的に、紛争中のZNPPにとって課題となるのは、持続可能な原子力安全とセキュリティを確保するために不可欠な定期的な設備、機器のメンテナンスであると認識している」と述べた。 

ZNPP の他の 5 基の原子炉と同様に、1 号機は、今週メンテナンスのため停止状態に変更される前までは冷温停止状態にあり、電力供給は行っていなかった。導圧管の修理が完了し試験が終了後、1 号機は再び冷温停止状態に移行する見込み。 

IAEA専門家チームは先週、紛争の最前線にあるため、全体的な状況が依然として不安定なZNPPの原子力安全とセキュリティを評価し報告するための、継続的な作業の一環として、その他の視察も実施した。 

今週初め、IAEA専門家チームは6基すべての中央制御室を視察し、主要​​なプラント機器のパラメータと人員の配置状況を調査した。専門家チームはまた、2号機と5号機の非常用ディーゼル発電機(EDG)の一部を訪問し、機器の状態やディーゼル燃料の状況を確認した。 

毎週のように、IAEA専門家チームは日々爆発音を耳にし続けているが、プラントへの被害は報告されていない。 

ウクライナの他の地域では、IAEA専門家チームが先週、9月から開始した、原子力安全に不可欠な系統インフラの状況を評価するIAEAの活動の一環として、7つの変電所の訪問を終えた。 

ウクライナからの要請による訪問の間、IAEA専門家チームは、今年初めの軍事活動によって引き起こされた被害が、変電所から運転中の原子力発電所への電力供給にどのような影響を与えたかを検証した。外部電源からの電力供給は、2022年3月にグロッシー事務局長が発表した、原子力安全とセキュリティ維持に不可欠な7つの柱で強調されている事項である。 

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所とチョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、至近1週間のうち数日間にわたって空襲警報が発令されるなど、軍事紛争の影響はあるものの、原子力安全とセキュリティは維持されていると報告している。 

10月28日、フメルニツキー原子力発電所のIAEA専門家チームは、ドローンの飛行音を耳にした後、空襲警報が発令されため、数時間ホテルでの避難を余儀なくされた。その後、専門家チームは、ウクライナの規制当局から午前中に12機のドローンがサイト付近を飛行し、最も近いものはサイトから400mの距離を飛んだと報告を受けた。規制当局はまた、至近1週間に3回、南ウクライナ原子力発電所付近でドローンの目撃が報告されたと述べた。 

グロッシー事務局長は、「原子力発電所付近をドローンが飛行しているという報告が頻繁にあり、原子力安全とセキュリティに対する深い懸念が続いている。繰り返し述べてきたように、原子力発電所付近でのいかなる軍事活動も潜在的なリスクを伴う」と述べた。 

IAEAは、要請された機器の供給など、ウクライナの原子力安全とセキュリティを支援する包括的支援プログラムを継続的に実施している。 

至近2週間で、南ウクライナ原子力発電所は放射線・汚染監視装置を受領し、USIE Izotop(医療、産業などの放射性物質管理に携わる国営企業)は、個人用防護具(PPE)を受領した。これらは、日本、スイス、英国の資金支援により実施された。これまでに、IAEAは合計73件の機器およびその他の物資の調達を行っている。 

先週、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所とチョルノービリ・サイトのスタッフ 109 名を対象に、ヒューマン・パフォーマンスとマネジメントの観察および指導に関する遠隔研修が行われた。この研修では、原子力安全に影響を及ぼす可能性のあるヒューマンエラーのリスクの回避、または軽減に関するスキルなどを、管理職を含むスタッフに身に付けさせることを目的としている。 

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-257-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

お問い合わせ先:情報・コミュニケーション部 TEL:03-6256-9312(直通)