ウクライナの原子力発電所の状況 #175


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第259号(現地時間2024年11月15日)[仮訳] 

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)で行われている複数の原子炉安全保護系のメンテナンス作業について、軍事紛争中の原子力事故を防ぐための幅広い取り組みの重要な一環だと述べた。 

ZNPPの状況に関する定期報告の中で、IAEAは以前より、「安全上重要なすべての構造物、システム、部品の適切かつタイムリーな予防保守の確保」を、紛争中のプラントが直面する課題の1つとして特定しており、長期的な原子力安全とセキュリティに潜在的なリスクをもたすと警鐘を鳴らしていた。 

今月初め、ZNPPに駐在するIAEA専門家チームは、4号機と5号機の計2つの安全トレインが水位調整弁の作業のためにメンテナンス中であるとの報告を受けた。作業は現在既に完了しており、2つの安全トレインは待機状態に戻っている。今週、さらに5号機と6号機の計2つの安全トレインも計画保守のため停止した。 

ZNPPの6基の原子炉にはそれぞれ、「安全トレイン」と呼ばれる 3 つの独立した安全保護系がある。これらの冗長性を持ったシステムは、原子力安全を確保するために設計されている。通常、安全トレインは常に待機状態となっているが、原子炉の安全性を維持するために必要時にいつでも起動が可能なものだ。欧州最大の原子力発電所であるZNPPの6基の原子炉はすべて冷温停止状態であるものの、運用可能な安全保護系は必ず必要だ。 

グロッシー事務局長は「プラントは、頻繁な停電や近くでの戦闘活動など、日々多くの課題に直面しているが、それに加えて、安全保護系がいつでも完全に機能するよう、必要不可欠な作業を実行する必要がある」と述べた。 

IAEA専門家チームは、依然として不安定な原子力安全とセキュリティを監視し、IAEA本部へ報告する活動の一環として、サイト内の視察を続けている。 

至近2週間にわたり、IAEA専門家チームのメンバーは1号機から4号機のタービン建屋を訪れたが、西側部分への立ち入りはこれまでと同様に叶わなかった。さらに、以前と同じく、ZNPP側のセキュリティ上の懸念を理由として、サイト外の保管庫とディーゼル燃料の貯蔵庫を訪問することも許可されなかった。ディーゼル燃料は、これから訪れる冬期だけでなく、プラントの非常用ディーゼル発電機にとっても不可欠である。 

IAEA専門家チームは爆発音を毎日耳にし続けているが、プラントへの被害は報告されていない。IAEAは、ZNPPのスタッフの大半が住む近隣の町エネルホダルの住民が軍事攻撃により死亡したという報道を確認している。この人物がZNPPのスタッフであったかどうかについて、IAEAは情報を得ていない。 

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所とチョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、ここ1週間のうち数日間に渡って空襲警報が発令されるなど、進行中の軍事紛争の影響はあるものの、原子力安全とセキュリティは維持されていると報告した。 

11月7日、ウクライナの原子力規制当局はIAEAに対し、チョルノービリ・サイトの立入禁止区域内にある使用済み燃料貯蔵施設が約2時間にわたり外部電源を喪失し、その間、非常用ディーゼル発電機から電力が供給されていたと報告した。エネルゴアトム社が所有する同施設は、ウクライナの使用済み燃料の長期乾式貯蔵に使用されている。 

4日後、ウクライナの運転中の原子力発電所(リウネの2基、フメルニツキーの2基、南ウクライナの3基すべて)は、軍事紛争の状況を踏まえた予防措置として、一時的に出力を低下させた。 

ウクライナの原子力規制当局はまた、至近数週間にわたりフメルニツキーと南ウクライナの各原子力発電所の付近で多数のドローンが観測されたとIAEAに報告した。 

IAEAは、原子力安全とセキュリティを支援する包括的支援プログラムの実施を継続している。最近、3件の調達が新たに実施され、紛争中の調達は合計76件となった。南ウクライナ原子力発電所、スラブティチ市立病院、およびチョルノービリ・サイトの医療部門は、診断および治療能力の向上のために重要な医療機器と物資を受け取った。これは、ノルウェーと米国からの資金提供によって行われた。 

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-259-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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