ウクライナの原子力発電所の状況 #177


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第261号(現地時間2024年11月21日)[仮訳]  

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は、今週開催されたIAEA理事会で、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)で、唯一残っている750kV主送電線への接続が数日間で2度も切断されたことを明らかにし、ZNPPの原子力安全とセキュリティは「依然として危険にさらされている」と述べた。 

グロッシー事務局長は、ZNPPに駐在するIAEA専門家チームからの情報を引用し、プラントから約17km離れた場所で発生した原因不明の損傷が原因で、16日朝から最初の接続が切断され、翌日正午ごろに修復・復旧するまで30時間余り続いたと述べた。そして今朝、750kV主送電線との接続が再び切断された。 

切断された結果、ZNPP は原子炉冷却やその他の主要な原子力安全に必要な電力を唯一の330kV予備電力線に頼らざるを得なくなった。ZNPPでは、この予備送電線との接続も10月に2回喪失しており、電力供給の脆弱性がさらに浮き彫りとなった。軍事紛争前、欧州最大の原子力発電所であるZNPPでは、750 kV送電線が4系統、330kV予備線が6系統利用可能だった。 

グロッシー事務局長は、今週、軍事紛争が1000日目を迎えたことに触れ、IAEAは当初からウクライナの原子力安全とセキュリティを支援しており、5か所の原子力発電所すべてで行っている継続的な駐在の一環として、これまでに155のミッションを展開してきたと述べた。 

グロッシー事務局長は20日のIAEA理事会での冒頭声明で、最大の原子力発電所であるZNPPでは「限られた外部電源による電力供給の脆弱性等により、引き続き課題に直面している」と述べた。そして、「原子炉6基すべてが冷温停止状態にあり、原子力安全とセキュリティの状況が危険にさらされている限り、原子炉を再稼働させないというのがIAEAの基本的なスタンスだ」と強調した。 

ウクライナの電力システムにおいて、運転中の3つの原子力発電所(フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ)の原子力安全に対する懸念も高まっている。これらの原子力発電所は、発送電および原子力安全に係わる重要な機能に必要な外部電力を受電するために、送電網との信頼性が高く、安定した接続が必要である。 

先週末、ウクライナのエネルギーインフラが広範囲にわたる軍事活動の標的になったと報じられたことで、これらの原子力発電所が直面しているリスクが浮き彫りとなった。3か月前には、IAEAが原子力安全上重要としている、ウクライナ全土の多数の変電所が軍事攻撃で甚大な被害を受けた。 

ウクライナの4か所の変電所と送電線は、11月16日夜から17日早朝にかけての攻撃により再び被害を受け、ウクライナの運転中の原子力発電所は予防措置として出力を低下させた。原子力発電所はここ数日、徐々に送電線が復旧し、出力を上げ始めたが、今朝、再度復旧する前に、予防措置として出力を再び低下させた。 

一方、南ウクライナ原子力発電所は今朝、メンテナンスのため2系統の750kV主送電線との接続を停止した。予備電源システムから電力は供給されている。 

グロッシー事務局長は「不安定化する電力網は、原子力の安全性に対する懸念を深めており、すべての原子力発電所に影響を及ぼしている」と述べた。 

最近のウクライナのエネルギーインフラに対する攻撃の前に、IAEA専門家チームは、原子力安全とセキュリティ確保を支援する幅広い取組みの一環として、9月と10月に7か所の変電所を訪問し、8月の攻撃による被害を評価した。 

グロッシー事務局長は今週の理事会で「訪問したすべての変電所に甚大な被害があったことを記録し、ウクライナの原子力発電所に信頼性の高い外部電力を供給する送電網の能力が大幅に低下していると結論付けた。ウクライナは、修理と追加の防護対策を実施している」と述べた。 

グロッシー事務局長は、原子力安全とセキュリティ維持に不可欠な7つの柱を遵守することの重要性を繰り返し強調しており、その中で、すべての原子力サイトで、外部電源(送電網)からの電力が確実に供給されなければならないと定めている。 

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所とチョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、不安定な送電網と、至近1週間で数回発生した空襲警報など軍事紛争の影響にもかかわらず、原子力安全とセキュリティは維持されていると報告した。 

IAEAは、ウクライナに対する包括的な支援プログラムを継続的に実施している。 

19日にチョルノービリとヴァラシュ病院に救急車が届けられたことに加え、血液・尿分析装置、除細動器、心電図計、レントゲン、血糖値測定システムなどの医療機器が、スラブティチ保健センター、ヴァラシュ病院、ネティシン病院、国立放射線医学・血液学・腫瘍学研究センターに届けられ、各施設の医療能力強化に役立つことになる。 

また、ウクライナの原子力事業者であるエネルゴアトム社の使用済み燃料集中中間貯蔵施設には、各スタッフの被ばく線量を監視できる線量測定システムが届けられた。 

これはオーストリア、デンマーク、スイス、米国の資金提供によって行われた。軍事紛争発生以来、IAEAはウクライナへの機器や物資の調達を82回実施しており、その総額は1,240万ユーロを超える。 

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-261-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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