ウクライナの原子力発電所の状況 #179
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第263号(現地時間2024年12月5日)[仮訳]
ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は本日、ウクライナで運転中の3サイトの原子力発電所が通常の発電をほぼ回復したことを明らかにした。先週、同国の脆弱化する電力系統への攻撃が再燃し、予防的措置として出力を大幅に低下させて運転していた。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナには、計9基の原子炉があるが、現在8基が運転中、1基が停止中である。11月28日の軍事攻撃により、原子力安全に不可欠な電力インフラに影響があり、数日間出力を落として運転していた原子炉もあったが、この1週間で、大半が徐々に出力を回復している。まだ、プラントが送受電に使用する外部送電線のいくつかは、切断されたままである。
グロッシー事務局長は、「ウクライナが必要とする電力、特に冬の寒い時期に必要な発電に不可欠である、運転中原子力発電所の原子力安全を確保するためには、確実な外部電源を提供する安定した送電系統が重要。事業者は、先週の出力低下後、原子力発電所の原子力安全を維持し、発電できるよう、電力系統が不安定であった期間もその後も、大きな回復力を発揮している」と述べた。
その一方で、同事務局長は、「脆弱な電力系統の状況は、依然として深刻な懸念の根っこにあり、原子力発電所が依存している変電所への専門家のフォローアップも含め、関連する動向を注視し続ける。私は改めて、外部の電力供給および原子力安全に影響を及ぼすような行動を取らぬよう、最大限の自制を求める」と述べた。
度重なる空襲警報など、軍事紛争の影響にもかかわらず、フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所、そしてチョルノービリ・サイトに駐在するIAEAチームは、これら施設の原子力安全およびセキュリティは維持されている、と報告している。
フメルニツキー原子力発電所では、IAEAチームのメンバーが火曜日、短い時間であったが、同サイトで避難を余儀なくされたが、サイト自体には影響はなかった。南ウクライナ原子力発電所では、今週初めに合計17機のドローンが検知され、そのうちの数機はサイトから3㎞離れた場所で検知されたという。
ウクライナ最大の原子力発電所であるザポリージャ・サイトは、2年以上も発電していない。6基はすべて冷温停止状態にあるが、原子炉冷却や原子力安全機能維持に必要な外部電源が必要である。しかし、この点において、依然として不安定な状況が続いており、残る送電線はいずれも頻繁に停電する傾向にある。
この不安定な外部電源の状況を浮き彫りにする最近の出来事として、ZNPPに最後に残る750kV送電線が11月21~23日にかけて切断され、先週末には330kV予備送電線が2日間切断された。
さらに外部電源状況に関連して、IAEAチームは、プラント敷地外にある開閉所の、ZNPPの750kV送電線の電圧安定装置が、保護装置の作動により自動的に切り離された後、修理中であるとの報告を受けた。ZNPPは、来月中にも電圧安定装置の運転再開を予定している。750kVの接続には影響はなかった。
IAEAチームは、2、3、6号機の安全システム関連を含め、ZNPPのメンテナンス活動を引き続き、綿密にフォローしている。チームはまた、1号機を訪問し、先月実施されたインパルスライン1本の漏れの修理を視察した。1号機の他の約30か所でガンマ線ラジオグラフィ(非破壊検査)が実施され、劣化した溶接部がもう1か所確認されたが、漏れはなかったという。両方の溶接部は修理され、再び試験した。IAEAチームは引き続き、この問題を監視する。
IAEAチームは、外部のスぺア部品の倉庫およびディーゼル燃料貯蔵施設への立ち入りを拒否され続けている。しかし、2年以上前に被害を受けたディーゼル燃料貯蔵タンクは、修復されているとのこと。
ZNPPに駐在するIAEAチームはほぼ毎日、爆発音を耳にしている。そのほとんどが、サイトから離れた場所からの音であり、プラントへの影響はないと報告している。
IAEAは、原子力安全とセキュリティを支援する包括的な支援プログラムの一環として、ウクライナへの新たな機器の納入を手配し、その合計は86件となった。ウクライナのウラン採掘・加工プラントを運営する国営企業VostGokは、電離放射線にさらされるスタッフの個人線量を監視する能力を強化するため、線量測定システムを受領した。この機器は、日本からの資金で調達された。デンマークからの資金提供により、ウクライナの水文気象センターとウクライナ非常事態庁の水文気象機関は、携帯用液体窒素発生装置3台を受領した。さらに、アイルランドからの資金援助により、10個の接続スイッチを備えた1台のCisco統合型サービスルータがリウネ原子力発電所に納入された。
これとは別に、フランスおよびウクライナのエネルゴアトム社と協力し、IAEAは、南ウクライナ原子力発電所の非常用ディーゼル発電機のタイムリーなメンテナンスに必要なスペア部品とゴム製品の納入を支援した。
これらの納入により、紛争開始以降、ウクライナには1,400万ユーロ以上の原子力安全およびセキュリティに関連する機器が納入された。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
お問い合わせ先:情報・コミュニケーション部 TEL:03-6256-9312(直通)