ウクライナの原子力発電所の状況 #183


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第267号(現地時間2024年12月18日)[仮訳]   

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は、今週IAEAの調査チームがウクライナを訪れ、同国の原子力発電所が安全に発電するために必要不可欠な、変電所7か所を訪問することを明らかにした。脆弱さが増すエネルギーインフラに対する最近の軍事攻撃が、原子力安全に及ぼした影響を評価することが目的。 

原子力発電所は、発送電ならびに原子炉冷却用の外部電力を受電するために、信頼性の高い送電網への接続が必要である。しかし、変電所を含むウクライナのエネルギーインフラへの度重なる攻撃により、送電網が弱体化し、外部電力の供給安定性が低下、原子力安全が危険にさらされる可能性がある。 

グロッシー事務局長が軍事紛争の初期に概説した、IAEAの安全基準に基づく、原子力安全とセキュリティ維持に不可欠な7つの柱は、「すべての原子力サイトで、外部電源(送電網)からの電力が確実に供給されなければならない」と強調している。 

グロッシー事務局長は「IAEAの安全基準は、安定した外部電力の供給システムを確保することが最も重要であると強調している。さらに、基本安全原則では、原子力事故を防ぐためにあらゆる努力をしなければならないとしている。信頼性の高い送電網は、原子力安全の深層防護に大きく貢献する」と述べた。 

IAEAは、軍事紛争中に3度目となる専門家チームを変電所に派遣した。これらの変電所は、現在運転中のフメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所と、現在停止中のザポリージャ原子力発電所、そしてチョルノービリ・サイトの原子力安全維持に不可欠とされている。 

変電所は、エネルギーの送配電ネットワークの重要な拠点として機能し、ウクライナの各所に点在している。 

9月と10月に実施された、ウクライナの変電所の状況評価のためのIAEAの調査では、広範囲にわたる被害が確認され、電力網の脆弱性に関する重要な証拠も集められた。 

グロッシー事務局長は「7か所の変電所を訪問中、IAEAの調査チームは、11月28日を含むウクライナのエネルギーインフラへの最近の攻撃による原子力安全への影響について視察し、情報を収集している。送電網の不安定化の加速は、原子力安全にとって大きな課題であり、IAEAはこの危険な状況に対処するために既に動いている」と述べた。 

グロッシー事務局長はさらに、「調査チームが収集しているデータを分析し、ウクライナに技術面のアドバイスを行うとともに、軍事紛争中の原子力事故防止に役立てるために、どのような追加支援を提供できるかを検討する」と続けた。 

IAEA調査チームは今週、ウクライナの系統運用事業者、国営原子力事業者、原子力規制当局の各専門家とも会談する予定だ。 

ウクライナのエネルギーインフラへの新たな攻撃により、1か月足らずで3度の出力低下を実施してから数日後、稼働中の原子炉9基のほとんどがフル稼働を再開し、困難な状況下での回復力を示した。18日現在、送電網の容量減少により、2基は依然として出力を落として稼働している。 

頻繁に発生していることだが、フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所とチョルノービリ・サイトのIAEA専門家チームは、至近1週間にわたる空襲警報の発令を報告した。 

フメルニツキーに駐在する専門家チームは、ドローンの飛来により、16日の朝に避難を余儀なくされた。ドローンとの距離は最も近い時で900mだった。さらに、ウクライナの規制当局はIAEAに対し、13日に同発電所から3.7kmの地点で巡航ミサイルが観測されたと報告した。 

ウクライナ最大の原子力発電所であるザポリージャ原子力発電所(ZNPP)では、IAEA専門家チームが、至近1週間のほぼ毎日、発電所のさまざまな距離から爆発音を耳にした。原子炉6基が冷温停止状態にあるZNPPへの被害は報告されていない。 

ZNPPに拠点を置くIAEA専門家チームは、サイト内外からの電力供給の利用状況を継続して監視している。しかし、本日予定されていた750kVの開閉所への訪問は、セキュリティ上の理由により、ZNPP側からキャンセルされた。 

ZNPPは専門家チームに対し、新たに可搬式ディーゼル発電機を入手したと伝えた。 これらは、発電所の全電源喪失、外部電源の完全喪失、およびサイト内の20台の非常用ディーゼル発電機が原子力安全維持に十分な電力を供給できない事態が、同時に発生した場合に備えるものである。

また今週、IAEAは原子力安全とセキュリティを支援する包括的支援プログラムの一環として、ウクライナへの新たな調達を2件手配し、これで紛争中の調達は合計91件となった。  リウネ原子力発電所には、酸素濃度計、除細動器、心電計などの医療機器や物資が届けられ、ネティシン病院にはデジタルX線装置が届けられた。これらは、ノルウェーの資金提供によって行われた。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-267-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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