ウクライナの原子力発電所の状況 #184
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第268号(現地時間2024年1月2日)[仮訳]
ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長によると、IAEAではウクライナの変電所への視察調査の結果をレビュー中である。これは原子力安全とセキュリティを監視する取り組みの一環として、ウクライナのエネルギーインフラに対する攻撃の影響を踏まえて実施されている。
12月25日に発生した大規模な攻撃を含む、最近発生したウクライナのエネルギーインフラに対する攻撃により、稼働中の原子力発電所3サイトで、一部の原子炉の出力が数時間にわたって低下し、ウクライナの電力網の安定性が低下した。その後、原子炉はすべてフル出力に復帰している。
12月16日から23日までの8日間の調査で、IAEA専門家チームは、ウクライナのフメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所の安全な運転に不可欠な7か所の変電所に関する技術的な情報を収集した。原子力発電所は、稼働中の原子力発電所で発送電や、原子力安全の維持に必要な外部電源に接続するために、信頼性が高く安定した送電網を必要としている。ザポリージャ原子力発電所(ZNPP)やチョルノービリ・サイトも、原子力安全の維持のために、信頼性が高く安定した外部電源が必要不可欠である。
変電所を視察したIAEA専門家チームは、被害状況を記録し、エネルギーインフラへの攻撃が原因で生じた電力網の脆弱性を浮き彫りにする重要な証拠を収集した。視察の最中、専門家チームはウクライナの系統運用事業者、国営原子力事業者、原子力規制当局の各専門家と会談した。IAEAは、今回の視察と過去2回行った変電所の調査から得た情報を基に、原子力事故防止を目的とした技術支援の提供に取り組んでいる。
グロッシー事務局長は「これらの攻撃は送電網の安定性に影響を及ぼし、外部電源との接続を不安定にし、原子力安全に対するリスクを生み出している」と述べた。さらに、「IAEAが実施する変電所への継続的な調査と原子力発電所5サイトへの駐在は、ウクライナの原子力安全とセキュリティ、特に発電所への確実で安定した外部電力の供給を監視するために不可欠である」と続けた。
IAEAのザポリージャ支援/調査ミッション(ISAMZ)は、原子力発電所の原子力安全およびセキュリティシステムと設備の状態確認のため、引き続き現地を巡回し、施設のメンテナンス活動を監視している。
外部電源との接続が不安定な状況を浮き彫りにするもう一つの事例として、ZNPPに駐在するIAEA専門家チームは、ZNPPに残る最後の330kV予備送電線が、12月20日~22日と12月24日~25日の2回にわたり、メンテナンスのために切断されたと報告を受けた。軍事紛争前、欧州最大の原子力発電所であるZNPPでは、750kV主送電線が4系統、330kV予備送電線が6系統利用可能だった。
IAEA専門家チームは、ZNPP冷却池の汚濁防止と水流の維持に使用されている4号機の循環ポンプが、冷却池の水位維持のため、12月18日に停止したと報告を受けた。ZNPPは、冷温停止中の6基の原子炉に冷却水を供給するスプリンクラー池に、11基の地下水井戸から、十分に水が供給されていることを確認した。ZNPPの6基の原子炉は、2年以上発電をしていない。
IAEA専門家チームは、ZNPPの2号機と6号機の安全トレインと、共通の非常用ディーゼル発電機1台について、計画されたメンテナンス作業が先週完了したと報告を受けた。さらに、ディーゼル蒸気発生器が12月12日から30日まで稼働し、約800立方メートルの放射性液体廃棄物を処理した。
ZNPPの専門家チームは、発電所付近で軍事活動の音を耳にし続けている。ISAMZチームは、至近数日間、ウクライナ最大の原子力発電所であるZNPPからさまざまな距離での爆発音を確認した。ZNPPへの被害は報告されていない。
また、フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所とチョルノービリ・サイトのIAEA専門家チームも空襲警報の発令を報告し続けており、フメルニツキーの専門家チームは至近1週間のうちに数回、避難を余儀なくされた。
ウクライナ国家原子力規制局(SNRIU)はIAEAに対し、ハリキウ物理技術研究所の未臨界の中性子源を扱う施設が12月25日の朝、軍事活動の影響で外部電源を喪失したことを報告した。施設は現在も閉鎖中で、外部電源が約5時間後に復旧するまで、非常用ディーゼル発電機から電力の供給を受けていた。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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