ウクライナの原子力発電所の状況 #186
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第270号(現地時間2025年1月17日)[仮訳]
ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は、ここ数日のウクライナの原子力発電所付近での軍事活動の活発化により、リウネ原子力発電所が1月15日に一時的に出力を低下させたことを明らかにした。
原子力安全とセキュリティについて評価、報告する継続的な取組みの一環として、稼働中のフメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ(ZNPP)の各原子力発電所およびチョルノービリ・サイトに駐在するIAEAスタッフは、ここ数日間の大規模な軍事活動について報告した。
リウネ原子力発電所では、空襲に対する予防的措置として、送電事業者からの要請により、1月15日の朝に1基の出力を低下させたが、同日午前中には、フル稼働を再開した。
軍事紛争の最前線にあり、全般的な状況が依然として不安定なZNPPでは、IAEA専門家チームが、プラントから様々な距離で毎日複数回爆発が発生していると報告した。
チョルノービリ・サイトでは、至近2か月間、ドローンが立入禁止区域上空を飛行しているのが目撃されているとIAEA専門家チームに報告があった。1月14日には、少なくとも2機のドローンが立入禁止区域の近くを飛行した。専門家チームは、付近で耳にした銃声についても報告した。
フメルニツキー原子力発電所のIAEA専門家チームは、1月15日に発令された空襲警報のため、居宅への避難を余儀なくされた。南ウクライナ原子力発電所のIAEA専門家チームは、サイトから5km離れたエリアで最近、ドローンの目撃情報を入手した。
グロッシー事務局長は「こうした継続的な脅威は、原子力発電所の原子力安全とセキュリティを危険にさらし続けている」と述べ、「このような活動を監視し報告するために、我々の存在は極めて重要だ。原子力施設への攻撃で利益を得る者は誰もいないし、誰しもがこうした危険に無関心でいることはできない」と続けた。
ウクライナのエネルギーインフラへの攻撃を受け、IAEAは最近のウクライナの変電所視察の際に収集した情報を引き続き分析しているが、ZNPPでは外部電源の課題が依然として存在している。ZNPPに唯一残る330kV予備送電線は、1月12日にメンテナンスのため数時間にわたって切断された。一方、IAEA専門家チームは、保護装置の作動により切断されていた、ZNPPの750kV主送電線の電圧安定装置の修理が完了し、12月31日に再接続に成功したとの報告を受けた。
さらに、IAEA のザポリージャ支援/調査ミッション(ISAMZ)チームには、複数の原子炉安全システムのメンテナンスについて報告があった。2号機と6号機の安全トレインでメンテナンス作業が実施され、4号機の安全トレインと、外部電源喪失時に電力を供給する非常用ディーゼル発電機(EDG)のうちの1台でメンテナンス作業が開始された。
近くで軍事活動が続いているという困難な状況にもかかわらず、IAEA専門家チームは至近1週間にわたり、ZNPPサイト内の定期的な視察を続けている。各原子炉の中央制御室を訪れ、スタッフの配置を確認し、6号機のEDGの燃料レベルをチェックし、6号機の使用済み燃料プール冷却ポンプの交換作業に立ち会った。さらに、専門家チームは、以前はZNPPから立ち入りを拒否されていた、2つの冷却塔(そのうちの1つは2024年8月に損傷を受けた)の周辺を含む冷却池エリアを訪れた。2号機のタービン建屋の視察も実施したが、建屋の西側への立ち入りは再度ZNPPから拒否された。専門家チームは、臨時のサイト内緊急事対応センターも訪問し、緊急時に対する準備・対応計画案や、2025年に実施予定の緊急時対応訓練について議論した。
IAEAは、ウクライナの原子力安全とセキュリティを支援する包括的支援プログラムを継続して実施している。1月2日にIAEAが行った国営原子力事業者エネルゴアトム社への個別モニタリングシステムの調達を実施し、機器と物資の調達回数が100回を迎えた。さらに至近3週間で、放射線防護と原子力セキュリティ関連の機器、ディーゼル発電機、IT機器、医療機器と物資を含む11の追加調達がウクライナの9つの組織に行われた。これらは、チェコ、デンマーク、イタリア、ノルウェー、英国からの資金提供によって行われた。軍事紛争の発生以来、機器と物資の調達の総額は1,500万ユーロを超える。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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