ウクライナの原子力発電所の状況 #189


 ◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第273号(現地時間2025年2月6日)[仮訳] 

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長はこのほど、原子力事故防止に向けた継続的な取組みの一環として、ウクライナを訪問。ゼレンスキー大統領と会談したほか、原子力安全に必要不可欠なエネルギーインフラの被害を評価した。今回の訪問は、約3年前に軍事紛争が始まって以来11回目。

2月4日にキーウでのゼレンスキー大統領および政府高官との会談に先立ち、グロッシー事務局長は、ウクライナの原子力発電所の原子炉冷却やその他の重要な原子力安全・セキュリティ機能に必要な外部電力の供給源であり、発送電にも使用している変電所の一つを視察した。

ウクライナで稼働中のフメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所は、広範囲にわたる軍事活動による電力系統への影響で、ここ数か月の間に数回にわたり出力低下を余儀なくされている。ウクライナは最近、複数の原子力発電所が2月1日に一時的に出力を下げ、その後再び通常運転に戻ったことをIAEAに報告した。

至近数か月でさらに損傷と劣化が進んだいくつかの施設の1つである変電所で、グロッシー事務局長は「IAEAの立場として変電所が非常に重要である理由は、変電所の状況が原子力発電所の運転の安全性に影響を及ぼすからだ」と記者団に説明した。

グロッシー事務局長は「現在の状況は、原子力安全を損ない、最終的には事故につながる可能性がある」と述べ、「外部電源を維持することは不可欠だ」と強調し、原子力発電所の原子力安全とセキュリティにとって安定した電力系統の重要性を指摘した。

IAEA専門家チームは、原子力安全とセキュリティにとって重要なウクライナ国内の9か所の変電所を視察しているが、その中には2月4日にグロッシー事務局長が訪問した変電所も含まれている。これらのうち5か所の変電所は、2024年9月、10月、12月に行われた専門家チームによる視察で2回評価されており、専門家は継続的な劣化を確認した。

IAEA専門家チームは変電所訪問中に情報を収集し、状況を評価したうえで、技術的なアドバイスを提供する。

グロッシー事務局長は「状況は非常に深刻であり、この事実を隠すべきではないと考えている。一目でわかるように、インフラは劣化している」と、明らかに損傷した単巻変圧器を前に語った。

グロッシー事務局長はまた、この変電所や他のウクライナの変電所で「送電系統の安定性を維持する」ために実施された、損傷した変圧器の交換などの作業にも言及した。

グロッシー事務局長は、ゼレンスキー大統領、シビハ外相、ガルシチェンコ・エネルギー相との会談で、中断しているブルガリアのベレネ原子力発電所プロジェクトから、フメルニツキー原子力発電所に建設中の新しい原子炉用機器を購入する計画の進捗状況についても話し合った。グロッシー事務局長は、IAEAはこの計画に原子力安全に関する助言と技術支援を提供していると述べた。

至近1週間で、ウクライナの原子力発電所に駐在するIAEA専門家チームは、サイト近くでの軍事活動の兆候について報告を続けており、原子力安全とセキュリティに対する潜在的なリスクが常に意識されている状況である。

ザポリージャ原子力発電所(ZNPP)で、IAEA専門家チームはほぼ毎日、爆発音を複数回耳にし、時に爆発音はプラントのすぐ近くでも発生した。サイト内の被害は報告されていない。

1月29日にZNPPで唯一利用可能な750kV主送電線が切断された後、2月1日に再接続された。その結果、軍事紛争前は合計10系統の送電線があったZNPPでは、330kV予備送電線を含む2系統の外部送電線のみが利用可能な状況となっている。

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所とチョルノービリ・サイトのIAEA専門家チームは、毎日空襲警報の発令を報告し続けた。リウネ以外の各チームは、サイト付近でドローンが検知されたと報告を受けた。

南ウクライナでは、軍事活動の影響で1月29日に切断された750kV送電線が、現在も利用できない状態となっている。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-273-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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