ウクライナの原子力発電所の状況 #193


 ◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第277号(現地時間2025年2月20日)[仮訳] 

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は20日、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)の予備送電線切断以降、1週間以上にわたり1系統の送電線にのみ頼らざるを得ない状況となっていることを明らかにした。軍事紛争中の原子力安全が極めて脆弱であることが改めて浮き彫りになっている。

原子力発電所は、原子炉の冷却やその他の重要な原子力安全およびセキュリティ機能維持のため、外部電源からの安定した電力供給を必要とする。しかし、至近3年間でZNPPは一時的な外部電源喪失を8回経験するなど、電力供給の維持が大きな課題となっている。

電力網からの電力供給の信頼性に影響を及ぼす直近の事象としては、ZNPPに唯一残る330kV予備送電線が2月11日に切断され、まだ完全には復旧していない。これにより、ヨーロッパ最大の原子力発電所であるZNPPは、1系統の750kV主送電線のみに完全に依存している。軍事紛争前は、750kV主送電線が6系統、330kV予備送電線が4系統、計10系統の送電線が利用可能だった。

グロッシー事務局長は「ZNPPの原子炉6基はすでに2年以上停止しているが、原子炉の冷却のために依然として外部電力の確実な供給は必要」と述べ、「外部電力の脆弱性は、依然として原子力安全に対する大きな懸念である」と続けた。

ZNPPによると、先週、保護システムの作動により、330kV予備送電線が切断された。ウクライナの規制当局はIAEAに対し、何らかの軍事活動が原因で送電線が損傷したと報告した。現在、ZNPPのIAEA専門家チームは、サイト内のバックアップ電源の状況に関するさらなる情報収集を続けている。

原子力安全が常に抱えるリスクをさらに強調するものとして、IAEA専門家チームは2月12日、ZNPPの近くで爆発音を耳にした。これは、サイトから約300m離れた場所でドローン攻撃があったという未確認の報告と一致している。専門家チームは至近1週間、ZNPPからさまざまな距離で毎日爆発音を耳にしている。サイトへの被害は、今のところ報告されていない。

IAEA専門家チームは、原子力安全とセキュリティを監視および評価する作業の一環として、ZNPP全体の巡回を続けている。

IAEAは、周辺地域の激しい軍事活動によって先週延期された、ZNPPのIAEA専門家チームの次回交代について、ウクライナ・ロシア双方と連絡を取り合っている。

チョルノービリ・サイトでは、2月14日にドローンが1986年の事故で損傷した原子炉を覆うために建造された新安全閉じ込め構造物(NSC)の屋根を、ドローンが2月14日に穴を空けて以降、消防隊による消火活動が続けられている。

爆発の影響を調査するため、制限なしで現場への立ち入りを許可された、チョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、状況を独自に監視するために定期的な巡回と放射線量の測定を行っている。専門家チームによる測定では、IAEAが2年以上前から現場で駐在を開始して以来記録してきた値と比較しても、NSC周辺のガンマ線量率は引き続き正常な値を示している。 ウクライナのフメルニツキー、リウネ、南ウクライナ原子力発電所に駐在するIAEA専門家チームは、至近1週間にわたって頻繁に発令されている空襲警報を報告しており、それぞれのサイトの周辺地域にドローンが飛来しているという情報も入手している。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-277-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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