ウクライナの原子力発電所の状況 #196

◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第280号(現地時間2025年3月13日)[仮訳]
国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は本日、1986年の事故で破壊された原子炉を覆う大型閉じ込め構造物に甚大な被害をもたらした先月のドローン攻撃後、ウクライナの消防士らがチョルノービリ・サイトの火災を完全に制圧したことを明らかにした。
2月14日早朝のドローン攻撃により、新安全閉じ込め構造物(NSC)の屋根に大きな穴が開き、建物内で火災が発生し、2週間以上も火はくすぶり続けた。
ドローンによる攻撃の余波を食い止めるために24時間体制で作業していたウクライナの緊急対応部隊は、徐々にすべての小火を消し去ることに成功した。先週金曜日、現場は「緊急事態」から「制御された状況」にランクを下げることができた。
サイトに拠点を置くIAEAチームは、ドローン攻撃の時点から、NSCの状況を隈なく観察、評価してきた。
このアーチ型の構造物には、大気中への放射性物質の放出から環境を保護すること、その下の古いシェルター構造物(石棺)が外部要因によって劣化するのを防ぐこと、そして解体作業を容易にすることなど、複数の機能がある。
しかし、ドローン攻撃の結果、NSCの閉じ込め機能は損なわれている。サイトに拠点を置くIAEAチームによる初期の現場評価によると、火災とくすぶりにより、屋根の北側と南側を含む広範囲に及ぶ被害が発生した。NSCは、大規模な修復作業が必要となるであろう。
チョルノービリ・サイトは、過去数週間にわたり追加的な放射線モニタリングを実施し、その結果をIAEAチームに報告している。IAEAチームも独自の独立したモニタリングを実施している。これまでに行われたすべての放射線モニタリング結果から、サイトの放射線量には上昇が見られなかったことが分かっている。
グロッシー事務局長は、「ウクライナの緊急対応部隊は、数週間にわたり、厳しい状況下で、時には凍えるような気象条件の中で懸命に働いてきた。彼らの称賛に値する努力が報われ、緊急事態は現在落ち着いており、これは非常に良いニュースだ」と述べた。
一方で、事務局長は「私は1か月前に起きたドローン攻撃について非常に懸念している。この攻撃は原子力安全に深刻な脅威をもたらし、国際社会が巨額の費用をかけて建設したNSCに大きな被害を与えた。今後の困難な課題は、この構造物を修復し、閉じ込め機能を回復することだ。原子力施設への攻撃は絶対に受け入れられない」と述べた。
紛争中の原子力安全のリスクが常に存在していることをさらに強調するものとして、チョルノービリ・サイトに駐在するIAEAスタッフはここ1週間、空襲警報を複数回報告し続けている。
さらに、ウクライナ国家原子力規制局(SNRIU)は、3月8日の夜にチョルノービリ・サイト内でドローンの飛行が目撃されたとIAEAに報告した。
原子力安全およびセキュリティの不安定な状況は、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)でも明らかで、現地のIAEAチームはほぼ毎日、発電所からさまざまな距離で爆発音を耳にしている。
IAEAチームは、サイトの継続的なメンテナンス作業など、原子力安全およびセキュリティの監視を継続した。750kV開閉所では、紛争のため切断されたままになっているサイトの3系統の750kV主送電線のうち、1系統の遮断器のメンテナンスが2月に開始された。今週には、5号機の主変圧器と、それを開閉所につなぐ遮断器のメンテナンスが開始された。
サイトを巡回した際、IAEAの専門家らは、12基のスプリンクラー池の水位を測定し、現在停止状態にある原子炉6基を冷却するのに十分な水があることを確認した。
ウクライナ国内では、運転中の3つの原子力発電所(フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ)に拠点を置くIAEAチームが、これらサイトの原子力安全およびセキュリティの状況について監視を続けている。報告によると、IAEAチームは、ほぼ毎日空襲警報を耳にしている。
過去1週間、IAEAはリウネ、南ウクライナ、チョルノービリの各サイトで駐在チームの交代を実施し、ここ数週間、駐在していた同僚らに代わって新たなIAEAチームが活動している。
一方、IAEAはウクライナに対する原子力安全およびセキュリティに関する包括的な支援プログラムを継続しており、新たに2件の機器が届けられた。これにより、武力紛争開始以来の機器供与の総数は113件となった。南ウクライナ原子力発電所には産業オートメーションシステムのスペア部品と通信試験機器が、チョルノービリの医療ユニットには医療用品がそれぞれ提供された。これらの調達は、アイルランド、フランス、スウェーデンの資金援助で行われた。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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