ウクライナの原子力発電所の状況 #197


 ◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第281号(現地時間2025年3月21日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は、ウクライナにおける軍事衝突をめぐる現在の協議において、ザポリージャ原子力発電所(ZNPP)が「議論の対象となっている」ことは前向きな兆候だと述べ、IAEAとしてそうした取組みに対して技術的支援を行う用意があると強調した。

そして事務局長は「IAEAは2年半にわたって中断することなく、この大規模な原子力発電所であるZNPPに駐在し、壊滅的な原子力事故の防止に全力を尽くしてきた。IAEAは、この破壊的な軍事紛争が可能な限り早く終わることを願っている」と語った。

続けて、「ZNPPの状況に関する深い知識と専門性を有するIAEAは、ZNPPに関する将来的な合意の実施において、技術面での貢献と支援を提供する用意ができている。IAEAは、原子力安全とセキュリティの確保のために必要とされる限り、存在し続ける」とも述べた。

グロッシー事務局長は今週初め、SNSでの声明の中で、ZNPPの安全確保につながる「エネルギーインフラに対する自制に関する進展」を歓迎すると述べた。ZNPPは軍事紛争の最前線に位置している。

至近1週間、ZNPPに駐在するIAEA専門家チームは、現在行われているさまざまなメンテナンス活動を視察した。この作業は、原子力安全とセキュリティ全体にとって極めて重要であるが、軍事紛争中に継続することは難しい。

活動には、発電所の 750kV開閉所のメンテナンスも含まれており、この開閉所には、すべての外部電源を喪失した場合に電力を供給するための、新しい固定式非常用ディーゼル発電機も設置されている。さらに、IAEA専門家チームは5号機の主変圧器と1号機の安全装置のメンテナンスも確認した。また、開閉所の遮断器のメンテナンスのため、330kV 予備送電線が一時的に切断された。

グロッシー事務局長は「すべての原子力発電所において、構造物、システム、部品の定期的なメンテナンスは、原子力安全とセキュリティのリスクを高めるこれらの重要施設の劣化を防ぐために必要だ」と述べた。

グロッシー事務局長は「3年間の軍事紛争の中で、これは特に難しい課題だった。原子力安全とセキュリティに対するより差し迫った脅威を回避することに重点が置かれ、スタッフやその他の資源も不足していた。その状況は今も変わらないが、ある程度のメンテナンスがまだ行われているのは前向きなことだ」と語った。

今月初めのIAEA理事会の定例会合に先立ち発表されたウクライナに関する最新報告書の中で、グロッシー事務局長は、ZNPPが6基の原子炉すべての計画的メンテナンス期間を含む、2025年までのメンテナンス計画をIAEAに提出したと述べた。

一方で、グロッシー事務局長は報告書の中で「現在行われているメンテナンスは、通常期待される包括的なレベルにはまだ達していない」とも指摘した。

IAEA専門家チームは先週、ZNPP2号機の原子炉建屋と安全システム室を訪問し、中央制御室の壁と床に結露が見られ、塗装されていない部分に腐食の兆候が見られることを確認した。ZNPPは、結露は原子炉の冷温停止状態が原因だとしている。

先週、IAEA専門家チームはZNPPからさまざまな距離で軍事活動の音を耳にしたと報告したが、今週は今のところ確認されていない。

ウクライナ国内では、フメルニツキー原子力発電所の原子炉1基で計画的なメンテナンスと燃料交換作業が継続されている。また、南ウクライナ原子力発電所の原子炉1基はポンプの水漏れを修理するために一時的に出力を落とさなければならなかったが、現在は修理が完了している。

至近1週間のほぼ毎日、フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所とチョルノービリ・サイトのIAEA専門家チームは空襲警報の発令を確認したと報告した。14日、フメルニツキーとリウネ原子力発電所の専門家チームはサイト内で避難した。

一方、IAEAはウクライナの原子力安全とセキュリティを支援する包括的支援プログラムを継続しており、新たに2つの機器を納入したことで、軍事紛争開始以来の物資の調達は115回となった。

リウネ水文気象センターにはガンマ分光計システム1台が納入され、医療、産業などの目的で使用される放射性物質の管理に携わる国営企業であるUSIE Izotop社はピックアップ トラック1台を受け取った。これらは、欧州連合(EU)と韓国からの資金提供によって行われた。今後数か月以内に、ウクライナへのさらなる支援が予定されている。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-281-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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