ウクライナの原子力発電所の状況 (第2週報:3月6日~3月10日)(現地時間) #2
◆ウクライナ原子力規制局(SNRIU)発表(2022年3月8日公開08:00<現地時間>)
<ザポロジェ原子力発電所>
1号機 :送電網から切り離し済み
2号機 :980MWで運転中
3号機 :送電網から切り離し済み
4号機 :980MW で運転中
5号機 :送電網から切り離し済み
6号機 :送電網から切り離し済み
<ロブノ原子力発電所>
1号機 :送電網から切り離し済み
2号機 :425MWで運転中
3号機 :665MWで運転中
4号機 :1010MW で運転中
<フメルニツキ原子力発電所>
1号機 :980MWで運転中
2号機 :送電網から切り離し済み
<南ウクライナ原子力発電所>
1号機 :980MWで運転中
2号機 :980MWで運転中
3号機 :送電網から切り離し済み
<チェルノブイリ原子力発電所> 廃炉中
【ウクライナの原子力関係機関】
国家原子力規制検査局(SNRIU): https://snriu.gov.ua/en/timeline?&type=posts
国営原子力発電会社・エネルゴアトム(Energoatom):https://www.energoatom.com.ua/en/
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 更新17 2022年3月10日(IAEA声明仮訳)
ラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は、ウクライナから国際原子力機関(IAEA)に対して、ロシアが支配するチェルノブイリ原子力発電所が外部電源の供給をすべて失った翌日、同発電所との全ての通信が途絶えたと連絡があったことを明らかにした。
事務局長は、同発電所サイトの電力が復旧したとの報告を承知しており、現在確認を取っているところであると述べた。
ウクライナの規制当局は同日未明、非常用ディーゼル発電機がチェルノブイリ原子力発電所に電力を供給しているとIAEAに伝えていた。その後、通信が途絶えたため、規制当局からIAEAにサイトの最新情報を提供することができなくなった。
通信が途絶える前のウクライナの規制当局の情報によると、同発電所の送電線が2系統とも損傷し、送電網から切り離された状態になっている。電力供給を継続するためには、この送電線を修理するか、2日分の燃料を保持している発電機にディーゼルを追加で供給する必要がある。規制当局によると、ディーゼル発電機は使用済燃料や水管理、化学的な水処理など安全上重要なシステムに電力を供給しており、放射線モニタリングや換気システム、通常の照明など一部の機能を運転員が維持できない状態であるという。
しかし、更新16で報告したように、使用済燃料施設の冷却水の量は電力供給がなくても除熱を維持できるため、系統からの切り離しは、さまざまな放射性廃棄物管理施設がある同施設の本質的な安全機能に重大な影響を与えることはないとしている。
さらに規制当局は、同サイトの使用済燃料貯蔵施設の安全解析報告書は、ディーゼル発電機などの非常用電源による電力供給を含む全電源喪失の場合、「本質的な安全機能に影響を与えない」と結論付けており、この評価を確認している。また、使用済燃料貯蔵プールの構造や設備に損傷はなく、本来の機能が維持されていることも確認できている。
非常用電源が喪失した場合でも、使用済燃料プールの水位や温度を職員が監視することは可能であると規制当局が発表した。しかし、この作業は、施設の換気不足により放射線安全が悪化した状態で行われることになる。また、運用上の放射線安全手順にも従えなくなる。
事務局長は、ロシア軍が2月24日に征圧する前日から交代で勤務することができないチェルノブイリ原子力発電所の職員の状況が悪化し、疲弊していることに警鐘を鳴らしている。また、「運転員は原子力安全・セキュリティ上の義務を果たし、不当な圧力から解放された意思決定ができる能力を有していること」という重要な安全の柱が損なわれていると述べている。さらにストレスの多い状況に拍車をかけているのが、通信手段の完全な喪失である。以前は、メールで規制当局と連絡が取れていた。
ウクライナの運転中の原子力発電所の状況について、規制当局は、同国の15基の原子炉のうち、ザポロジェの2基、ロブノの3基、フメルニツキの1基、南ウクライナの2基など、計8基が運転を継続していると発表した。4サイトの放射線レベルは正常であるという。
ザポロジェ原子力発電所サイトの電力供給の状況は、更新16で報告したものと変わっていない。サイトには高圧(750kV)の外部電源の送電線が4系統あり、さらに1系統が待機している。4系統のうち2系統が損傷しているため、現在は2系統の送電線と待機中の1系統の送電線がある。事業者はIAEAに対し、原子力発電所の外部電源の電力需要は、利用可能な1系統の送電線でまかなうことができると報告した。さらに、ディーゼル発電機がバックアップ電源として用意され、機能している。
しかし、ザポロジェ発電所の別の問題として、計画的な修理を行うために必要なスペアパーツや機器、専門の人員を現地に送ることが現状では不可能であり、1号機の保守活動は、発電所の運転手順で求められる最小限のレベルにまで低下している。
また事務局長は、IAEAがウクライナの放射線監視システムに関して、ウクライナ当局と連絡をとっていると述べた。
更新16で報告したチェルノブイリ原子力発電所とザポロジェ原子力発電所の核物質と活動を監視するために設置された保障措置システムからの遠隔データの送信が失われたことについて、IAEAはこれらの設置済みの監視システムとの通信を再開できていない。
グロッシー事務局長は本日、トルコのアンタルヤでドミトリー・クレバ外相とセルゲイ・ラブロフ外相と会談した。事務局長はウィーンに戻った後、記者会見を行った。
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 更新16 2022年3月9日(IAEA声明仮訳)
ラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は、ウクライナが本日、国際原子力機関(IAEA)に対し、2週間前にロシア軍が現場を掌握したチェルノブイリ原子力発電所が送電網から切り離され、外部電源の供給が喪失しているとの報告があったことを発表した。
事務局長は、ウクライナの状況が安全やセキュリティ、保障措置に及ぼす影響に対処するために招集された3月2日のIAEA理事会で概説した「すべての原子力サイトで、外部電源(送電網)からの電力が確実に供給されること」は、原子力安全とセキュリティに不可欠な7つの柱のうちの1つであるとして、今回の進展に深い懸念を表明した。
しかし、グロッシー事務局長は、チェルノブイリ原子力発電所の場合、送電網からの切り離しが、さまざまな放射性廃棄物管理施設がある同発電所の本質的な安全機能に重大な影響を与えることはないとの見解で、IAEAとウクライナの規制当局が一致したと述べた。具体的には、サイトの使用済燃料貯蔵施設について、プール内の冷却水の量は、電力供給がなくても使用済燃料の効果的な熱除去を維持するのに十分な量であるという。また、敷地内にはディーゼル発電機とバッテリーによる非常用電源の予備電源がある。
しかし、電力不足はサイトの放射線安全をさらに悪化させ、過去2週間ローテーションができず、事実上24時間サイトで生活している約210人の技術専門家や警備員にさらなるストレスを与える可能性があると、グロッシー事務局長は付け加えた。
グロッシー事務局長は、「チェルノブイリ原子力発電所の状況は日々悪化しており、特に放射線安全や極めて困難で厳しい状況下で施設を管理しているスタッフの状況は悪化している。発電所を実効支配している勢力に対し、内部の放射線防護手順を尊重し、スタッフの安全なローテーションを促進し、安全を確保するためのその他の重要な措置をとるよう、緊急に繰り返し訴える」と述べた。
別の展開として、事務局長は、IAEAはここ数日、チェルノブイリ原子力発電所と現在ロシア軍に支配されているウクライナのザポロジェ原子力発電所の核物質を監視するために設置された保障措置システムからの遠隔データの送信が失われている、と述べた。使用済核燃料や新燃料などの核物質が大量に存在する2サイトから、IAEAのウィーン本部へのこうしたデータの送信が突然途絶えたことを懸念しているとも述べた。
保障措置データの送信が中断された理由は、すぐには明らかにされなかった。IAEAは、他の3つの原子力発電所を含むウクライナの他の原子力施設からのこうしたデータの受信を続けている。
事務局長は、「世界中の原子力サイトに設置されたIAEAの保障措置機器からのデータの遠隔送信は、ウクライナのみならず世界中の保障措置を実施するうえで重要な要素である。このようなシステムは、ウクライナのすべての原子力発電所を含むいくつかの施設に設置されており、IAEAの査察官が不在のときでも、これらの施設での核物質や活動を監視することができる」と語った。
データがローカルに保存されるよう技術的な機能が備わっていたとしても、監視システムの運用状況だけでなく、保存容量についても不確かなままであるという。
保障措置の技術的手段を通じて、IAEAは、各国が核物質や技術を平和目的にのみ使用する国際的な法的義務を守っているかどうかを検証している。
ウクライナの運転中の原子力発電所の状況について、規制当局は、同国の15基の原子炉のうち、ザポロジェ原子力発電所の2基を含む8基が運転中であると述べた。各サイトの放射線量は通常通りだという。
ザポロジェ原子力発電所の敷地内には、高電圧(750kV)の外部電源の送電線が4系統あり、さらに1系統が待機状態である。事業者はIAEAに対し、2系統が損傷したため、現在は2系統の送電線と待機中の1系統が利用可能であると報告した。事業者はまた、原子力発電所の外部電源の電力需要は、利用可能な 1系統の送電線でまかなえると述べた。さらに、ディーゼル発電機もバックアップ電源として用意され、機能している。グロッシー事務局長は、「それにもかかわらず、すべての原子力サイトで外部電源(送電網)からの電力が確実に供給されるという安全の柱が損なわれたもう一つの例である」と述べた。
さらに規制当局は、3月4日の事象を受けて冷却システムの損傷が確認された6号機の変圧器が使用できなくなり、緊急修理中であることを報告した。
これらの最近の動きは、ウクライナの紛争が、運転中の4基の原子力発電所やチェルノブイリ・サイトを含む同国の原子力施設に与える安全やセキュリティ、保障措置上の影響について、IAEAの懸念を増大させるものである。
グロッシー事務局長は、ウクライナに関する新たな取り組みの一環として、トルコのメヴリュット・チャヴシュオール外相の招待により、明日アンタルヤに向かうと述べた。「現地での会談では、ウクライナの原子力施設の安全とセキュリティ確保という喫緊の課題について、進展を図りたい。今すぐ行動する必要がある」と述べた。
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 更新15 2022年3月8日(IAEA声明仮訳)
ウクライナは本日、国際原子力機関(IAEA)に対し、約2週間前にロシア軍が現場を掌握して以来働いている約210人の技術職員と警備員を交代させることが、チェルノブイリ原子力発電所の安全管理のためにますます緊急かつ重要になっていると述べた、とラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は語った。
ウクライナの運転中の原子力発電所では職員が定期的に交代している状況とは対照的に、チェルノブイリ原子力発電所では、ロシア軍が1986年の事故現場に入った2月24日の前日から、職員が同じシフトで勤務しており、実質的には13日間そこで生活していることになると規制当局は述べている。
ウクライナの規制当局は、職員は限られた範囲で食料と水、医薬品を入手することができたとも述べているが、しかし、スタッフの状況は悪化している。IAEAに対し、現在の職員を交代させ、同施設に効果的なローテーション・システムを提供するための計画作成に必要な国際的支援を主導するよう要請した。
グロッシー事務局長は、原子力施設を運転するスタッフが休息し、規則正しいシフトで働くことが、原子力安全全体にとって重要であると繰り返し強調している。ウクライナの安全、セキュリティ、保障措置への影響に対処するために開催された3月2日のIAEA理事会において、グロッシー事務局長は、不当な圧力を受けずに意思決定を行う能力は、原子力安全とセキュリティに不可欠な7つの柱の一つであると説明している。
「チェルノブイリ原子力発電所の職員が直面している困難でストレスの多い状況や、このことがもたらす原子力安全に対する潜在的なリスクを深く憂慮している。私は、現場を実効支配している勢力に対し、そこにいる職員の安全なローテーションを早急に促進するよう求める」と述べた。
規制当局は、チェルノブイリ原子力発電所での核物質の取り扱いは当分の間、保留されることになった、と付け加えた。立入禁止区域にある同発電所には、廃止措置中の原子炉や放射性廃棄物施設がある。規制当局によると、発電所との連絡は電子メールでのみ可能だという。
同国の原子力施設を守るため、事務局長は紛争当事者からウクライナの全原子力施設の安全とセキュリティへの確約を取り付けるため、チェルノブイリ原子力発電所、またはその他の場所に出向く用意があることを表明している。
また事務局長は、チェルノブイリ原子力発電所に設置された保障措置監視システムからの遠隔データの送信が失われていることを指摘した。IAEAはウクライナの他の場所に設置された保障措置監視システムの状況を調査中であり、近日中にさらなる情報を提供する予定である。
ウクライナの運転中の原子力発電所の状況について、規制当局は、先週からロシア軍に支配されているザポロジェ原子力発電所の2基を含め、同国の15基の原子炉のうち8基が運転中で、発電所の職員は交代で勤務していると発表した。また、発電所サイトの放射線量も正常であるとしている。
◆ウクライナ原子力規制局(SNRIU)発表(2022年3月8日公開14:30<現地時間>)
◆チェルノブイリ原子力発電所施設の状況 2022年3月8日11:00時点の状況
立入禁止区域にあるすべてのチェルノブイリ原子力発電所の施設は、13日連続で侵略国の軍事支配下にあるが、同発電所の職員は、施設の安全運転を確保するため、勇敢に交代せずにその職務を遂行している。
チェルノブイリ原子力発電所のサイト内および立入禁止区域の原子力・放射線安全の状況に関する規制管理は現在、不可能である。
立入禁止区域の放射線自動モニタリングシステムの運用は、まだ復旧していない。
チェルノブイリ原子力発電所の職員から利用可能な通信手段で入手した情報によると、同発電所施設の安全パラメーターはまだ標準的な範囲内にある。
現在、発電所の固定電話や携帯電話への接続はまだ復旧していない。
鉄道や自動車など発電所への移動手段は、まだ復旧していない。
高圧線HVL-330「Lisova」の運用も復旧していない。
発電所施設のシステムおよび機器のメンテナンスや修理など、予定されていた活動は日中に職員が行わなければならないが、2022年2月24日以降、占拠のため実施されていない。また、請負業者も関わって行われる活動もできていない。
このような状況から、すでに個々の中性子束センサーやガンマ線量率センサー、放射能汚染センサーの運用の回復が不可能な状況となっている。上記の機器が作動しないため、シェルター敷地内の臨界と多くの放射線パラメーターの完全な管理が困難になっている。
安全パラメーターに関して利用可能な情報によると、特に大気中の長寿命放射性核種の濃度など、多くの指標に着実に悪化傾向があることを示している。占拠者は、発電所および立入禁止区域における放射線安全および厳格なアクセス管理の要件に著しく違反し続けており、これが発電所と立入禁止区域の放射線状況の悪化につながり、立入禁止区域外への放射能汚染の拡散を拡げている。
◆ウクライナ原子力規制局(SNRIU)発表(2022年3月8日公開10:00<現地時間>)
◆ザポロジェ原子力発電所施設の状況
ザポロジェ原子力発電所とエネルホダール市は、4日連続でロシア軍部隊の支配下に置かれている。
同発電所の2基が運転中で送電網に接続されているが、1基は予防保全作業中で、他の基は停止中である。
運転員は原子炉の状態を監視し、運転手順の要件に従って安全な運転を確保している。
ロシア軍の管理下にあるザポロジェ原子力発電所の管理者によると、運転員が発電ユニットの状態を監視し、運転手順の要件に従って安全な運転を確保している。
原子力発電所の自動放射線モニタリングシステムや管理・観測区域の自動放射線モニタリングシステムは通常モードで動作しており、原子力発電所サイト、管理区域、観測区域での放射線状況の変化は記録されていない。
2022年3月6日にザポロジェ州ヴァシリフカ地区で750kV高圧線が損傷したため、断線したままである。
ザポロジェ原子力発電所のウェブサイトは現在機能しておらず、放射線状況に関する情報はリアルタイムで一般に公開されていない。
ウクライナの携帯電話会社間で試験モードで全国的にローミングが開始されたため、ザポロジェ原子力発電所周辺を含め、モバイル通信が改善されつつある。
店への食材の供給もままならず、これまでのところインターネット接続サービスもほとんどのプロバイダーが提供していない。
私たちは、原子力発電所の職員に対する心理的な圧力や業務への干渉は、原子力と放射線の安全性に悪影響を与えることを強調する!
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 更新14 2022年3月7日(IAEA声明抄訳)
ラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は本日、ウクライナが国際原子力機関(IAEA)に対し、医療・産業用の放射性同位元素(RI)を製造する新しい原子力研究施設がハリコフ市への砲撃により被害を受けたと報告したことを明らかにした。ウクライナの原子力規制局は、砲撃による同施設の放射線レベルの上昇はなかったとしている。
ウクライナ北東部にある同施設は、研究開発とRI製造に使用されている。施設にある核物質は常に未臨界であり、放射性物質の在庫も非常に少ないため、IAEAの評価では、報告された被害による放射線の影響はないであろう、と確認したと事務局長は述べた。
しかし、日曜日の事象は、武力紛争中のウクライナの原子力施設が直面するリスクを改めて浮き彫りにし、同国の原子力安全とセキュリティ確保を目的としたIAEAの取り組みが緊急となっている。
グロッシー事務局長は、「ウクライナの原子力施設で安全性が損なわれる事態はすでに何度か起きている」と述べた。
2月27日、ウクライナは首都キエフにある放射性廃棄物処分施設の敷地にミサイルが命中したが、放射性物質の放出はなかったと発表した。これは、ハリコフ近郊にある同様の処分施設の変圧器が損傷した翌日のことであった。ウクライナによると、ロシア軍によってザポロジェ原子力発電所が占拠された3月4日には、同発電所の訓練センターに発射体が当たり、火災が発生したが、後に鎮火したという。
また、東部の港町マリウポリにある腫瘍センターなどを含む、カテゴリー1~3の放射線源を使用する企業や機関とは、引き続き連絡が取れていないと規制当局は発表した。そのため、安全とセキュリティを確認することができなかった。このような放射性物質は適切に確保・管理されないと、人々に深刻な被害をもたらす可能性がある。
「私たちは、ウクライナの原子力事故を回避し、公衆衛生や環境に深刻な影響を与えることがないよう、行動を起こさなければならない。一刻の猶予もない」とグロッシー事務局長は述べた。
事務局長は、ウクライナの原子力施設を守るため、紛争当事者から同国の全原子力発電所の安全とセキュリティへの確約を得るため、チェルノブイリ原子力発電所に出向く用意があることを表明している。
2月24日からロシア軍の管理下にある1986年の事故現場であるチェルノブイリでは、約210人の技術者と警備員のシフトがまだ機能していないと規制当局が述べた。同じ職員が12日間も現場にいる。
また、ウクライナの規制当局は本日、ザポロジェ原子力発電所に予備の部品や医薬品を届けることは現在不可能であるとIAEAに報告した。ウクライナが、発電所の管理が発電所を支配するロシア軍司令官の命令下にあると述べた翌日である。しかし、発電所の職員は交代で勤務可能であると付け加えている。
規制当局は、ウクライナの原子力発電所の15基のうち、ザポロジェの2基を含む8基が運転中であると述べた。
◆ウクライナ原子力規制局(SNRIU)発表(2022年3月7日公開14:00<現地時間>)
◆チェルノブイリ原子力発電所施設の状況 2022年3月7日13:00時点の状況
立入禁止区域にあるすべてのチェルノブイリ原子力発電所施設は、引き続き侵略者の軍事部隊の支配下にある。
12日連続で、チェルノブイリ原子力発電所の職員は、これらの施設の安全な運用を確保するために、勇敢に交代せずに職務を遂行している。
立入禁止区域の放射線自動監視システムはまだ復旧していない。チェルノブイリサイトと立入禁止区域の原子力・放射線安全に対する規制管理は、現在不可能である。
現在、発電所サイトで働いている職員との固定電話や携帯電話による通信は復旧していない。
利用可能な通信チャンネルを通じて得た発電所スタッフからの情報によると、チェルノブイリ原子力発電所の施設の安全パラメーターは当面の間、通常どおりであるとのこと。
中性子束、ガンマ線量率、放射能汚染を監視するための個々のセンサーは回復していない。この計測器が作動しないため、シェルター室の1つで臨界と多くの放射線パラメーターを完全に制御することが困難になっている。占拠により十分な保守要員や特別な機器が不足しているため、原子力・放射線安全にとって重要であるシステム機器の損傷を修理することができない。
安全パラメーターに関する入手可能な情報によれば、多くの指標、特に大気中の長寿命放射性核種の濃度が着実に悪化する傾向にあることが示されている。占拠者は、チェルノブイリ原子力発電所と立入禁止区域において、放射線安全の要件と厳格なアクセス制御手順に著しく違反し続けており、このことが、同発電所と立入禁止区域の放射線の状況を悪化させ、立入禁止区域を越えて放射能汚染を拡げる一因となっている。
昨日、2022年3月6日、占拠者は、自らを「平和の使者」として見せるために、ロシアのプロパガンダ用に別の行為に出た。特に、敵はチェルノブイリ原子力発電所サイト内に人道的支援(食料、タバコなど)を持ち込んだ。この行為は、2週間近くもロシア軍の人質となっているチェルノブイリの職員への支援とは何の関係もなく、マスコミ向けに絵を撮らせることが目的であった。チェルノブイリ原子力発電所の職員が占拠者から「助け」を受けることを断固として拒否した後、敵はロシアのメディア向けに、助けをいかに喜んで、有難く受け入れられたかを示すために、エアロックで見つけたNOVARKA のユニフォームで部隊を変装させるなどの策略に出たのである。
◆ウクライナ原子力規制局(SNRIU)発表(2022年3月7日公開11:35<現地時間>)
◆ザポロジェ原子力発電所施設の状況
10時現在、ザポロジェ原子力発電所の2基が送電網に接続されている。1基は予防保全作業中で、他は停止中である。
2022年3月6日16:06、ザポロジェ州ヴァシリフカ地区で激しい戦闘があり、750kV高圧線が損傷したため断線した
ロシア軍の管理下にあるザポロジェ原子力発電所の管理者によると、運転要員が発電ユニットの状態を監視し、運転手順の要件に従って安全な運転を確保している。
原子力発電所の自動放射線モニタリングシステムや制御および観測エリアの自動放射線モニタリングシステムは通常モードで動作している。原子力発電所サイト、制御エリア、観測エリアでの放射線状況の変化は記録されていない。ザポロジェ原子力発電所のウェブサイトは現在機能していないため、リアルタイムで掲載される原子力発電所敷地内および管理・観測区域の放射線状況についての情報は一般に公開されていない。
ザポロジェ原子力発電所の敷地内とエネルホダールには、武装した敵軍と重機が存在し、原子力発電所の職員と住民双方に心理的なプレッシャーを与えている。
町では携帯電話の接続が中断され、ほとんどのインターネット・プロバイダーが機能せず、食糧問題も発生している。こうしたことはすべて、原子力発電所職員の精神状態に悪影響を及ぼし、原子力発電所の核と放射線の安全確保に大きな影響を及ぼしている。
◆ウクライナ原子力規制局(SNRIU)発表(2022年3月6日公開08:00<現地時間>)
<ザポロジェ原子力発電所>
1号機 :送電網から切り離し済み
2号機 :980MWで運転中
3号機 :送電網から切り離し済み
4号機 :980MW で運転中
5号機 :送電網から切り離し済み
6号機 :送電網から切り離し済み
<ロブノ原子力発電所>
1号機 :送電網から切り離し済み
2号機 :425MWで運転中
3号機 :670MWで運転中
4号機 :1015MW で運転中
<フメルニツキ原子力発電所>
1号機 :980MWで運転中
2号機 :送電網から切り離し済み
<南ウクライナ原子力発電所>
1号機 :980MWで運転中
2号機 :980MWで運転中
3号機 :送電網から切り離し済み
<チェルノブイリ原子力発電所> 廃炉中
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 更新13 2022年3月6日(IAEA声明抄訳)
ラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は、ウクライナから国際原子力機関(IAEA)に対し、通常のスタッフがザポロジェ原子力発電所の運転を継続しているものの、発電所の管理は先週発電所を征圧したロシア軍司令官の命令下にあることを本日報告したと述べた。
さらに、ウクライナの報告によると、6基の原子炉の運転に関する技術的な措置を含むプラント管理に係るいかなる行動も、ロシア軍司令官の事前承認が必要であるという。
事務局長は、ウクライナ情勢がもたらす安全やセキュリティ、保障措置への影響に対処するために3月2日に開催されたIAEA理事会において、原子力安全とセキュリティに不可欠な7つの柱のうちの1つに反するものとして、この展開に重大な懸念を表明した。
原子力安全確保に関する7つの原則の3つ目は、“運転員は原子力安全・セキュリティ上の義務を果たし、不当な圧力から解放された意思決定ができる能力を有していること”とされている。
2つ目の深刻な事態として、ウクライナは、サイトにいるロシア軍が一部のモバイルネットワークとインターネットを遮断したため、通常の通信手段では現地からの信頼できる情報を得ることができなくなったと報告した。
このことは、ウクライナの原子力規制当局が、ザポロジェ原子力発電所の運営スタッフとのコミュニケーションに大きな問題が生じ始めたと、本日IAEAに報告したことで確認された。ウクライナの規制当局が、同国最大の原子力発電所との通信を維持することができたと発表してから24時間足らずで、電話回線だけでなく、電子メールやファックスも機能しなくなったと発表した。携帯電話による通信はまだ可能だが、品質が悪いという。
これは、7つの不可欠な原則の7番目である “規制当局などと信頼できるコミュニケーションが行われること“に反している。
通信の問題にもかかわらず、規制当局はザポロジェ原子力発電所の運転状況について最新の情報を提供し、同発電所の放射線レベルが正常であることを確認することができた。6基の原子炉のうち、1号機は2022年半ばまで計画定検中、2号機は現在フル稼働、3号機は冷温停止状態、4号機はフル稼働に近い状態、5号機は冷温予備状態に向けて冷却中、6号機は冷温停止状態にある。
ポジティブな動きとしては、発電所の運転チームが3交代制で回るようになったことが挙げられる。しかし、食料の入手と供給に問題があり、スタッフの士気に悪影響を及ぼしていると規制当局は述べている。
また規制当局は、チェルノブイリ原子力発電所の職員との連絡は、現時点では電子メールのみであると報告した。ロシア軍は2月24日、1986年の事故現場の発電所を征圧したのである。現地では、2月23日以降、200人以上の技術職員と警備員がまだ交代できていないという。
また、港町マリウポリでカテゴリー1~3の放射線源を使用しているすべての企業や機関との通信が途絶え、その状況についての情報がないことも懸念される、と規制当局が発表した。このような放射性物質は、適切に確保・管理されないと、人々に深刻な被害をもたらす可能性がある。
事務局長は、ウクライナの紛争当事者からウクライナの全原子力発電所の安全とセキュリティへのコミットメントを確保するため、チェルノブイリ原子力発電所に向かう用意があることを改めて表明した。
https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-13-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine
◆ウクライナ原子力規制局(SNRIU) NSAの“中性子源”を砲撃 2022年3月6日公開16:20(現地時間)
本日2022年3月6日、国立研究センター「ハリコフ物理科学研究所」の敷地内に設置された研究用原子力炉施設NSA「加速器駆動未臨界集合体中性子源」(NSA「中性子源」)が砲撃を受けた。
砲撃の結果、以下の被害が確認されている。
- 変電所RU-0.4kVが全壊
- 線形加速器クラスターギャラリーのエアコン冷却システムのケーブルが損傷
- 一部の場所では、施設の主要な建物の表面が損傷
- NSA「中性子源」の建物・構造物群の暖房ラインが損傷
- ポンプ棟、冷却塔、アイソトープ実験室の窓ガラスが破損
この被害リストは、今のところ完全なものではなく、NSA「中性子源」の職員が被害状況を確認中である。
ロシアによる侵攻の前、NSA「中性子源」は物理的な起動段階にあり、その間に炉心に新しい核燃料が装荷された。
2022年2月24日、運用担当者により、同施設は深い未臨界状態へと移行されている。
◆ウクライナ原子力規制局(SNRIU) CNPP(チェルノブイリ原子力発電所)の現状 2022年3月6日公開14:00(現地時間)
2022年2月24日午前5時、ベラルーシ共和国領内からロシア連邦がウクライナに軍事攻撃を行った結果、立入禁止区域内にあるチェルノブイリ原子力発電所のすべての施設、すなわち1~3号機(廃炉段階)、使用済核燃料貯蔵施設ISF-1、ISF-2、新安全閉じ込め構造物、放射性廃棄物管理施設が引き続きロシア軍の支配下にある。
チェルノブイリ原子力発電所の職員が、これらの施設の安全な運転を確保するために、勇気と英雄的行為をもって、ローテーションなしで役割を果たしつつ11日が経過した。
立入禁止区域の放射線自動監視システムはまだ回復していない。発電所サイト内および立入禁止区域にある原子力施設やその他施設の原子力・放射線安全状態に対する規制に基づく管理は現状では不可能である。
発電所内に残っている職員との固定電話および携帯電話による直接の通信は、まだ復旧していない。電話連絡の途絶はロシア軍による同発電所の軍事攻撃と占拠の結果である。
同原子力発電所の職員から入手した情報によると、発電所施設の安全パラメータは依然、基準値の範囲内である。
さらに、SNRIUに届いた情報によると、いくつかの中性子束センサー、閉じ込め構造物のガンマ線量率と空気中の放射能汚染を監視するセンサーが故障しており、閉じ込め構造物内の1つの施設で臨界と多くの放射線パラメータの監視が不可能になった。占拠されているため、修理のための要員や特殊機材の数が十分でなく、原子力・放射線安全にとって重要なシステム機器の損傷の修理が行われていない。
安全パラメータデータは、多くの指標で悪化傾向を示しており、特に大気中の長寿命放射性核種濃度が顕著である。占拠者側は、立入禁止区域等での放射線安全要件や厳格なアクセス管理手順に著しく違反している。特に、エアロックの使用義務、「汚染」区域を訪れる際の衣服や履物の交換、除染などの義務を怠り、立入禁止区域とその境界外の軍人と軍用機器の無秩序な移動を行っている。このことが、施設や立ち入り禁止区域の放射線状況の悪化につながり、チェルノブイリ立ち入り禁止区域外への放射能汚染の拡散を助長している。
SNRIUは引き続き、チェルノブイリ発電所の状況を監視し、入手可能な情報源から得られたデータの分析を行う。
◆ウクライナ原子力規制局(SNRIU) ZNPP(ザポロジェ原子力発電所)の現状 2022年3月6日公開10:30(現地時間)
ザポロジェ原子力発電所の原子炉2基は送電網に接続されている。1基は保守点検中で、他は停止中である。
運転員は運転手順要件に従って原子炉を監視しつつ、安全な運転を確保している。
発電所の自動放射線モニタリングシステムおよび管理・監視区域内の自動放射線状況監視システムは通常モードで作動しており、サイト内および管理・監視区域の放射線量の変化は記録されていない。
発電所サイト内に武装した敵軍がいて、発電所の近くやエネルホダールに(戦闘用)重機が存在しているため、原子力発電所職員と一般市民の双方に心理的なプレッシャーがかかっている。
携帯電話の通信が途絶え、ほとんどのインターネットサービスプロバイダーがサービスを提供できず、食料の入手と供給にも問題が生じている。こうしたことがすべて原子力発電所職員の士気に悪影響を及ぼし、発電所および放射線の安全性に重大な影響を及ぼしている。
お問い合わせ先:情報・コミュニケーション部 TEL:03-6256-9312(直通)