ウクライナの原子力発電所の状況 #21


ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 97号(現地時間202293日)[仮訳]

IAEAが 9月3日、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)の現地で報告を受け たところによると、ZNPPでは運用されていた最後の外部送電線が再び切断されたが、予 備の送電線を通じて送電網への電力供給を継続している。

ラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長が木曜日、ウクライナ南部のZNPPにIAEAザポリージャへの支援・調査ミッション(ISAMZ)を派遣してから48時間以内に、ISAMZは、ウクライナ人シニアスタッフから、ZNPPで運用されている4番目の750kV送電線が停止したことを告げられた。他の3系統は紛争中に既に失われている。

しかし、紛争地帯の真ん中にある欧州最大の原子力発電所に到着したISAMZは、ZNPPと近くの火力発電所を結ぶ330kVのバックアップ用送電線が、ZNPPで発電された電力を外部送電網に供給していることも確認した。この予備の送電線は、必要に応じてZNPPにバックアップ電源を供給することも可能である。

さらに、ZNPPによると運転中の2機のうち1機(5号機)が、送電容量制限のため3日午後に解列された。この5号機は、グロッシー事務局長が現地入りした9月1日にも内部の電気系統の故障により切断されたが、翌日には再接続されている。

ZNPPでは現在も残る1基が運転中で、冷却やサイト内のその他重要な安全機能に必要な電力を供給しているほか、送電網を通じて一般家庭や工場などに必要な電力を供給している。ZNPPは3月上旬からロシア軍により支配されているが、ウクライナ人スタッフが発電所の運転を続けている。

グロッシー事務局長は、「現地チームは、原子力発電所の外部電源の状況に影響する事態の進展や原子炉の運転状況について、直接かつ迅速に、信頼性の高い情報を入手した。私たちは既に、ZNPPを送電網に接続するための予備送電線について、かなり把握している。これは、原子力発電所の全体的な状況を把握する上で非常に重要な情報だ。」「ZNPPにIAEAが常駐することの価値は明らかで、ゲームチェンジャーになる。」と述べ、さらにIAEAはウクライナ側当局と緊密に連絡を取り合い、状況報告を受け続けているとした。

金曜日の夜に750kVの送電線が切断されたのは、8月25日にも一時的に起こったことだが、この地域で再び砲撃があったためだと、ウクライナはIAEAに別途報告している。

送電網からの外部電源による確実な電力供給およびバックアップ電源システムは、原子力安全を確保するために不可欠である。この要件は、紛争当初に事務局長が示した原子力安全とセキュリティ確保に関する7つの不可欠な原則のうちの1つである。グロッシー事務局長はウィーン帰国後の金曜夜に開かれた記者会見で、ZNPPの安全状況について、信号機風のインフォグラフィックを用い、各原則毎に半分赤、半分黄色の印をつけ、外部からの電力供給状況について懸念を表明した。

実際、8月29日からISAMZが到着する前日まで、原子力発電所への砲撃が続くなど、原子力安全とセキュリティの脆弱性は明らかだ。ZNPPの放射性固体廃棄物貯蔵施設や第1特別棟の換気パイプ、ZNPP訓練棟に被害が出ている。

ZNPPでは今後、ISAMZの専門家が、サイトでの緊急の保障措置活動に加え、プラント設備の物理的損傷の評価、メインおよびバックアップの安全・セキュリティシステムの機能性の判断、スタッフの労働状況の評価など、詳細かつ継続的な作業を実施する。

「IAEAが現場にいるのといないのとでは、昼と夜のような差がある。ザポリージャ原子力発電所の状況に強い懸念を抱いていることに変わりはないが、状況を安定させるためにはIAEAが存在し続けることが最も重要である。IAEAチームが現在、原子力発電所で極めて重要かつ勇気ある活動を行うことができることを、私は非常に誇りに思う」とグロッシー事務局長は述べた。

事務局長は来週初め、ZNPPへのミッションから得られた知見を含め、ウクライナの安全、セキュリティ、保障措置の状況について報告書を発表する予定だ。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-97-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


グロッシーIAEA事務局長の9月2日記者会見概要

グロッシー事務局長は2日、ウクライナから戻ったばかりのウィーン国際空港で会見を開いた。

ZNPPに派遣されたISAMZのメンバー14名のうち6名が引き続き現地で調査を継続しており、うち2名は調査終了後も ZNPPに常駐することが明らかになった。調査の終了時期については明言を避けたが、調査結果は6日の国連安全保障理事会で報告される。

グロッシー事務局長は、希望した場所は全て立ち入ることができたと述べたが、ロシア軍が拠点にしている危機管理センターへの立ち入りはできていない。また常駐についてZNPPの情報が直接かつ迅速にIAEAに届くことの重要性を強調した。

グロッシー事務局長が説明したZNPPの「原子力安全とセキュリティ確保に関する7つの不可欠な原則」に関し、それぞれの危険度は以下の通り。

会見の様子はこちら


©IAEA YouTube

※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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