ウクライナの原子力発電所の状況 #40
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第121号(現地時間2022年10月27日)[仮訳]
国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)のスタッフは、ZNPPで今月初めに停電が繰り返されたために一時的に非常用ディーゼル発電機による電力供給に頼らざるを得なかった経験から、脆弱な外部電源の安定化に取り組んでいると語った。
事務局長は、ZNPP駐在のIAEA専門家からの情報として、ZNPPの原子力安全・セキュリティの状況は依然として不安定であるが、過去10日間にわたり原子炉の冷却やその他の重要な安全・セキュリティ機能に必要な電力は直接かつ途切れることなくウクライナの送電網から供給されていると述べた。
さらに、ヨーロッパ最大の原子力発電所であるZNPPは現在、必要に応じて近くの火力発電所の開閉所から予備の電力を利用することもできる。開閉所は10月19日に砲撃を受けて損傷したが、翌日には修復された。最近では、バックアップ電源の状況もより堅牢になってきた。近くの火力発電所の開閉所の330kVの第二連系設備が稼働した。これにより、主要な外部電源への接続が再び途切れた際、ZNPPに電力を供給する外部の330kV送電線へのより信頼性の高い接続が確立される。
これらの改善が行われたとしても、ZNPPの電力事情は依然として脆弱であり、現在のウクライナでの軍事衝突前に4系統あった750kVの外部送電線は、現在は1系統しか稼働しておらず、いつ悪化してもおかしくない、とグロッシー事務局長は強調した。
今月初め、ZNPPの750kV送電線への接続が10日間で三度切断され、最後の接続喪失は10月17日に発生した。二度の接続喪失では、バックアップシステムも停止していたため、発電所の非常用ディーゼル発電機が必要な電力を供給した。
ZNPPサイトのエリアでは過去1週間砲撃はなかったが、サイトの周辺では依然として軍事活動が行われている。「現状に満足している場合ではない。状況はいつの時点でも劇的に変化する可能性がある」とし、ZNPP周辺の原子力安全/セキュリティ保護エリアの設定が引き続き最も重要であると事務局長は語った。事務局長はここ数週間、原子力安全/セキュリティ保護エリアの早期合意と実施を目指し、ウクライナとロシアでハイレベル協議を行っている。
ZNPPでは、ウクライナ人スタッフが引き続き運転しているが、現在はロシア人技術スタッフの方が多く現場で働いている。ロシアは、モスクワを拠点とするロシアの国家運営組織の設立に伴い、ロシアが重要な運営上の決定を行うなど、ZNPPを管理下に置いたと発表している。
グロッシー事務局長は、ZNPPをウクライナの原子力発電所とみなすと明確にしており、発電所の運転に関する指揮系統が混乱し、原子力安全とセキュリティに悪影響を及ぼす可能性に懸念を示した。
例えば、ウクライナ人のシニア運転スタッフは5号機の再稼働を計画していたが、ロシア当局が再稼働に同意していないため、現在は温態停止状態のままである。その間、5号機はサイトに蒸気を供給するために温態停止されているが、発電所スタッフによると、将来、サイトのあらゆるニーズを満たすために、別のユニットも温態停止状態にする必要があり、モスクワからの許可を待っているという。
ZNPPの乾式使用済燃料貯蔵施設に関する最近の報告に関して、事務局長は、IAEAはそこでの物理的防護システムの改善を目的として実施されている作業について認識していると語った。ZNPP駐在のIAEAの専門家は、10月14日に技術的な詳細を含むこの作業について確認した。保障措置やその他の目的のため、IAEAはこの施設へのアクセスを継続している。
これとは別にグロッシー事務局長は、ウクライナ政府からの書面による査察団の派遣要請を受け、今週IAEAの査察官がウクライナ国内の2か所で検証活動を行うと改めて表明した。
ウクライナからの要請は、IAEAの保障措置の下にあり、IAEAの査察官が定期的に訪問している2つの場所で「汚い爆弾」が製造されている可能性に関する活動についてロシアが申し立てた後に出された。今週の保障措置訪問の目的は、未申告の原子力活動の可能性や「汚い爆弾」の開発に関連する物質を発見することである。IAEAは1か月前に2か所のうち1か所を査察したが、未申告の原子力活動や核物質は発見されなかった。
グロッシー事務局長は「IAEAの査察官は、ウクライナとの保障措置協定に従ってこれらの場所で独立した検証を行い、保障措置下での核物質の転用、2つの場所での核物質の未申告の生産または加工を検出し、未申告の核物質および活動がないことを保証する」とし、「我々の検証が完了し次第、我々は、標準的な保障措置の慣行に従い調査結果を評価し、結論を報告する。この問題への関心と緊急性から、IAEAは結論をIAEA理事会にも提出し、その直後に公開する」と語った。本日、事務局長は、この問題に関する最新情報を国連安全保障理事会の非公開会合において提出する。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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