ウクライナの原子力発電所の状況 #44


ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 125号(現地時間20221111日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は本日、国際原子力機関 (IAEA)が今週、ウクライナ北東部のハリキウ市にある原子力研究施設に対する保障措置と核セキュリティの専門家による共同ミッションを実施し、現在の軍事紛争中の砲撃によって施設が大きく損傷していることを確認したが、放射性物質の放出や申告済の核物質の転用の兆候はないことを明らかにした。

ハリキウ物理技術研究所 (KIPT)への11月8~10日のミッションは、8か月以上前の紛争開始以来、IAEA がこの研究サイトを訪問したのは初めてであり、今のところ損傷を受けていない同じ都市にある RADON放射性廃棄物管理施設も訪問した。

「我々の3人の核セキュリティと保障措置の専門家は、ウクライナでの悲劇的な戦争中に大きな被害を受けたハリキウへのこの非常に重要なミッションを首尾よく完了することができた。ウクライナからは事前に、同市の原子力研究施設が甚大な被害を受けているという情報を入手していたが、実際にその施設を目の当たりにし、その困難な状況を世界に知らせることができたのは今回が初めてであった。放射線レベルは正常であったが、この原子力研究施設の損傷の程度は劇的で衝撃的であり、予想以上に深刻である。KIPT を持続的に標的にして攻撃した規模と激しさは、私が紛争当初に概説した原子力安全およびセキュリティの7つの不可欠な原則のすべてに違反している」とグロッシー事務局長は述べた。

ミッションの目的は、3月6日と6月25日を含む激しい砲撃による KIPT サイトへの損害の程度を評価し、これらの攻撃が核物質防護システムに影響を与えたかどうかを確認することであった。このミッションはまた、治安状況により現地への移動が可能になった時点で実施するというIAEAのコミットメントであった。

KIPT の研究用原子炉施設NSI「加速器駆動未臨界集合体中性子源」は、研究開発、医用/産業用のアイソトープ製造に使用されていたが、2月24日の紛争開始時に深い未臨界状態(長期停止モード)に移行し、放射性物質のインベントリは少ない。IAEA は以前、施設のインフラ、冷却システム、ディーゼル発電機の建屋に損傷があったにもかかわらず、放射線量の増加はなかったと報告している。

今回のミッションでIAEA の専門家チームは、サイトのほぼすべての建物が影響を受け、その多くはおそらく修理不能であるという、以前に報告されたよりもさらに大きな被害を目の当たりにした。

KIPT の副所長は IAEAチームに対して、このサイトは紛争当初の 3 週間だけで約100 回のミサイル攻撃と砲撃に耐え、1か月以上にわたって電力や水がない状態であったことを明らかにした。

サイトの多くの建物や施設はまだ熱も電気もなく、ほとんどの窓が壊れている。スタッフは窓を覆い、冬を迎える前に熱と電力の復旧に急いでいる。

紛争初期の激しい攻撃の間も、KIPTのセキュリティスタッフは勤務を続け、サイトの核物質防護システムを維持し、個々のセキュリティシステム、構造、部品への被害に対処し、補償すべく不測の事態への対策を実施した。

対照的に、RADON施設はこれまで紛争中に損傷を受けていないが、IAEA のチームが現地を訪れた際、遠くで繰り返される砲撃音が聞こえたという。

保障措置に関して、IAEAチームは、KIPT の燃料製造研究開発施設 (サイトの核物質の大部分を保有) の核物質のインベントリを確認することができ、昨年から変化がないことを指摘した。

KIPTの中性子源研究用原子炉は、原子炉建屋の外側が大きく損傷していたものの、内部には損傷がなかったため、IAEA の査察官は設計情報の検証を行い、施設の設計に変更はなかったことを確認したが、電力が不足しているため、核物質にアクセスしての検証はできなかった。グロッシー事務局長は、施設の電源が回復した時点で、IAEA はこの核物質の追加の検証活動を実施すると述べた。

さらに、IAEAチームは KIPT 滞在中に補完的アクセス (CA) を実施し、サイト内のすべてのホットセルを訪問したが、未申告の核物質や活動の兆候は見られなかった。

同時に、専門家はサイト全体を放射線モニターでチェックしたところ、測定値はバックグラウンドレベルかその前後で、放射線源は確認されなかった。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-125-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine



※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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