ウクライナの原子力発電所の状況 #52


ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 134号(現地時間2022122日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は12月2日、国際原子力機関(IAEA)が今週、南ウクライナ原子力発電所(SUNPP)へ原子力安全・セキュリティミッションを派遣し、ウクライナでの紛争下における原子力事故防止への取り組みを強化したことを発表した。

ウクライナからの要請で実施した本ミッションは、SUNPPの他、リウネ、フメルニツキー、先週にIAEAミッションを派遣したチョルノービリを含む同国の原子力発電所に対し、原子力安全とセキュリティ面を支援するIAEAミッションの一環。

グロッシー事務局長は11月29日、ブカレストでウクライナのドミトロ・クレバ外務大臣と会談し、IAEAがこれらの原子力発電所でプレゼンスを強化することを確認した。事務局長は3月下旬にもIAEAミッションを率いてSUNPPを訪問している。今回のSUNPPへのミッションでは、IAEAの専門家チームが初めて数日間現地に滞在し、原子力安全・セキュリティの状況や発電所側のニーズについての理解を深めた。

ザポリージャ原子力発電所(ZNPP)では、IAEAは過去3か月間継続してミッションを実施しており、現在4名の専門家が駐在している。

SUNPPへのミッション派遣の期間中、IAEAチームは発電所の管理者とスタッフに会い、原子力と放射線安全、核セキュリティ、緊急時対応、物資調達、コミュニケーション等で実地調査と聞き込みを行った。

IAEA専門家は、SUNPPのスタッフが度重なる空襲警報が発令されるなど、戦時下の非常に困難な状況にもかかわらず、高いプロ意識で手順通りにプラントを運転していることを確認した。

また、11月23日の外部電源の喪失とその後のウクライナのエネルギーインフラへの攻撃によって引き起こされた2基の原子炉の運転停止について、より多くの情報を得た。サイトの非常用ディーゼル発電機は、原子力安全・セキュリティのシステムを維持するための電力を供給することはできたが、オフサイトとの連絡体制にも影響があった。

IAEAチームはまた、物資調達と予備部品の管理を評価し、ウクライナの規制当局を通じて以前に要請された支援機器のリストを見直した。これにより、サイトのニーズに対し、IAEAが原子力安全・セキュリティに関してどのようにさらなる支援を提供できるかについての理解が深まった。

IAEAチームの評価は、SUNPPへIAEAが継続して支援するフォローアップ・ミッションへの、重要な情報提供となる。IAEAのリウネとフメルニツキー両発電所への最初のミッションは、来週実施される。

ZNPPでは、1 系統の750kV送電線を介して外部電力を受け続けており、近くの火力発電所の開閉所から 1系統の330kVバックアップ・ラインも利用可能である。

さらにZNPP サイト管理者によると、火力発電所の開閉所への330kV送電線を修復中であり、ウクライナの支配地域からの750kVおよび 330kVの送電系統喪失が発生した場合に備え、追加のバックアップ電源系統を早急に準備する必要があるとの情報提供がロスアトムからあったという。サイト管理者から、さらに2系統の330kV送電線も復旧する可能性があると報告されたが、期限は示されていない。喪失した750kV送電線の復旧計画に関する情報はない。

近郊のエネルホダル市では、公共施設、家屋、アパートの暖房を提供するために、最大70台もの可搬式ディーゼル・ボイラーが徐々に配備されている。現在、これらのボイラーは地元の学校、幼稚園、病院で稼働している。最大7台もの可搬式ディーゼル・ボイラーが ZNPPサイトにも配備されつつあり、サイトの建屋内を加熱する予定で、1台が到着し、さらに3台が本日到着する。

6基の原子炉のうち4基は冷温停止状態にあるが、残る2基は温態停止状態にあり、プラントに蒸気を供給し、エネルホダルに熱を供給することが可能である。エネルホダル市はまた、ZNPPおよび火力発電所の開閉所システムを経由して、外部電源から電力を受け続けている。

今週、ZNPPの主任技師であるユーリ・チェルニチュクが発電所長に任命されたことが、ZNPPサイトおよびロシア連邦によって発表された。ウクライナの運転事業者エネルゴアトムはこの人事を否定し、ドミトロ・ヴェルビツキーを発電所長代行に、イホール・ムラショフを主任技師に任命したが、彼らはサイトにいない。

グロッシー事務局長は、IAEAがZNPPをウクライナの施設と見なしていることを繰り返し述べ、原子力安全とセキュリティに悪影響を及ぼす可能性があるプラントでの指揮系統に関する明らかな矛盾を示す意思決定状況について懸念を表明した。

11月20日以降、ZNPPサイト自体への砲撃はなかったが、サイト近郊で数発の砲撃があった。サイトの20台のディーゼル発電機のうち1台への電源ケーブルの修理が完了するなど、現場での砲撃によって引き起こされた損傷を修復するための作業が続けられている。

グロッシー事務局長は、ZNPP周辺の原子力安全/セキュリティ保護エリアの設定にできるだけ早く合意し、実施することを目的として、ウクライナとロシア双方とハイレベルで議論を続けている。

11月中旬、IAEA が対応支援ネットワーク (RANET) を通じて組織した、4度目となるウクライナの原子力施設への支援物資がウクライナに搬入された。この配送は、フランスのオラノとEDFからの寄付により調達された。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-134-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine



※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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