ウクライナの原子力発電所の状況 #58
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第141号(現地時間2022年1月13日)[仮訳]
ラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は来週ウクライナを訪問し、同国のすべての原子力発電施設にIAEAの原子力安全・セキュリティ専門家を常駐させ、戦時中の原子力事故防止に向けた国際原子力機関(IAEA)の取り組みを大幅に強化する。
グロッシー事務局長は、南ウクライナ原子力発電所とリウネ原子力発電所、およびチョルノービリ・サイトを訪れ、各施設にIAEA専門家2名を常駐させる計画だ。IAEAはすでに、ウクライナ最大の原子力発電所であるザポリージャ原子力発電所(ZNPP)に最大4名の専門家を常駐させており、今後、フメルニツキー原子力発電所にも2名の専門家を常駐させる予定である。
グロッシー事務局長は、「この悲劇的な戦争が2年目に入るなか、ウクライナ国内外にさらなる苦しみと破壊をもたらす重大な原子力事故の危険を回避するために、引き続きあらゆる努力をしなければならない。IAEAは間もなく、チョルノービリを含むウクライナのすべての原子力発電施設に常駐することになる。この非常に困難な時期にウクライナを支援するための活動において、これは重要なステップである。私たちの原子力安全/セキュリティ専門家は、発電所の状況を監視し、設備その他の必要性を評価し、技術支援や助言を行い、その結果をIAEA本部に報告する」と述べた。
ウクライナの要請を受けて設置され、先月行われたグロッシー事務局長とシュミハリ首相の会談で合意したウクライナの原子力発電所への新たなミッションにより、IAEAは常時、約11~12人の専門家を同国に配置することになる。IAEAのミッションはこれまでも紛争中にこれらのサイトに派遣されていたが、チームの常駐は大きな意味を持つ。
グロッシー事務局長は来週、首都キーウでウクライナ政府高官と会談し、IAEAチームが4カ月以上駐在しているZNPP周辺の原子力安全/セキュリティ保護エリアの設定についても話し合う予定。
事務局長は「私は、保護エリアの設定をできるだけ早く実現させるという決意を持ち続けている。ウクライナやロシアとの協議は、ゆっくりだが着実に進展している。」と述べた。
今週、ZNPPでは、数週間前から滞在していた前チームに代わり、新たに3名のIAEA専門家チームが到着した。昨年9月1日にザポリージャ支援ミッション(ISAMZ)が発足して以来、同サイトでのIAEAチームは5番目となる。
ISAMZの報告によると、先週切断されたZNPPの330kV予備送電線が復旧したが、ZNPPの外部電力が引き続き脆弱であることに変わりわない。ZNPPの6基の原子炉はすべて停止中であるが、発電所は、最後に稼働していた750kVの主外部電源から、原子力の安全とセキュリティ機能に必要な外部電力が引き続き供給されている。外部電源が失われた場合、サイトの20台の非常用ディーゼル発電機はすべて、全安全関連機器に必要な電力をサイトに供給する準備ができている。さらに、9台の移動式ディーゼル燃料ボイラーが稼働中で、冬季のZNPPの重要なシステムの凍結を防ぐとともに、ZNPPのスタッフに暖房を提供している。
これとは別に本日、グロッシー事務局長は、「ZNPPの人員削減は、進行中の戦争による心理的ストレスと、現地から逃れた家族の不在と相まって、NPPスタッフにとって前例のない苦難を生み出している」と述べ、ZNPPのスタッフが直面しているプレッシャーについて、原子力の安全とセキュリティに影響を及ぼしかねないという深刻な懸念を改めて表明した。
ZNPPのスタッフは、ロシアの国営企業ロスアトムとの新しい労働契約を受け入れるよう引き続き要求されているが、ウクライナの国営企業エネルゴアトムは、拒絶するよう求めている。
ISAMZチームは、このような課題があるにもかかわらず、プラントには、現在のプラントの機能レベルですべてのユニットの安全な運用を維持するのに十分な発電所スタッフがまだ存在する、と通知した。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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