ウクライナの原子力発電所の状況 #71


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第154号(現地時間2023年4月21日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は本日、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)に駐在する国際原子力機関(IAEA)の専門家がこの1週間ほぼ毎日砲撃音があり、この地域での継続的な軍事活動による潜在的な危険性のため、一時避難するよう指示されたことを明らかにした。

グロッシー事務局長は、IAEAチームによるウィーン本部への報告は、ウクライナ南部地域や同国内の他の場所で差し迫った軍事的攻防の憶測が高まるなか、軍事衝突中に欧州最大の原子力発電所であるZNPPが直面している深刻な原子力安全とセキュリティのリスクをさらに強調するものであると指摘した。

グロッシー事務局長は、「3週間ほど前にZNPPを訪問した際、この地域で軍事的な準備がなされていることをはっきりと確認した。それ以来、現地にいる我々の専門家は、爆発音を頻繁に報告し、時にはサイトからそれほど遠くない場所での激しい砲撃を耳にしている。私はZNPPの状況を深く憂慮している」と述べた。

グロッシー事務局長はまた、現地の危険な状況により、施設への攻撃がないよう、また施設が攻撃のために使われないよう、プラントの保護を訴え続けなければならないと述べた。同事務局長は、ウクライナとロシアとの交渉を継続している。

原子力安全とセキュリティのリスクに加え、ZNPPは、原子炉の冷却やその他の安全上必要な機能維持に必要な外部電力を唯一機能している750キロボルト(kV)の送電線に依存し続けている。紛争前プラントには、このような外部の送電線は4系統あった。

3月1日にロシアが支配するZNPPのドニプロ川対岸で損傷したバックアップ用の330kV送電線はまだ修理されていない。ウクライナは、軍事行動により専門家が自国の支配地域にある場所に安全にアクセスし、送電線を修理することができない状態であるとしている。

近くのザポリージャ火力発電所(ZTPP)が330kVの開閉所を運営しており、過去にはこの開閉所を通じてZNPPにバックアップ電源が供給されていた。ロシアは先月、現在ロシアが支配する地域で330kVの送電線3系統を系統システムに復旧させるべく、ロスアトムが開閉所から損傷した機器を取り除く作業を行っていると報告した。IAEAチームは、状況を評価するために現地に赴く予定である。

IAEAチームはまた、ZNPPの現状がプラントのメンテナンス能力に大きな影響を及ぼしていることを報告している。プラント幹部はIAEAの専門家に対し、メンテナンススタッフの減少や作業の大部分を担う外部業者の不在、重要な部品を含むメンテナンスに必要なスペアパーツの不足により、2022年の全基停止中に行われたメンテナンスの範囲が計画よりも狭かったことを報告した。ZNPPでは現在、通常のメンテナンススタッフの約4分の1しかいない。新しいスタッフが採用されているが、彼らが完全に訓練されるまでには時間がかかる見込みである。同発電所によると、必要なスペアパーツの相当なリストが最近、ロスアトムに提出された。

スタッフの大幅削減の結果、ZNPPには現在、体系的なメンテナンスと運転中検査のスケジュールがない。原子炉ユニットの再稼働に先立ち、プラント状況を評価し、安全上重要なすべての構造物やシステム、コンポーネントについて、運転前のメンテナンスまたは必要な交換に関する勧告を行うロスアトム傘下のエンジニアリング部門からアドバイスを受けることを検討している。このメンテナンス/交換作業は、こういったタイプのメンテナンス作業を行うことができるロスエネルゴアトムを利用して実施するとみられている。

「このことは、現在のサイトの状況が、原子力安全およびセキュリティの7つの不可欠な原則、この場合、安全とセキュリティシステムおよび設備、物流サプライチェーンに関する原則2および5に対して、引き続き有害な影響を与えていることを改めて示している」とグロッシー事務局長は指摘している。

IAEAチームはまた、4号機のタービン建屋の窓ガラスに既報の地雷爆発によるものとは矛盾するような広範囲な損傷を確認した。IAEAチームは、この損傷の原因を明らかにする。 

よりポジティブな話として、ZNPPの原子炉冷却用の水を供給するカホフカ貯水池の水位が、過去2か月の間に徐々に上昇し、4月21日には16.2メートルと通常のレベルに戻っている。

気候が徐々に暖かくなり、6号機を冷温停止状態に切り替え、同機は週末までに同状態に到達する見込みである。これにより、5号機のみが温態停止状態となり、サイト用に温水と蒸気を生産する。この2基は冬の間、ZNPPに蒸気や暖房を供給するため、また、多くのプラント関係者が住む近隣の都市エネルホダルに暖房を供給するために、温態停止状態となっていた。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-154-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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