ウクライナの原子力発電所の状況 #75
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第158号(現地時間2023年5月19日)[仮訳]
国際原子力機関 (IAEA) のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長が本日明らかにしたところによると、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)のスタッフのほとんどが居住するエネルホダル近郊が砲撃を受けたと伝えられており、同地域の軍事情勢はますます緊迫している。
事務局長によると、エネルホダルからわずか数キロに位置するZNPPに駐在していたIAEA専門家によると、発電所そのものは影響を受けていない。しかし砲撃地域と距離的に近いことから、今後の軍事作戦への憶測が高まる中、原子力安全とセキュリティへの悪影響が懸念されている。
グロッシー事務局長は、15か月にわたる紛争中にたびたび砲撃を受けた欧州最大の原子力発電所であるZNPPの防護を確保する決意を改めて表明し、この重要な目的を達成するために関係者全員との懸命な交渉に取り組むことで、欧州における重大な原子力事故のリスクを防ぐようにしていると述べた。
「ごく簡単なことである。発電所に発砲してはならないし、発電所を軍事基地として使用してはならない。紛争中に発電所を防護するための一連の原則に同意することは万人の利益になるはずだ」と事務局長は述べた。
昨年2月にウクライナで武力紛争が始まって以来、同発電所では従業員数が大幅に減少しており、紛争中の最前線地域では発電所従業員とその家族が極めて困難でストレスの多い状況に直面している。
最近エネルホダルから一部の住民が避難したことで、今後の人員配置状況が見通せなくなり、今月初めにIAEAの専門家は発電所の人員を必要不可欠な人員のみにさらに削減することを確認した。しかし、5月15日には通常の日勤スタッフが発電所に戻り、平日は仕事を続けているが、労働力の規模は依然として紛争前の水準をはるかに下回っている。
「IAEAの専門家は今週、発電所の人員が顕著に増加していることを確認した。現時点では、すべての原子炉が停止モードにある発電所に十分な人員がいる。しかし、必要なメンテナンスやその他の定期的な作業を行うには、依然として不十分であることは明らかである。発電所がこの種の人員削減を長く続けるほど、原子力安全とセキュリティのリスクは増大する。 状況は依然として持続不可能である。」とグロッシー事務局長は語った。
潜在的な原子力安全とセキュリティのリスクをさらに強調しているが、ZNPPは原子炉の冷却やその他の重要な原子力安全とセキュリティの機能に必要な外部電力を、現在も機能している唯一の750kV送電線に依存している。紛争前、発電所にはそのような外部送電線が4本あった。3月1日にドニプロ川右岸で損傷した、最後に機能していたバックアップ330 kV送電線はまだ修復されていない。
現地のIAEAチームは、ロシア国営原子力会社ロスアトムによる確約を受けて、近くのザポリージャ火力発電所(ZTPP)へのアクセス獲得問題について関係者との協議を続けている。 ZTPPは330 kVの開閉所を運営しており、過去にはそこを通じてバックアップ電力がZNPPに供給されてきた。さらに、グロッシー事務局長は、IAEAチームはZNPPのタービンホールに完全にアクセスできるよう取り組んでいると述べた。
IAEAの専門家はまた、ZNPPに冷却水を供給するカホフカ貯水池の高さの監視を続けている。貯水池の高さは過去1か月間で大幅に上昇し、5月6日には過去最高レベルの17.12mに達しており、発電所に悪影響を与える可能性があるとの懸念が高まっていた。現在の高さは17.06mで安定している。ZNPP敷地の標高は22mで、現在の貯水池の高さより約5m高い。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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