ウクライナの原子力発電所の状況 #76
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第159号(現地時間2023年5月22日)[仮訳]
国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)が今朝ほど数時間にわたり外部電源を喪失したことを明らかにし、ZNPPの原子力安全およびセキュリティの状況が極めて不安定であり、ZNPPを保護し事故を未然に防ぐことが急務である、と強調した。
グロッシー事務局長によると、15か月前に始まったウクライナでの軍事衝突以来、欧州最大の原子力発電所であるZNPPが国内送電網から切り離されたのは今回で7度目。原子炉の冷却やその他の原子力安全・セキュリティに不可欠な機能に必要な電力を、再び非常用ディーゼル発電機に頼らざるを得なくなった。
ZNPPに駐在するIAEA専門家によると、ZNPPに唯一残る750kVの外部送電線は、現地時間の午前5時30分頃に切断され、5時間以上経ってから再接続された。
「今朝の外部電源の喪失は、ZNPPの原子力安全およびセキュリティが非常に脆弱な状況にあることを示している。繰り返し申し上げているように、放置するわけにはいかない。我々は火遊びをしている。欧州における原子力発電所の事故というまさに現実的な危険と、それに伴う公衆および環境への悪影響を避けるために、今すぐ行動しなければならない」とグロッシー事務局長は述べた。
続けて同事務局長は、「私は、ZNPPの保護を確保するために、あらゆる関係者と厳しい交渉を続けている。これが達成されるまで、私は諦めない」「外部電源の利用と確保を含む、軍事衝突中にZNPPを保護するための一連の原則について合意を得ることをめざしている」と述べた。
紛争の始めに事務局長が示した原子力安全とセキュリティ確保のための7つの不可欠な柱では、原子力サイトで外部電源(送電網)からの電力が確実に供給されることの必要性も強調している。
グロッシー事務局長によると、ZNPPは、3月1日にドニプロ川右岸で最後まで機能していた330kVの送電線が損傷して以来、稼働可能なバックアップ送電線はない。このバックアップ送電線はまだ修理されていないため、750kVの送電線が失われると、発電所は直ちに電力供給の最後の砦であるディーゼル発電機に頼ることになる。
グロッシー事務局長は、「2か月半以上、ZNPPでは外部送電線が1系統しか機能していない。これは前例がない、他に類を見ない危険な状況である」とし、「ZNPPでは、原子力安全の基本である「深層防護」が著しく損なわれいる」と危機感を露わにした。
グロッシー事務局長は、ZNPPのバックアップ電源の復旧に向けた取組の強化を呼びかけるとともに、IAEAチームが近隣のザポリージャ火力発電所(ZTPP)へのアクセスを確保する必要性を改めて強調した。ロシア国営原子力企業ロスアトム社がZTPPへのアクセスを保証しているにもかかわらず、まだ実際のアクセスが許可されていない。ZTPPは330kVの開閉所を運営しており、過去にはこの開閉所からZNPPにバックアップ電源が供給されていた。
今朝の外部電源喪失後、ZNPPにある20台のディーゼル発電機はすべて稼働を開始したが、その後必要な8台を除く12台の発電機を停止。すべてのシステムが安全に稼働している。現地のIAEA専門家は、23日分のディーゼル燃料があるとの報告を受けている。その後、750kVの送電線復旧後、残りのディーゼル発電機も徐々に停止された。
ZNPPの6基中5基は、本日の外部電源喪失前にすでに冷温停止状態となっており、5号機も温態停止状態から冷温停止状態に移行する準備が進められていた。外部電源の復旧に伴い、5号機は温態停止状態に戻されている。
また本日、南ウクライナ原子力発電所(SUNPP)に駐在するIAEAの専門家チームによると、同発電所で3基中1基が緊急停止した。発電所幹部はIAEAチームに対し、系統の障害や不安定さが原因で自動停止が発生したと報告した。SUNPPではまだ外部電源が利用可能である。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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