ウクライナの原子力発電所の状況 #82


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第165号(現地時間2023年6月11日)[仮訳]

国際原子力機関 (IAEA) のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は本日、ザポリージャ原子力発電所(ZNPP)の6基の原子炉と使用済燃料貯蔵施設を冷却するための水を供給する貯水池の水位の高さの測定値に大きな相違があることから、その理由を明らかにするために、IAEAの専門家がZNPPの周辺エリアにアクセスする必要があると指摘した。

カホフカ貯水池の水位は、下流のダムが5日前に破壊されて以来、急激に低下しているが、ZNPPからの今週末の報告では、近くにあるZNPPで使用するための放水路に水を汲み上げているザポリージャ火力発電所(ZTPP)の取水口で測定したところ、約一日は水位が安定していたという。

しかし、IAEAの専門家が現場で受け取ったデータによると、現地時間の本日午前9時までに、ZTPPで測定された水位は11.27mと推定され、ダムが破壊される前の17m前後から低下している。巨大な貯水池の他の場所では水位が下がり続けていると報告されており、ZTPPが報告した水位と約2mの差がある可能性がある。水位の高さは、ポンプの稼働を継続させるための重要な要素である。

グロッシー事務局長は、「この測定値の不一致は、貯水池の大きな水域から離れた孤立した水域が原因である可能性がある。しかし、実際に火力発電所にアクセスしてみなければ分からない」と述べた。

ZTPP付近の貯水池の現在の高さでは、ポンプは引き続き稼働が可能である。現時点では、ZTPPの水路とZNPPの近くの大きな貯水池の両方が満水で、数か月分の冷却に必要な水を十分に蓄えているため、連続運転はしていない。ZNPPの貯水池とZTPPの放水路はともに、冷却水の供給を継続するために不可欠なものであり、事務局長はそれらの健全性を維持することがプラントの安全性に重要であることを再度強調した。

「火力発電所は、数㎞離れたZNPPの安全とセキュリティのために重要な役割を担っている。私は、IAEA専門家がすぐにでも現地に赴き、状況を独自に評価することを期待している。また、私自身もこの重要な問題をZNPPで取り上げるつもりだ」とも述べた。

今週、キーウとZNPPを訪問する予定の事務局長は、IAEAとしてZTPPの電力開閉所にアクセスすることを要求していると繰り返し強調した。ZTPPの開閉所は過去、ZNPPのパックアップ電力として利用されていたが、最後に残った330㎸の送電線は3か月以上前に切り離された後、未だ利用できない。欧州最大の原子力発電所であるZNPPは今、外部電源を唯一残る750㎸の送電線に全面的に依存しており、2022年2月の戦争開始以来繰り返し切断されている。

ここ数か月、ZNPPは発電してはいないものの、潜在的なメルトダウンや放射性物質の漏洩リスクを避けるべく、冷却やその他の安全機能に必要な水と電力へのアクセスを必要としている。

ZNPPは現在、全6基中5基が冷温停止状態にあり、5号機のみがサイト内に蒸気を供給するため温態停止状態を維持している。ZNPPでは、5号機が冷温停止状態になっても、サイトに必要な蒸気を供給するため、独立した蒸気ボイラーを設置することも検討している。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-165-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine

◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第164号(現地時間2023年6月9日)[仮訳]

国際原子力機関 (IAEA) のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は本日、ザポリージャ原子力発電所(ZNPP)に冷却水を供給する貯水池の水位が低下し続けていることを受け、今週発生したダム災害の破壊的状況に対処するため、ウクライナに重要な支援を提供することを発表した。

グロッシー事務局長は、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領からの国際的な支援要請を受け、来週キーウで行われる会談でIAEAの新たな支援パッケージの詳細を提示すると述べた。また同事務局長は、ZNPPにも訪問する。

15か月以上前に武力衝突が始まって以来、IAEAはウクライナの原子力事故防止に向けた取組を支援している。さらにIAEAは今後、原子力利用に関する専門性とリソースを活用して、被災地の他の地域でもウクライナを支援していく。

同事務局長は、「原子力の活用を通じて、飲用水、保健、土壌・水管理への影響を見極め、 重要インフラの健全性を評価していく。ウクライナは今、この災害の長期的な影響に対処するうえで、我々の支援を必要としている」と述べた。

6月6日未明のダム決壊により、カホフカ貯水池の水位が急速に低下し、ZNPPで既に不安定な原子力安全とセキュリティの状況がさらに悪化していることから、事務局長が予定しているZNPP訪問ミッションの重要性が高まっている。

ZNPPに駐在するIAEA専門家らによると、貯水池の水位は毎時約5㎝の割合で低下し続けている。本日の現地時間午後7時の水位は11.62mであり、およそ4日前にダムが損傷する前のおよそ17mから低下している。

検討の結果、ZNPPの関係者はIAEAに対し、水位が11mあるいはそれ以下になるまで6基の原子炉と使用済燃料の冷却用に貯水池からプラントへの取水は可能であると見ている、と報告した。

グロッシー事務局長によると、カホフカ貯水池がどの水位で安定するのか、ポンプが作動できなくなるレベルに達する前に安定するのか、未だ不明であるという。

しかし、代替水の主な供給源であるZNPPに隣接する大型貯水池と近くのザポリージャ火力発電所(ZTPP)の放水路は、いずれも満水状態である。

グロッシー事務局長によると、IAEAチームは、ZTPPの放水路には今後数週間、ZNPPに必要な冷却水を提供できるだけの十分な水量がある、と報告を受けたという。さらに、大型貯水池は数か月間、ZNPPに水を供給することができる。

ZNPPの貯水池とZTPPの放水路はいずれも、冷却水を供給し続けるために不可欠であり、同事務局長は、これらの健全性を維持することがプラントの安全性にとって重要であると繰り返し強調した。

これを鑑み、ZNPPでは、大型貯水池を囲む堤防の外側で大量の水が失われたことで、水圧が高まっていることから、堤防の状態を慎重に監視している。

グロッシー事務局長は、「短期的な脅威はないとは言え、原子力安全とセキュリティが既に極めて脆弱であり、軍事衝突中で潜在的な危険がある時期に、ダム災害はZNPPに大きな新たな困難を引き起こしている」「この地域での軍事行動の活発化は、欧州最大の原子力発電所であるZNPPの安全性とセキュリティに対する懸念を深めている」と述べた。

こうしたなか、IAEAの専門家らは今朝も爆発音などの、戦闘行為を耳にしている。

ZNPPの原子炉のうち5基は冷温停止状態、1基は温態停止状態にあり、サイト内に蒸気を供給している。

ZNPPによると、5号機の温態停止状態での運転をいつまで続けるかは、利用可能な水の供給状況次第であるという。プラントは、6基すべての原子炉が冷温停止状態になった場合に備えて、サイト内で必要な蒸気供給のため独立した蒸気ボイラーを設置することを検討している。

IAEAはまた本日、ウクライナ規制当局のSNRIUが6月8日、5号機を冷温停止状態にするよう命令を発出したとの報告を受けた。

これとは別に、現在ZNPPを掌握するロシアがグロッシー事務局長宛の書簡のなかで、木曜日と本日、ZTPPの開閉所に対して“自爆ドローンを用いた攻撃”が行われたと通告。この開閉所は、3か月以上前に330kVの最後のバックアップ送電線が損傷するまで、ZNPPへのバックアップ電力の供給用に使われていた。

グロッシー事務局長は、IAEAはこの情報を独自に評価するために、ZTPPの開閉所へアクセスする必要がある、と述べた。

同事務局長が5月30日、国連安全保障理事会で発表したZNPPを守るための5つの基本原則では、発電所からの攻撃や発電所に対する攻撃はあってはならない。また、重火器の貯蔵や基地として使用されないこと、外部電源が危険に晒されないことなどが挙げられている。

グロッシー事務局長は、「来週の訪問ミッションでは、現地での事態の活発化に伴い、駐在する専門家チームを強化する予定である。5つの原則の遵守を監視するため、彼らが必要なアクセス権を得ることを希望する」と述べた。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-164-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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