ウクライナの原子力発電所の状況 #84


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第167号(現地時間2023年6月21日)[仮訳]

国際原子力機関 (IAEA) のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長が本日明らかにしたところによると、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)は、今月初めの下流ダムの破壊によりカホフカ貯水池で大量の水が失われたが、利用可能な水の汲み上げを再開する予定である。

過去2 週間にわたり、欧州最大の原子力発電所であるZNPPは、近郊のザポリージャ火力発電所 (ZTPP) の放水路から必要な冷却水が供給されている。これは、ダムが6月6日に深刻な被害を受けて以来、水位が急降下した貯水池とは別のものである。

この放水路からの水は、停止した6基の原子炉と使用済料貯蔵施設を冷却するZNPPのスプリンクラー冷却池に供給される。この水はまた、発電所にある別の大型冷却池の枯渇を防ぎ、満水状態を維持している。その結果予想通り、この水路の水位は 1日当たり最大10cmずつ低下しており、現在は17m強と測定されている。この水路の水は依然として何週間にもわたってプラントへの供給が可能と予測されている。また、現場に駐在するIAEA専門家チームは発電所側から、ZNPPのスプリンクラー冷却池も、池の水域にある地下水由来の排水システムから汲み上げられているとの報告を受けた。

ZNPPは現在、ダム損傷前は通常行われていたZTPP取水路から水を汲み上げるか、ZNPP港の水域から水を汲み上げることにより、ZTPP放水路に水を補充する準備を進めている。 港からの水の汲み上げは、貯水池の水位が ZTPP取水路から水を供給できるレベルを下回った場合に備えて、港の底を浚渫して水を確保することにより数か月前から実施されている。

追加の水を放水路にポンプで送り込むことで、大型冷却池の使用に迫られるまで、ZNPPにさらに多くの時間の猶予が与えられる。

グロッシー事務局長は先週、ますます困難になっている原子力安全とセキュリティの状況を評価するためにZNPPを訪れ、「大型冷却池、スプリンクラー冷却池、放水路を合わせると、数か月間は十分な水が蓄えられるが、ZNPPも、これらの貯留量を可能な限り維持し、補充するための措置を講じている。また、水を入手する別の方法も模索している」と述べた。

ZNPPがこのような水関連の課題に取り組んでいる一方で、現在ロシアが管理するZNPPの位置するウクライナ南部地域でのウクライナ軍の反転攻勢を受け、軍事情勢はますます緊迫している。

IAEAは、5月末に国連安全保障理事会でグロッシー事務局長が定めた、軍事紛争中に原子力発電所を保護するための5つの基本原則の順守を監視するため、ZNPPでの存在感を高めている。

原子力発電所が直面する潜在的な危険に加え、ZNPPでは、ウクライナでの軍事紛争前には外部送電線が4系統であったが、原子炉の冷却やその他の重要な原子力安全とセキュリティ機能に必要な外部電力を、唯一稼働中の750kV送電線1系統に依存している。

ZNPPは、最後に残った予備の330 kV送電線がほぼ4か月前に切断されたため、750 kV送電線が再び失われた場合に備えるべきバックアップ電力が不足した状態である。これは軍事紛争開始以来、繰り返し起きている。ZNPPにウクライナ当局から通告された再接続予定日は守られていない。グロッシー事務局長は先週、ZTPPの330kV開放開閉所を訪問し、以前の事故によるものと思われる重大な損傷を確認し、また、この地域を標的とした攻撃型ドローンの一部であるとされる残骸も確認した。

IAEAは、冷却池の近くに地雷が敷設されたという報告も受けている。グロッシー事務局長の訪問中、冷却池を含め現場では地雷は確認されなかった。しかしIAEAは以前に報告したように、プラント周囲の外側に地雷が敷設されたことを確認しており、また、プラントの警備要員が防護目的であると説明した内部の特定の場所にも地雷が敷設されていたこと確認している。「我々の評価では、爆発物の存在は安全基準に適合していないが、施設の主要な安全機能には重大な影響は及ぼさないということで、我々はこの問題を細心の注意を払って注視している」とグロッシー事務局長は語った。

「ZNPPにおける原子力安全とセキュリティの状況は非常に脆弱である。カホフカ貯水池の損害は地域全体にとって大惨事であり、この巨大な原子力発電所にとっても深刻な困難をさらに増大させた。今、すべての当事者はこれまで以上に、原子力事故を防ぐために構築されたIAEAの基本原則を完全に遵守する必要がある。私たちは原子力安全とセキュリティの確保に向けた取り組みを強化するとともに、被災地域への支援も提供していく」とグロッシー事務局長は付け加えた。

IAEAは、ウクライナの他の主要原子力施設にも専門家チームが常駐している。 IAEAは今月初め、他の原子力発電所からチョルノービリのサイト内にある使用済燃料集中貯蔵施設への使用済燃料の輸送が開始され、リウネ原子力発電所からの最初の使用済燃料が5月にチョルノービリ・サイトの敷地に到着したと報告した。

グロッシー事務局長によると、リウネからチョルノービリへの最近の輸送は、ウクライナの保障措置協定に沿ってIAEAに事前に通知され、必要なすべての保障措置と検証活動が実施された。

使用済燃料はキャスクへの積み込み中に検証され、使用済燃料がリウネ原子力発電所のキャスクに入れられた瞬間から、最終目的地であるチョルノービリの使用済燃料集中貯蔵施設に至るまでIAEAの保障措置の下に置かれた、と同事務局長は付け加えた。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-167-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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