ウクライナの原子力発電所の状況 #85
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第168号(現地時間2023年6月30日)[仮訳]
ラファエル・マリアーノ・グロッシーIAEA(国際原子力機関)事務局長は本日、IAEAの専門家の話として、ザポリージャ原子力発電所(ZNPP)に埋設されている地雷などの爆発物について目に見える痕跡はこれまでのところ確認されていないものの、さらなる立ち入り調査が必要であることを明らかにした。
IAEA専門家チームは本日、大型冷却池の外周の一部や近くのザポリージャ火力発電所(ZTPP)の放水路の隔離ゲートなど、プラントの冷却システムの一部を視察することができた。3週間以上前に下流のカホフカ・ダムが破壊されたが、この放水路と冷却池は、ZNPPが必要とする貯水量を保持している。
IAEA専門家らはまた、6基の原子炉とサイト周辺の他のエリアで定期的な調査を実施している。タービン建屋の一部や冷却システムの一部など、さらなるエリアの立ち入り調査が予定されている。
以前指摘したように、IAEAは冷却池付近の地雷を含め、ZNPP内あるいはその周辺に地雷などの爆発物が仕掛けられているという報道を承知している。
グロッシー事務局長は、「そのような報道すべてを非常に深刻に受け止めており、現場の専門家らに対して、本件を調査し、業務遂行に必要な立ち入りを要請するよう指示している。これまでに、地雷などの爆発物は確認されていないが、さらなる立ち入り調査が必要である」と述べた。
同事務局長が先週述べたように、10か月で3回目の訪問となる6月15日のZNPP訪問の際、地雷は確認されなかった。しかし、IAEAは以前にも報告したように、プラントの外周に地雷が仕掛けられていたことや、プラント敷地内の特定の場所にも地雷が仕掛けられていた事実を把握している。
グロッシー事務局長が5月30日の国連安全保障理事会で提唱した欧州最大の原子力発電所(ZNPP)の保護のための5つの基本的な原則は、プラントから攻撃しない、またはプラントを攻撃しない、プラントを多連装ロケットランチャー、大砲システムと武器弾薬、戦車などの重火器の貯蔵所、基地として使用しないことなどを提示している。
グロッシー事務局長は、「私たちは、5つの原則に違反していないことを確認するために、完全な立ち入り調査の実施が必要であり、原子力発電所が重火器や軍需品の貯蔵や基地として使用されるべきではないことを含め、私たちがこの任務を遂行できるよう、原子力安全とセキュリティに不可欠なすべてのエリアへの必要な立ち入りを要求し続ける」とした。またIAEAチームからは過去1週間、砲撃や爆発を報告されておらず、現場での軍の動静に変化はないようだとも述べた。
「紛争中にプラントを守り、重大な原子力事故を防ぐために最も重要なこれらの原則の遵守を監視するため、IAEAは現地駐在体制を強化している」と同事務局長は述べた。
カホフカ・ダムが6月6日に決壊し、貯水池の水位が急激に低下して以降、ZNPPは、特にZTPPの放水路など、サイト付近やサイト内に蓄えられている水に依存している。
グロッシー事務局長は、「現在、ZNPPの6基は、サイトの排水システムから汲み上げた地下水を使用し冷却を継続している」と述べた。その他に必要な水については最近、ZTPPの放水路ではなく、サイトに隣接する大きな冷却池を使用するよう切り替えた。
その結果、ZNPP冷却池の水位は、サイトでの利用と蒸発によって1日あたり最大1㎝ずつ低下しているが、排水システムからの水もこの池に補給されているため、水位の低下速度は遅くなっている。現在の池の水位は、16.5m強である。
前回の第167号に示されたとおり、ZNPPは6月23日、ZTPPの取水路(以前は貯水池に直接接続されていたが、現在は貯水池から切り離されている)から放水路に水を送り込むため、通常の循環ポンプを稼動させたが、水位が低すぎてポンプを稼動させることができなかったため、すぐに停止せざるを得なかった。このような試みは6月8日以来初めて。
グロッシー事務局長は、冷却池の使用を開始するまでは1日に約10㎝ずつ水位が下がっていたZTPP放水路に、小型の水中ポンプを使って取水路から水を引き込み、水を補給する準備をしていると述べた。最近の降雨と涼しい天候にも助けられ、その水位は現在17 m弱で安定している。
これらの既存の、有限な資源を保護するために、ZNPPはまた、原子力安全とセキュリティ機能に必要のない水の消費を可能な限り抑えている。
「現在、このサイトには数か月分の十分な貯水量があるとはいえ、長期にわたって十分な水を確保するためには、今すぐに行動する必要がある。ZNPPはこの問題に対処しようと取り組んでいるが、それは複雑な取組であり、先週も我々はそれを改めて目の当たりにした」とグロッシー事務局長は述べた。
ZNPPは、原子炉の冷却やその他の安全機能に必要な電力を、今では稼働中の750kVの外部送電線1系統に依存している。ウクライナ紛争前には4系統あった。この送電線が再び損傷した場合(ここ数か月何度も起こっているように)、原子力発電所には現在、原子炉と使用済燃料プールを冷却するための水を汲み上げるために必要な電力を賄うための非常用ディーゼル発電機しかない
ZNPPの6基中5基が冷温停止中である。5号機は、サイトに必要な蒸気を生産するため温態停止状態が維持されている。IAEAの専門家らは昨日、5号機の中央制御室を訪れ、温態停止状態を確認した。専門家らはまた、どのようなタイプの外部蒸気発生器を設置し、5号機の冷温停止を可能にするかを決定するため、評価作業中であると伝えられたという。IAEAはまた、ウクライナの規制当局が、5号機を冷温停止状態で維持することを含め、ZNPPのいくつかの原子炉の認可に変更を加えたことも承知している。
IAEAはまた、ウクライナの他の原子力発電所にも専門家チームを常駐させ、紛争中の原子力安全とセキュリティを維持する取組を支援している。
6月13日、南ウクライナ原子力発電所の非常用ディーゼル発電機用予備部品が納入された。これらの部品は、非常用ディーゼル発電機のメンテナンスと機能維持に不可欠なものであり、外部電源喪失による原子力事故の防止に寄与する。今回の納入は、5月5日にIAEA、フランス、ウクライナのエネルゴアトム社の間での合意事項に沿ったもの。追加の予備部品も、間もなく納入される予定である。
IAEAは昨日、欧州連合(EU)の支援を受けて調達した、ウクライナ非常事態庁用の除染ユニット5台の機材搬入の調整を実施した。紛争中に行われる機材搬入は今回で19回目。さらに5台が別の資金で調達され、ウクライナへの搬入を待っている状態だ。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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