ウクライナの原子力発電所の状況 #91


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第174号(現地時間2023年7月20日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシーIAEA(国際原子力機関)事務局長は本日、IAEAの専門家らが先週、ザポリージャ原子力発電所(ZNPP)で追加の検査と立ち入りを実施、これまでのところ、重火器や爆発物、地雷は確認されていないものの、未だ原子炉建屋の屋上への立ち入りが許可されていない状況であることを明らかにした。

7月初めの1号機と3号機に続き、IAEAの専門家らは7月17日に2号機、その翌日に4号機の原子炉建屋を視察した。いずれも、中央制御室や原子炉建屋、使用済燃料プール、緊急時制御室、安全システムの配線室、タービン建屋を確認した。

専門家らは、1、2、4号機のタービン建屋で輸送トラックを目撃したが、爆発物や地雷の痕跡は確認できなかった。特に関心の高い3、4号機を含む原子炉の屋上とタービン建屋への立ち入りは、未だ許可されていない。IAEAは引き続き、このような立ち入りを要請する。

グロッシー事務局長が5月30日の国連安全保障理事会で提唱した5つの基本的な原則は、プラントから攻撃しない、またはプラントを攻撃しない、プラントを多連装ロケットランチャー、大砲システムと武器弾薬、戦車などの重火器の貯蔵所、基地として使用しないことなどを提示している。

IAEAチームはこの1週間、爆発音を聞かなかったと報告したが、その前週は、爆発音がほぼ毎日発生していた。このことは紛争の最前線に位置するこの地域の不安定なセキュリティ状況を浮き彫りにしている。

IAEA専門家らは、6月上旬に下流のカホフカ・ダムが破壊され、その後発電所近くの巨大な貯水池の水量が減少したため、ZNPPの6基の原子炉を冷却するための水や、その他の原子力安全とセキュリティに不可欠な機能に関する状況を引き続き注意深く監視している。

IAEAチームの報告によると、利用可能な水の供給量は比較的安定しており、使用と蒸発により水位は1日あたり1cm程度減少している。このサイトでは、何か月かは十分な水を確保できる。

専門家らは7月13日、プラントの冷却に必要な主な水源の一つである大型の冷却池を訪れ、隔離ゲートの完全性と漏水がないことを確認した。また、隔離ゲートの外側に追加の補強バリヤーを設置することで、隔離ゲートをさらに強化する作業も視察した。

この1週間、チームはサイトのもう1つの主要な水源であるザポリージャ火力発電所(ZTPP)の放水路にも赴き、その隔離ゲートの完全性を確認するとともに、放水路から冷却池に水を送る小さな水路の壁を強化する作業にも立ち会った。

約6週間前にダムが破壊されて以来、ZNPPはサイトの冷却池からの水やZTPPの放水路、排水システムからの地下水に頼っている。プラントは、カホフカ貯水池から供給されていたZTPPの取水路から、水中ポンプを使ってZNPP用に水を追加で確保する努力を続けている。しかし、この水路に残っている水は、地下水の流入に限られているようだ。

さらに、既存の井戸の水は、サイトの小規模なスプレー・ポンドへの補給に使用することができる。IAEAチームは、代替水源として別の井戸を建設するのに適した場所を探す作業の一環として、サイト境界外の場所で試験孔の掘削が行われたことを知らされた。プラントは現在、その場所が適切かどうかを判断するため、水量と水質を分析している。

グロッシー事務局長は、「カホフカ・ダムの破壊は、信頼できる水源として巨大な貯水池の消滅につながりかねない事態だが、ZNPPは残された水源を確保すること、そして新たな水源を見つけることの両方について、さまざまな活動を行ってきた」と述べた。

プラントは、4号機を冷温停止状態から温態停止状態に移行させるための準備を別途進めており、IAEAの専門家らに対し、移行開始前に予定されていた4号機に関する試験はすべて成功裏に終了したと報告した。これが完了すれば、現在温態停止中の5号機は、冷温停止中にのみ可能な予防保全活動を実施するため、冷温停止状態となる。他のユニットは引き続き冷温停止状態にある。

サイトでは、温態停止状態にある1基の原子炉から発生する蒸気を、貯蔵タンクに溜まっている放射性廃液の処理など、さまざまな原子力安全目的のために使用している。しかし、IAEAの専門家らはZNPPに対し、必要な蒸気を発生させるための外部ボイラーを設置するオプションを調査するよう勧告している。これによりすべての原子炉を冷温停止状態にすることができる。ウクライナの国家規制当局であるSNRIUはすでに、6基すべての運転を冷温停止状態に制限する規制命令を発出している。

冷却水を汲み上げるため、またその他の原子力安全/セキュリティに不可欠な機能に必要な外部電力供給について、ZNPPは750kVの主要送電線1系統とバックアップ供給用の330kV予備送電線1系統へのアクセスを維持している。グロッシー事務局長は、紛争以前は750kVの送電線が4系統あったことを指摘したうえで、「持続可能な安全運転には十分ではない」と述べた。

今年1月以降、IAEAはウクライナの他の原子力発電所(フメルニツキー(KhNPP)、リウネ(RNPP)、南ウクライナ(SUNPP)、チョルノービリ(ChNPP))にも常駐している。IAEAチームの報告によると、各サイトは困難な状況にもかかわらず、運転と燃料交換のスケジュールを維持している。また、4つのサイトで原子力安全やセキュリティに関連する問題がないことも確認された。IAEAは今週、チョルノービリでチームの人員交替を実施し、他のサイトでもまもなく交替が実施される予定である。

IAEAは来週、病院や産業界など幅広い民生用放射線源の安全性とセキュリティの確保を支援する活動の一環として、キーウとハリキウに実態調査ミッションを派遣する。

「ウクライナにおける放射線源の安全およびセキュリティに関するIAEA支援/援助ミッション(ISAMRAD)は、ウクライナの放射線源に関する放射線安全および核セキュリティの状況を評価するとともに、設備やその他必要要件を特定するものである。これは、ウクライナの要請に応じてIAEAが提供するもう一つの重要な支援分野である」とグロッシー事務局長は述べた。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-174-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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