ウクライナの原子力発電所の状況 #93
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第176号(現地時間2023年7月29日)[仮訳]
ラファエル・マリアーノ・グロッシーIAEA(国際原子力機関)事務局長は本日、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)が計画されていた5号機の冷温停止への移行を完了し、4号機を温態停止に移行したことを明らかにした。
ZNPP は、冷温停止時にのみ可能な保守作業を実施するために、4号機と5号機の状態を変更した。4 号機が温態停止に移行してから3日後の昨日の朝、5号機が冷温停止に移行し、4 号機が供給する蒸気が現在、ZNPPの廃水処理に使用されている。他の原子炉は引き続き冷温停止状態にある。
現場に駐在するIAEA専門家らは、必要な蒸気の供給に原子炉ではなく外部ボイラーを新設し利用するオプションを調査するようZNPPに勧告しており、これによりサイトがすべての原子炉を冷温停止状態にすることができる。以前に報告されたように、ウクライナの国家規制当局であるSNRIUは、6基すべての運転を冷温停止状態に制限する規制命令を発出している。
昨日、IAEAチームは5号機を訪問し、原子炉容器、使用済燃料プール、蒸気発生器を視察した。チームは、すべての機器が正常な状態にあるとの見方を示した。視察に制限はなく、地雷や爆発物も確認されていない。
しかし、木曜日の現場周辺の立ち入り調査中に、チームは7月23日に発見した地雷が設置されたままであることを確認した。IAEAはまた、ZNPPの原子炉建屋の屋根とタービン建屋への立ち入りを引き続き要求している。
ここ数日間、IAEAチームは時折爆発音を聞いた。それぞれ発電所からの距離はまちまちである。グロッシー事務局長は5月30日、国連安全保障理事会で定めたZNPP保護のための5つの基本原則を遵守することが最も重要であることを改めて強調し、原子力発電所からの、あるいは原子力発電所に対する攻撃があってはならず、また重火器(多連装ロケットランチャー、大砲システムと武器弾薬、戦車)の保管場所または基地として原子力発電所が使用されるべきではないと強調した。
「ZNPP付近での軍事活動のリスクが増大すると、この大規模施設の原子力安全とセキュリティが危険にさらされる。公衆衛生と環境に潜在的な影響を与える原子力発電所事故につながる可能性のある行動を自制するよう、あらゆる関係者に呼びかける」とグロッシー事務局長は述べた。
そして、「欧州最大の原子力発電所であるZNPPを確実に保護するために設定されたこれら5つの基本原則は、これまで以上に厳格に遵守されなければならない。原子力事故を防ぐことは誰にとっても有益なはずだ」とあらためて指摘した。
ZNPPに駐在するIAEA専門家は、6月初旬に下流のカホフカダムが破壊され、それに続いてZNPP付近の巨大な貯水池が枯渇したことを受けて、ZNPPの原子炉6基を冷却するための水やその他の重要な原子力安全・セキュリティ機能の利用可能性に関する状況を引き続き注意深く監視している。
IAEAチームの報告によると、利用可能な水の供給は比較的安定しており、サイトの冷却池の水位は使用と蒸発により1日当たり約1cmずつ低下している。ザポリージャ火力発電所 (ZTPP) の取水路からZTPPの放水路に水を汲み上げるために、水中ポンプが定期的に使用されてきた。今週の揚水作業と大雨により、ZTPP放水路の水位は約25cm上昇した。このサイトでは数か月間は十分な水量を確保している。
7月27日、IAEAチームは冷却池エリアの視察を実施し、港の近くの試験掘削現場を訪問した。そこでは、その場所が井戸としての要件を満たしているかどうかを判断するため、水質と流量の検査が実施されている。
IAEAの専門家は冷却塔エリアと近郊のZTPPの放水路の隔離ゲートも視察したが、地雷や爆発物は確認できなかった。しかし、チームは追加の障壁の建設の進捗状況を見るために冷却池保持ゲートには立ち入れなかった。チームには、建設が完了したことのみが知らされた。
過去に軍事活動によって被害を受けたオフサイトの放射線モニタリング機器の1つが今週初めに修復され、稼働を再開した。ただし、SNRIUへのオンラインデータ送信はまだ機能していない。暫定措置として、オフサイトの放射線モニタリングのデータは手動で IAEAチームに提供され、IAEAチームはサイト独自の放射線モニタリングも定期的に実施している。外部データとチーム独自の測定値は、IAEAによって IAEAの国際放射線監視情報システム(IRMIS)にアップされている。
チョルノービリ(ChNPP)、リウネ(RNPP)、フメルニツキー(KhNPP)、南ウクライナ(SUNPP)、の各原子力発電所のIAEAチームからは、過去1週間、原子力安全・セキュリティに関連する問題は報告されておらず、現場では何も異常を確認していない。今週、RNPP、KhNPP、SUNPPの原子力発電所でIAEAチームのローテーションが完了した。
以前に報告されたように、IAEAは先週、ウクライナで放射線源の安全とセキュリティに関する支援/援助ミッション(ISAMRAD)を実施した。同ミッションでは、この分野における将来のニーズと優先事項を特定するための基礎となる情報を収集した。原子力安全と放射線源のセキュリティの分野における技術支援および支援のための戦略も策定される予定である。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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