ウクライナの原子力発電所の状況 #94
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第177号(現地時間2023年8月4日)[仮訳]
ラファエル・マリアーノ・グロッシーIAEA(国際原子力機関)事務局長は本日、IAEAの専門家らが3日午後に許可を得て、ザポリージャ原子力発電所(ZNPP)3,4号機の原子炉建屋とタービン建屋屋上への立ち入りを行ったところ、地雷や爆発物は確認されなかったことを明らかにした。
再三の要請後、チームは両号機の屋上に制限なしで立ち入りを行い、タービン建屋の屋上をはっきりと確認することができた。チームは引き続き、ZNPPの残る4基の屋上についても立ち入りを要請する。
グロッシー事務局長は、現在の軍事紛争の間、欧州最大の原子力発電所であるZNPPを保護するための5つの基本原則が完全に遵守されていることを監視するため、IAEAの専門家らがZNPPの全てのエリアにいつでも立ち入り可能であることの重要性を強調した。
同事務局長は、「IAEA専門家らがようやく、現地での追加の立ち入りが認められたというニュースを歓迎する。軍事紛争中に原子力安全とセキュリティを支援するIAEAの取組を継続するためには、タイムリーで独立した客観的な現場での事実の報告が極めて重要である」と語った。
3日の屋上への立ち入りは、IAEAの専門家らが再び戦闘の最前線をかいくぐり、ZNPPでの9回目のチーム交替が無事なされた直後に行われた。
交替の前夜、チームは、プラント周辺で一連の爆発音を耳にしたことを報告した。チームはZNPPから、これらの爆発によるサイトや近隣の工業地帯、エネルホダル市への影響はないと報告を受けた。
グロッシー事務局長は、ZNPPが直面する原子力安全とセキュリティの潜在的リスクを改めて浮き彫りにする事態だとしたうえで、「公衆の健康や環境に影響を及ぼしかねない原子力事故につながり得るいかなる行動も慎むよう、全ての関係者に改めて呼びかける」と述べた。
IAEAチームは先週、ZNPPで追加の査察や巡回を実施した。8月1日にサイト境界内を巡回した際、チームは、7月23日に初めて確認された地雷がまだ設置されていることを確認している。過去1週間の巡回中に、新たな地雷や爆発物は確認されなかった。
5号機では7月28日の冷温停止後、原子炉や燃料を保護する安全系の検査や試験、熱交換器の洗浄など保守作業が開始された。しかし、IAEAチームは、ZNPPのスペア部品の在庫が限られ、また保守スタッフが大幅に減少していることから、5号機で計画されている保守活動が実施できるか不安視しており、より完全な情報を提供するよう、再三要請している。
ZNPPに駐在するIAEAチームは、6基を冷却する水の利用を注意深く監視し、その他の原子力安全およびセキュリティ機能の実施を継続している。ダムが破壊されて以降、ZNPPはサイトの冷却池やザポリージャ火力発電所(ZTPP)の放水路、排水システムからの地下水に依存している。ZNPPの冷却池の水位は、1日あたり約1㎝の割合で減り続けている一方、ZTPPの放水路の水は、主に地下水からZTPP取水路に流入し続けており、定期的に補充されている。何か月もの間、十分な水が利用可能である。
8月2日、IAEAチームは、6月に下流のダムが破壊された後、冷却池とカホフカ貯水池を隔てる隔離ゲートが機能しているかどうか調べるため、冷却池エリアの巡回を実施した。その結果、隔離ゲートはコンクリートブロックと土で補強され、その厚さは最大4mに達しており、問題ないことが確認された。
また冷却池では、チームは港近くに掘られた井戸の試験掘削現場を訪れ、水質と流量に関する初期試験の実施を確認した。さらなる追加試験の結果が良好であれば、ZNPPサイトは井戸の直径を拡張し、井戸への水の流量を増やす計画である。井戸が完成すれば、プラントはポンプと配管を設置し、原子炉の冷却に不可欠なスプレーポンドに水を供給する。チームはまた、ZNPPサイト内に追加の井戸を掘削する計画であることも知らされた。
さらに、IAEAの専門家らは巡回中、冷却池エリアとサイト敷地内エリアの放射線モニタリングを実施した。測定データは、IAEAによってIAEA国際放射線モニタリング情報システム(IRMIS)にアップロードされる。全ての放射線レベルは通常どおりであった。
これとは別に今週、フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所、およびチョルノービリ・サイトのIAEAチームによると、この1週間、原子力安全とセキュリティに関連する問題は発生していない。またIAEAは本日未明、チョルノービリでのチームの交替を無事実施した。
以上
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
お問い合わせ先:情報・コミュニケーション部 TEL:03-6256-9312(直通)