ウクライナの原子力発電所の状況 #96


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第180号(現地時間2023年8月22日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は本日、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)で来月から、サイト内に新しい井戸を掘削する予定であることを明らかにした。この夏の初めにカホフカダムが破壊され、原子炉6基の十分な冷却を確保する取り組みの一環。

6月6日に下流のダムが決壊し、その後ZNPPが冷却に使用していたカホフカ貯水池の水の多くが消失したため、欧州最大の原子力発電所であるZNPPは本体を防護するための措置を講じざるを得なくなった。サイトに隣接している大きな冷却池を含め、利用可能な水は不足しており、代替の水源を探し始めている。

サイトに駐在するIAEA専門家チームによると、新しい井戸は地質専門家との協議の結果、発電所のスプリンクラー池に近い場所が選択され、すでに稼働している。現在1時間当たり約20mの水を供給している。ZNPPは、スプリンクラー池の周囲にさらに10~12 個の井戸を掘削する予定である。

なお、敷地内の大きな冷却池と、もう1つの主要な水供給源である近くのザポリージャ火力発電所(ZTPP)の放水路は無傷のままであるという。ZNPP冷却池の水位は1日当たり約1cmずつ低下し続けるが、冷却使用と自然蒸発により失われた水を補うために、ZTPP取水路からの水が定期的に放水路にポンプで送られる。これにより、数か月間は十分な水量を確保している。

グロッシー事務局長は、「ZNPPは、約10週間前のカホフカダムの喪失によって引き起こされたさらなる課題に対処するため、措置を継続している。さらに多くの井戸が掘削されることで、冷却に利用できる水量が増えるはずだが、原子力安全とセキュリティの全体的な状況は依然として不安定である」と語った。

紛争の最前線に位置するこの発電所の潜在的なリスクを強調しながら、IAEAチームは、この地域での軍事活動の定期的な兆候について報告を続けている。たとえば、8月14日には強い爆発が起きて部屋の窓が揺れ、2日後には銃声が聞こえた。8月17日にはサイト近くで別の爆発が発生し、8月20日にはZNPPから少し離れた場所で5度の爆発音が聞こえ、8月21日にはさらに5度の爆発音が聞こえた。

「人々と環境に影響を与える可能性のある原子力事故を防ぐためには、ZNPPを保護するための5つの基本原則が尊重され、遵守されることが引き続き最も重要である」とグロッシー事務局長は述べた。

ZNPPでの監視活動の一環として、IAEA専門家らは数日中に1、2、5、6号機原子炉建屋の屋上への立ち入りが可能になると予想している。8月上旬、チームは3号機と4号機への立ち入りを実施したが、屋上やタービンホールに地雷や爆発物は一切確認されなかった。

IAEAチームはまた、サイト全体での定期的な実地調査も継続して実施している。たとえば、過去10日間、IAEA専門家は、冷却池と冷却塔、発電所の周囲とスプリンクラー池、3号機の中央制御室/緊急制御室およびその他の安全関連室、3号機と4号機の原子炉ホール/メインポンプ/蒸気発生器/安全システム室、6号機の原子炉ホール、メインポンプ/蒸気発生器/安全システム室を訪問した。さらに8月14日、IAEAチームはZNPPの2番目の新燃料貯蔵施設を訪れ、新燃料が安全かつ確実に保管されていることを確認した。IAEA専門家は新たな爆発物は確認していないが、以前に報告された地雷が境界フェンスの間の同じ場所に残っていることを確認している。

6号機は、温態停止状態に移行した8月13日以降、液体放射性廃棄物の処理を含む、プラントでの様々な原子力安全目的のため蒸気を生成しており、以前4号機で生成された蒸気に代わって利用されている。8月10日、ZNPPは4基の蒸気発生器のうち1基で水漏れが検出されたことを受け、4号機を温態停止から冷温停止へ移行させた。4号機の蒸気発生器の水漏れに起因する環境への放射性物質の放出はなかった。

後に現場で確認されたように、水漏れの原因は蒸気発生器一次ヘッダーベントパイプの溶接部のヘアライン亀裂によるものであった。先週、現場ではパイプの溶接が行われ、その後蒸気発生器の圧力試験が実施されたとの報告をIAEAチームは受けた。一次系と二次系を含む最終テストが進行中である。

IAEAは引き続き、プロセス蒸気の外部供給源の設置を強く奨励し続けている。これは、原子力安全の観点から、現場で最も安全な長期的な解決策となる。IAEAはこの問題への支援を申し出ている。この方向での可能性のあるステップとして、IAEAチームによると、ZNPPは候補となるベンダー各社に技術要件を送信し、外部の蒸気発生器購入に向けたプロセスを開始したという。

これとは別に、IAEAは、ほとんどのZNPP職員が居住している、近郊のエネルホダル市で8月18日朝に爆発があり、負傷者も出たという報告を受けている。IAEAの専門家は、発電所職員の被害については聞いておらず、ZNPPサイトでも被害は報告されていない。

ウクライナ北部では、8月19日朝、チェルニーヒウ市でミサイル攻撃があり、数名の死者と多数の負傷者が出たとの報告があった。この都市は、チョルノービリ原子力発電所(ChNPP)の作業員のほとんどが居住するスラブチチから約40kmのところに位置しているが、作業員の中にはチェルニーヒウ自体に居住する者もいる。IAEAの専門家は職員に負傷者が出たという情報を聞いておらず、ChNPPの現場では被害はなかった。しかし、ChNPPのIAEAチームは、スタッフが被災地に住む家族や友人のことを非常に心配していると知らされた。

グロッシー事務局長は、こうした事象がウクライナ紛争の初期に概説した原子力安全とセキュリティの7つの不可欠な原則の1つに影響を与える可能性があるとして懸念を表明した。

「3番目の原則は、運営スタッフが原子力安全とセキュリティの義務を遂行でき、不当なプレッシャーを受けずに意思決定を行う能力を持っていなければならないと規定している。ウクライナの原子力施設を危険にさらしているのは、物理的構造物への損傷だけではなく、運営スタッフへの心理的影響もある。だからこそ、この悲惨な戦争が続く中、IAEAはウクライナと協力して、原子力施設内およびその周辺において、カウンセリングサービスを含む医療支援をウクライナに提供しているのである。これは重要な任務であるが、本当の解決策は紛争を終わらせることである。」と事務局長は述べた。

IAEA専門家は、ZNPPとChNPPのサイトでの駐在に加えて、ウクライナの他の原子力発電所でも常駐を続けている。IAEAは先週、リウネ(RNPP)、フメルニツキー(KhNPP)、南ウクライナ(SUNPP)の原子力発電所でチームのローテーションを実施しており、今週はChNPPの現場でもローテーションを実施する予定である。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-180-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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